3.15 断罪の姫君と降臨する時空神
久々の投稿で少々長話になってしまいました。
近いうちに3章も一度調整します。
ガキィィン!!
雲一つない晴天の中、振り下ろされた鋼鉄の刃は少女の柔肌、僅か十センチ上で一振りの剣によって行く手を阻まれていた。
どういう訳か両手両足を鎖につながれたアリスに王国兵が剣を振り下ろしており、それを目の当たりにした結弦は思考する間もなく反射的に剣を振り抜いていた。
「なっ!」
「おいおいフィリアさん? この展開はちょっと予想外なんだが……」
『そう? 気を利かせてこっそりと神剣を持たせてあげたのよ?』
当事者たちのスリリングな思いなど露知らず、全てを識っていたフィリアはこの未来も想定内で実にいつも通りの受け答えをする。
相変わらず、彼女の考えていることは読めない。今回は割と危機一髪だったというのに……
結弦が間一髪でアリスを救った扉の先はこの都市が一望出来るバルコニーとなっており、アリスに手を掛けようとした王国兵の他に少なくとも三十は下らない兵士が詰めかけていた。
「とりあえず間に合って何よりだ。アリス、今楽にしてやるかな?」
「んむぅ!?」
自由に身動きが取れないアリスは突然現れた結弦に驚きを隠せない。
当然、結弦はこれに取り合うわけもなく、アリスと一緒に呆然としていた兵士の持つ剣を払いのけ、アリスの身を自由にしてやる。
「ご主人様、ありがとうございます。また、助けてもらっちゃいました♪」
「まったく……フィリアといいお前といい頼むからもう少し緊張感を持ってくれ」
自由になった身体と窮地を好きな人に救ってもらったという乙女的イベントが彼女の恐怖心を押さえつけ、いつものピンク色なアリスへと戻していく。
そして、そんな心情にまったく気づかない結弦は、緊張感のないアリスにため息しつつも彼女の体に怪我が無いか確認する。
「貴様! どうしてここに!」
「あぁ悪い。あんたも仕事だから仕方ないかもしれんけど、ちょっと今余裕ないんだよ。――黙っててくれ」
「ふごっ!?」
アリスのことで手一杯な結弦は、怒鳴りかかってくる兵士に見向きもせず、土属性初級魔法を広範囲にばらまく。
ここ最近は強力な敵を相手にしていたから鳴りを潜めていたが、結弦の初級魔法は最高レベルの『+10』。当然と言えば当然だが、頂きの極地に達した魔法を一端の兵士如きが止められるはずもなく、バルコニーはたったの一射で死屍累々の様相へと景色を変えた。
「ご主人様! 相手は人なのですから手加減してください! 死んじゃうじゃないですか!」
「へっ? あぁすまん。お前が危なかったからか少し加減し損ねた」
「そんなぁ~ 私のために怒ってくれるなんて~♪」
結弦の歯に衣着せぬもの言いにアリスは一層顔を上気させ、『にへらぁ~』と頬を崩す。
そして結弦は一見して怪我がない事といつも通りの彼女の顔にようやく眉間のしわを解くのであった。
しかしこれで終わるほどこの世界は甘くなく、少し離れた所で怒りに身を震えさせる者がいた。
「まったく……たかが一人相手に不甲斐ない連中だ。――仕方ない、かくなる上は私がやるしかないか」
「ん? 今度はあんたが相手か……クライストスのおっさん」
「その不遜な態度、癪に触ってならない。――まぁこの場では命取りと言うしかないですが。アレを見なさい、このままですと貴方はこの国の大敵ですね?」
クライストスは下卑た笑みを浮かべながらバルコニーの片隅を指差す。
