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3.12 胎動

大変お待たせしました。

ここ3か月ほど忙しい日々だったのですが、ようやく山を越しました。

細かい話は近いうちにご報告いたします。

『――こんなところかしら』


 ザイードの街で遭遇したグリードの情報を求め、王城地下の禁書庫へ足を運んでいた結弦たちは、国内で起きたありとあらゆる事象を記した変遷記の解読を終えたフィリアから本より得られた要点を聞いていた。


「……つまるとこ、グリードについては何も分からなかったと?」


 フィリアの話によると、グリードという男はいくら探しても変遷記の検索エンジンに引っ掛からなかったらしい。彼女が言うにはそれはそれで問題らしいのだが、見つからない以上は無駄足に変わりない。


『そうなるわね。――でも安心しなさい。確かにグリードの情報は得られなかったけど、彼のステータスに表示されていた《天の教会》ってワードには当たりがあったわ』

「天の教会?」

『忘れたの? まぁ戦闘中だったし仕方ないか……彼のジョブ欄にあった所属よ』


 そういえばそんなのもあった気がする。


『天の教会、今はそんな名前で活動しているみたいだけど、昔は《天を穿つ者》という狂信者達の集団だった』

「知ってるのか?」

『えぇ……神、魔、竜族の三族が殺し合った千年前の大戦はこいつらのせいで起こったようなものよ。千年前、いずこから湧いて出てきたこの集団は各地で得体の知れない実験を秘密裏に行っていた。それによって各支配地域の霊脈はボロボロにされ、首謀者を他種族と勘違いした三族は開戦の狼煙をあげることになった。――あの時と名前が違ったとは言え、もっと早くに気づくべきだった……』


 フィリアの声のトーンが一気に冷たくなる。

 千年前の戦争を知らない俺にはよく分からないが、彼女にとっては辛い過去なのだろう。


「まぁ神様にもミスる時くらいあるさ……過ぎてしまったことを気にしてもしょうがない。――それよりも今言っていた得体の知れない実験ってなんなんだ?」

『ありがとう。実験……他に表す言葉が無いからそう呼んでいるけど、私にはあいつらが何をしていたのかは今でも分からないわ。残念ながら変遷記にも『起きた』事実は載っていても、それが何かまでは記せなかったみたい。――ただ、大なり小なりあるにせよ実験の後には『闇』が溢れてた』

「闇?」

「ぬしさま、そこからは童が話すのじゃ」


 話が進むにつれて沈んでいくフィリアの声に我慢ならなかったのか白音が語り手を買って出る。


「闇、ねえさまはそう言っておるが、童たちにとってはそんな生易しいものではなかったのじゃ。ひとたびそれを目にすれば目が、触れれば手が、そして身体の中へ侵入を許そうものなら肉体が一瞬とかからず灰となる。絶対的な『死』であり覆せない物、それが千年前のこの地には至るところで蔓延していたのじゃ」

「でも今はそんなものは無いぞ?」

「当然じゃ、ねえさまが自らの霊力を削りながら各地に蔓延る闇を空間ごと封印したのじゃからな」

『そんな誇れるものではないわ。結局、戦争が終わるまで奴らの尻尾が掴めなかった私は、闇の封印と三族の安全を鑑みて彼らを隔離したに過ぎない』


 白音の説明にフィリアが補足を入れる。

 相変わらず声のトーンは低いままだが、随所に責任を感じられる口調だった。


「童はねえさまの心労を分かっておるつもりじゃが、魔界に隔離された事を根に持っている頭の悪い同族はねえさまに恨みを持っている者も多い。それこそ今、この地にいる魔将以上の魔物はそういった恨み辛みを晴らすために次元の裂け目から渡ってくるものたちなのじゃからな」

