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1.8 必要なもの:その4

「アリス、次は雑貨を見に行きたい」

「わかりました……ただ、だいぶ日も傾いてきましたので少し急ぎましょうか」


 アリスに連れられ、本日最後の目的地である雑貨屋へ向かう。



 途中、街の景観を見ながらテクテクと移動すること数分、結弦は何気なく視線を逸らすと驚愕の物体が視界に入った。


 ――この世界において俺に最もインパクトを与えたあのちんちくりんの石像が大通りのど真ん中に鎮座しているのである。


「アリス、あれはいったい……」

「知らないのですか? このグラジオラスで国教とされているクロノス教の御神体をモチーフにしたものですよ。この国では、子が五つになる日に教会へ赴き、洗礼を受けるのが習わしなのですが……存じませんか?」


 クロノス? 確かあいつは自分をフィリアと言っていた気がするが……気のせいだったかな?


「そうなのか、初めて聞いたよ。――それで、そのクロノス教とやらはどういった宗教なのだ?」

「かいつまんでお話しますと、今から千年ほど昔、この世界では神族と悪魔族と竜族が三すくみの関係でいがみあっており、当時は弱小種族であった人族は洞窟の中で肩身を狭くしていたと言われています。そんな中、神族の長であるクロノス様、正しくはフィリア・ミラ・クロノス様が三種族の主戦派をまとめて異界に封じ込めたとされています。それにより人族は怯えて暮らす日々を捨て去り、こうして繁栄できたというのがこの地における伝承で、これを奉る教えをクロノス教と呼んでいます。――と言っても、魔物は依然、世界中に跋扈(ばっこ)していますし、今となっては信仰自体形骸化(けいがいか)している節もありますが………」


 やはりアレは森で出会った『ちんちくりん』の石像で間違いないらしい。しかしクロノス様か……ないない。


 俺を異世界に転生できるんだから、世界に干渉できるほどの神様なんだろうけど、いまいち凄さがわからん。――俺にとってはただのちんちくりんだし。


「ありがとう。これからも俺の知らない事は色々教えてくれると助かる」

「はい、ご主人様の助けとなれるようこれからも日々励みます」

「あぁ、それと急いでいるのに道草食ってすまないな。本格的に日が沈み始めたし、さっさと雑貨屋へ行って宿を取ろう」

「そうですね♪」



「ここがこの街で品揃えという面では随一の雑貨屋となります」

「さっきの装備屋に迫る大きさだな」

「そうですね。この店は商人ギルドも経営しているので、他では見ることのない様々な地方の品が手に入ります。――店構えもそれに合わせたのでしょう。ただ、お値段が少々張りますのでお買い物は必要最低限にするのが得策かと思います」

「あぁ、わかった」


 懐は十分に余裕があるし、一度に買い揃えられるという点ではむしろこちらの方が助かる。――流石はアリスだ。


 とりあえず早急に必要なものは、リュックに水筒、洗濯用品、後は木製の食器なんかもあれば買っておきたい。


 それからアリスと一緒にあーでもないこーでもないと長い時間を掛けて必要な道具を選んだ。



 結局、会計を済ませて店を出た頃には、日が暮れて夜の街並みへと変化していた。


「すみません、また私の分も買っていただいて。――この分は今夜、しっかりとお勤めさせていただきます」


 ついでだったのでアリスのために、髪留めや(くし)、手鏡などを買ってやった。

 いちいち恐縮されたが流石に慣れてきた。ただ、この後は飯と宿を取って寝るだけだと思うのだが……なにかあったかな?


「かまわない。それよりもアリス、買い物が思ったより時間を食ってしまったから早く宿を取りに行こう。――適当な所に案内してもらえるか?」

「そうでした。宿に関しては私が幼いころの知り合いが経営している店に心当たりがあります。案内しますね」

「わかった」



 雑貨屋から十分ほど歩いて結弦たちは、アリスの知人が経営していると言う『奏玉亭』という店に来た。


 随分とこじんまりとしているが、部屋の空きはあるのだろうか。


「ごめんください。――宿を取りたいのですが、まだ部屋の空きはありますでしょうか?」


 呼びかけると店の奥からかなり恰幅の良いおばさんがでてきた。


「いらっしゃ……あれ? もしかしてアリスかい?」

「お久しぶりです、おば様」

「あんた家が取り潰されて奴隷に落ちたって聞いていたけど……まさか逃げてきたのかい?」


 どうやら奴隷から逃げ出したと思われているらしい。――まぁこの世界では身なりの良い奴隷はいないみたいだし、疑って当然か。


「いえおば様、私は本日付けでこちらのユヅル様と契約をさせて頂きました。――初日から様々なものを恵んでいただき、私にはもったいないご主人様です」


 いきなり奴隷持ちの主人とバレてしまう。昔の知り合いみたいだし、ちょっと女将さんに話しかけにくくなった。


「そうかい。――あんたがそう言うなら、いい人に拾ってもらえたんだね」

「はい!」


 どうやらそんな気にすることでもなかったみたいだった。

 ――っていかんいかん。このままだと長い長い世間話にもつれ込みそうだ。


「横から口を出して申し訳ありませんが、今日は一日歩き回って疲れているので、一旦寝床と夕飯の確保をさせてもらえないでしょうか」

「あらごめんよ……私はマーテル、ここを経営している女将だよ。――もちろん部屋は空いているから泊っていってくれてかまわないさ。食事もアリスがいることだしウチで取ればいいさ」


『交流:《マーテル》を識別した』


 《ステータス》

 _____________________

 名前:マーテル 38歳♀

 レベル:12

 ジョブ:宿屋(店主)

 装備:無し

 所持金:銀貨28枚

     銅貨12枚

 スキル:接客

     料理

     算術

 魔法:無し

 _____________________


 交流欄に女将のステータス情報が追加された。――やはり、対象を意識し且つ、名前を聞く必要があるみたいだ。


「ありがとうございます。食事についてもよろしくお願いします。――後、アリスからも紹介がありましたが、彼女の主人で冒険者の結弦と申します。しばらくはこの街に滞在するので、以後よろしくお願いいたします」

「あいよ。じゃあウチのルールを説明するかね。まず宿代は一日当たり銀貨三枚、食事は一食銅貨五枚だが……まぁアリスがいる事だし二人で銅貨五枚にしようか。ただし、代金は先払いで頼むよ」

「わかりました。とりあえず五日はいると思うのでその分をお支払いいたします」


 女将さんにスィード金貨一枚と銀貨七枚、銅貨を五枚渡し、部屋の鍵を受け取る。


 この世界の常識として、奴隷は護衛のために同じ部屋に泊まるか、野宿らしい。当然、野宿をさせるつもりはないので、一緒の部屋となる。


 いや~ 今日は一日がとても長く感じた。――それでも最終的にはベッドのある夜が迎えられるのだから御の字と言えるだろう。


 異世界に来てからというもの、おっさん達とのむさ苦しい夜が常であった為、結弦はベッドのふかふか具合に至福の時を感じた。


 結弦たちは適度に休憩した後、店で買ったものを袋から取り出し手早く仕分けをした。――というのもアリスには必要なものをさっさと渡し、女将さんの手伝いに向かわせたかった。


 ――さっきは話を途中でぶった切ってしまったからな。

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