そこには青白く輝く水晶みたいな物体が宙に浮かんでいた。
「なんだあれ?」
「『投影晶』と言いましてね、文字通り特定の事象を別の場所に映すマジックアイテムです。 ちなみに投影先は貴方達が滞在している城下の広場に設定しています。――この意味分かりますよね?」
ニマニマと気持ち悪い顔を向けながらクライストスは得意げに説明する。
なんとなく読めてきた。こいつは趣味の悪い処刑ショーを国民に向けて放送していたようだ。最初は歪んだ私腹を満たす為だったんだろうが、今となってはあれが唯一の生命線になっているのだろう。――つくづく悪運の強い奴だ。
「どんどん小物っぽく見えてくるな。――シャルロットは絵に描いたような平和ボケ爺さんだったが、家臣たちはこれに反して大分腐っている」
「御託は結構。大逆の使徒に正義の鉄槌を!」
クライストスは投影晶を背にアリスへと距離を詰めていく。――まったく、俺がその程度で屈する訳も無いのに何を考えてんだか……
結弦はアリスの前に立ちふさがり、剣の柄を握りしめる。
そして結弦の間合いへ無遠慮に入ってきたクライストスに向けて結弦は一太刀浴びせようと神剣を振りぬく。
「クックック……な~んてねぇ~」
剣先は無抵抗のまま、クライストスの胴を薙ぎ払う。……はずだった。
「なっ!?」
剣は油を切り裂くかのようなのっぺりとした感触を残したまま宙を舞う。
それは、クライストスの身体の一部が液状化したかのような現象だった。
「良い表情ですな。その驚いた顔は癖になる味をしています。――ってか貴方馬鹿ですかぁ? 時空神が下賜した武器を相手に丸腰で近づくはずがないでしょう? これだから下等な猿はいやですねぇ~」
「お前本当に人間か? フィリアの事も知っているようだし、この感覚どこかで……」
クライストは今までのことが全て演技だったかのような口ぶりに変わり、宰相としての仮面が剥がれだす。
そんなクライストスの変貌ぶりに結弦は既視感を抱いた。
この二面性、グリードの時と同じ嫌悪感、天の教会の人間か?
「そろそろ、答えに辿り着きましたかぁ? お察しの通り、私は天の教会の者ですよぉ? 真名はオーギュスト、《水》を司る調理師でぇ~す」
《ステータス》
_____________________
名前:オーギュスト ???歳♂
レベル:???
ジョブ:調理師《天の教会》
装備:???
所持金:???
スキル:形態変化
???
魔法:???
_____________________
クライストス改めオーギュストが身の内を明らかにすると結弦の脳裏に彼のステータス情報が更新される。
相変わらず解読不明な部分が多いが、先ほどの液状化はスキルの形態変化というらしい。
「また厄介な奴が湧いてきた……でもいいのか? その投影晶からこちらを見ている国民に正体バラして」
「なぁぁんにも問題ありましぇ~ん! 勝負も料理もその場の気分が大事なぁのでぇ~す! それに貴方が来た以上、私も気合を入れてそこの小娘を殺さなくてはならないのでぇ~」
どうしてこのタイミングでなのかは分からないが、オーギュストの奴、大事な頭のネジを盛大に飛ばしてしまったようだ。
「あららぁ~? グリードからは聞いてないのでぇすねぇ~?」
「何がだ?」
「そこの小娘、殺すと特典で時空神もまとめて屠れるエクセレントな道具なんですよぉ~」
「はぁ?」
なんだそりゃ? そんなの初耳なんだが?