「それに白音は当てはまらないと?」

「童をあやつらと一緒にするでない! ただ『ちょっっっと』フィリアねえさまにお灸を据えられて拗ねていただけなのじゃ!」


 どうやら行動心理に差は無いようだ。

 しかし、以前フィリアが言っていた魔界への送還は人間の為と思いきや魔族の為でもあったんだな。


「ん? ちょっと待ってくれ。それならどうして人間は隔離されないんだ?」

「うんにゃ? 確かに言われてみれば……」

『簡単な話よ。天を穿つ者の構成員に攻撃されたからよ』

「え!?」


 一同に衝撃が走る。


『当時、私は最も戦火が広がっていた魔族を筆頭に三族を隔てる『魔界』『竜界』『神界』を作り、それぞれを隔離することに成功した。そして脅威度が低い人間やどれにも属さない動物たちの世界を作るべく霊力を使おうとした時、天を穿つ者たちからの抵抗にあったわ』

「でもお前ならそんなの一瞬で制圧してるだろ?」

『普段の私なら出来たかもしれない……けど、各地の闇を封印し、三界を生み出した直後だと霊力が枯渇しててね。加えて奴らは術理を超えた力を幾重にも駆使してきて、結果的に私の燃料が先に尽きてしまったわ。――まぁ火事場の馬鹿力で奴らを丸ごと外界に飛ばしてやったんだけど……』

「それが帰ってきたと?」

『どうやらそうみたいね。本来であれば全ての時間が存在しない完全なる『無』の領域だから戻って来れるはずは無いんだけど……』

「そればっかりは当人達に聞いてみないとな。それに戻ってきた以上、今度は確実に叩き潰せばいいだけだ」

「なのじゃ♪」

『そうね。――とりあえずそんなわけで力を使い切った私は人間と動物を残して千年の眠りにつき、貴方と出会った。光栄に思いなさい? 私を叩き起こす人間なんてジークと貴方ぐらいなんだから』

「そう言われてもな……まぁ概ね分かった。グリードたちを野放しにするのは不味い事も含めて」

「そうですね。こんな話を聞いてしまった以上、私たちが何としても止めなくてはなりません!」

「悪い子にはめっ!ってするの~」

「我の大義はあの時から変わらぬ」

「大分重たいお話でしたが、皆様と一緒ならきっと大丈夫ですよ」


 ここまで静かだったアリスやレンたちが想いを口にする。

 皆、敵の正体を少しは理解したからか、ここへ来る前に比べて幾分か気が引き締まっているようだ。


「そうだな、こっちには頼れる女神さまも付いているわけだし、早い段階で判明したのは良かった」

「じゃの、ねえさまがいれば怖いものなしなのじゃ♪」

『あらあら、皆がやる気を出してくれて嬉しいわ。――さて、長話はここらにしてそろそろ帰りましょうか』

「あぁ、そうだったな」


 幾分か調子を取り戻したフィリアが話を切り上げ、結弦たちは禁書庫の出口に向けて歩き出す。



 来た時と同様、ひたすら長い道のりを戻り、禁書庫の入り口へたどり着いた結弦は、エステル以外の面々にリファクションを施し、姿を隠す。


「ここまで来ればもう大丈夫だろう。皆集まってくれ」

「はい」

「――交錯せし三光の束、狂え『リファクション』。――よし、じゃあエステル、俺たちは後ろから付いていくから気取られないように頼む」

「わかりました」


 姿を隠した一同はエステルの後ろに列を作り、準備が整った所でエステルは禁書庫と図書室を隔てる扉に手を掛けた。


 そして、警備をしていた衛兵の横をエステルが通り過ぎた時、事態は急変した。


「待っておりましたぞ、教皇聖下」

「貴方は確か宰相の……」

「クライスト・メイザースです。久しくお会いしておりませんでしたので忘れられてしまいましたか」


 エステルの道を阻む男はクライストと言い、中肉中背のパッとしない中年だった。


「ごめんなさい、私物覚えが悪くて。――それで、こんなにぞろぞろと兵隊さんを連れてきて、穏やかでは無いわね?」


 エステルはクライストの後ろに目をやる。

 そこには全身をしっかりと鎧で包み、手に騎士剣と大盾を持つ城の兵と思われる集団が三十人ほど詰めかけていた。

 そして空気が張り詰める中、クライストから結弦たちの命運を決める言葉が下される。


「これはいざという時の為の保険です。――教皇聖下、貴女と同行者の方々には国家反逆罪の容疑が掛けられています。願わくは、無用な抵抗などせず大人しく指示に従っていただけますようお願い申し上げます」

次は1週間後を予定していますが、少し遅れるかもしれません

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