「ただの小娘が神器をああも容易く使えるわけなぁいじゃない。『神託の巫女』、私たちと同じ神の魂を宿す者故の力」
「イカれ過ぎて幻でも見てるのか?」
「のぉんのん。試しに御本人に聞いてみたらどぉ?」
言動はイカれつつも口調自体は冷静に語るオーギュストに結弦は妙な説得力を感じる。
そしてオーギュストは自らの腹部を状態変化させ、グリードの時と同じ『闇』を作り上げる。
「その必要は無いわ」
オーギュストが自身の腹部に宿した闇へ手を突っ込もうとするのと同時にアリスの神札から女神フィリアの声が響き渡る。
神札は輝き、声は次第に明瞭な物へと変化する。
「あの子に似て僕は皆おしゃべりなのね」
「おいでに成りましたかぁぁ! 反逆の神よ!」
「まったく、少し黙ってなさい!」
神札から現界したフィリアはうるさいハエを潰すかのごとく何処より作り上げた黒い炎槍をオーギュストに向けて撃ちつける。
炎槍は前回同様に桁外れな威力を持っており、城の外周にある見張り台を跡形もなく消し去った。
「おいおい、流石に降臨早々城を壊さないでくれよ」
「誰の為に私が力を振るっているとおもっているの!? あぁもうややこしいわね、この際ハッキリしておきましょうか!」
なんでかは分からないがフィリアの奴、さっきまでとは打って変わって非常にお怒りのようだ。
現れて早々ヒステリックなうちの女神様は何か大事な一線を越えてしまったようで大気中にある魔素を極限まで集めて街の何処からでも見えるような巨大なフィリアのホログラムを作り上げた。
『人間たち、よく聞きなさい! 私はフィリア・ミラ・クロノス、人類に救世をもたらした神よ!』
そしてフィリアはお手製の巨大フィリアに載せて自らの存在を国民に向けて宣言する。
この唐突に現れて自身を神と言う存在に街の住民たちは懐疑的な反応を示しているのだろう。――未だに怒っている理由は分からないが、これをやるということは何か伝えなくてはならないことがあるのかもしれない。
いきなり突拍子もない行動に出始めたフィリアを結弦はひとまず静観することとした。
『今この国で起きていることと人類が皆で立ち向かわなければならない問題、それはそこの小さい窓から皆が見ていたでしょう』
フィリアは投影晶より写されていた映像を拡大して指し示す。
『私の前にいるその男が今回の国王暗殺未遂の首謀者よ。――私が出てこなければこの国は天の教会とかいう暗部に後少しのところで滅ぼされかけたわけ。全くもって情けない。あんた達が昼ドラのノリで見ていた処刑ショーの女の子が人と世界を繋げる私の大事な巫女だとも知らずに……』
いきなり現れた自称女神の言葉に街の住民は困惑しつつも変わり果てた宰相の姿に真実味を覚え、粛々と話に耳を傾ける。
『これを聞いている人間よ、人であることに誇りを持つなら考えなさい。そして動きなさい。』
話しているうちにヒステリーも収まってきたのか、彼女の言葉に少しずつ風格が現れてきた。
そして言いたいことを言って満足したのか、投影晶の拡大映像だけを残して巨大フィリアは消失した。
「ふぅ、スッキリしたわ」
「それはまたようございました」
「これでこの国の人間は私たちの動向から目が離せなくなったはずよ。今から話すことはオーギュスト、貴方達とその目を通して見てる誰かさんへの忠告でもあるわ」
「ほほぅ?」
結弦と同じく空気を読んで傍観していたオーギュストだったが、先ほどの狂乱していた性格は成りを潜め、宰相クライストとしての顔で返答した。
「貴方達の目的が私の抹殺であり、その魂を宿すアリスの命を狙っているのはよく分かったわ。――当然殺されてあげるつもりも無いし殺させるつもりも無いわ。なので私は現時点を持って守護者としての座を降り、一人の神族として天の教会を滅すると宣言しましょう!」
フィリアの詞は世界を動かす歯車が止まるような音を伴って深く宣布された。それは今までおぼろげだったフィリアの存在が確かな一つの存在として生まれ変わった瞬間でもあった。
「宣戦布告、そう捉えてよろしいですか?」
「それ以外に何があるのかしら?」
「なら我々も次からは滅ぼしにいきましょう」
「それは結構。ただ、勘違いしないで欲しいわ。貴方にもう用は無いの、『次』なんて無いわ」
「!!?」
フィリアは一瞬でオーギュストを消し炭にした。それは無詠唱とかそういう次元ではなく、ただただ結果だけが残る事象だった。
何が起きたんだ? 一瞬であいつの体が炎に包まれてまばたきをしたら灰になっていた。これがフィリアの本気なのだろうか。
「貴方の五感を通してあの子へ伝えた時点で貴方の役目は終わりなのよ。私の可愛い娘の敵をみすみす逃がすわけないでしょう?」
灰になったオーギュストの残骸にフィリアは侮蔑の眼差しを送る。
そしてフィリアは今までにない真剣な顔で結弦を見据えるのであった。




