3.7 スクーリング
「私、キャロル・シャル・グラジオラスは敬虔なクロノス教の信徒としてエステル様の元で修行して、女を磨いて参ります」
「それは一体……???」
シャルロットはキャロルが言った言葉の意味をすぐに理解出来ずに頭の上で疑問符を並べる。
「簡単に言えば出家かしら?」
「なぁんだぁとぉぉぉ!!!」
そこへエステルが容赦無い一言でキャロルの真意を補足する。
シャルロットは徐々に顔を青くし、終いには膝から崩れ落ちた。
『国王陛下ぁぁ!!』
家臣達が慌ててシャルロットの元へ向かう。――なんだか凄い茶番劇を見せられてる気分だ。
「おい、ちょっとこれはやりすぎなんじゃないか? 国王白目向いて泡吹いてるぞ!?」
「所詮は人の親ということです。私としてはさっきの仕返しもできてスッキリしていますので良しとしましょう」
「鬼だな。――でもいいのか? 一国の姫を掻っ攫ったりなんかしたら国家反逆罪とかで捕まりそうなんだが……」
「安心してください。あくまで私が彼女に与えるのは『機会』だけですから。――ほらシャルル、いつまでも寝てないでしゃんとしなさい!」
エステルが泡吹いてひっくり返ってるシャルロットの元へ行き、彼の頬をペチペチと叩く。
「教皇聖下! いくらなんでも不敬が過ぎますぞ!」
「はぁ……あなたたちがこの親子を甘やかしてばかりいるからこんな事になるんでしょ? 分かったら黙って下がりなさい」
エステルが鋭い口調で官僚達を追い払う。――最初は退こうとしなかった官僚達だったが、エステルの威圧的な眼光に高官らしき初老の文官が折れ、皆を引き下がらせる。
「エステル婆、後生だから娘だけは取り上げんでくれぇ~」
「本当あなたはいつまでたってもダメダメね。キャロル、ここまでお父様が頼み込んでいるのだけれど……どうする?」
「エステル様、まさかお父様がここまで壊れてしまうとは思いもしませんでした。――なんだかとてもいたたまれないので出家はやめるべきなんでしょうけど、そうすると私の夢が……どうするべきなのでしょうか?」
キャロルも父親の酷い姿を目にしたことでドン引きしながらも出家宣言を取り消そうか迷い始める。
こりゃ完全に場を掌握したな。――エステルの黒い部分については今更だけど、国のトップがこうも簡単に陥落するのは今後が心配になる。
そして結弦と同じく流れを掴んだと確信したエステルが口の端をニヤっと吊り上げる。
「そうね、私もこのままシャルルを捨て置くのは忍びないと思っていたところよ。――ねぇシャルル? このしょうもない問題を解決する良い折衷案があるのだけれど聞く気はあるかしら?」
「それは本当か?」
シャルロットが聖母を見るような目でエステルを見上げる。
そうしてエステルは終始自分の掌の上で踊っている一組の親子に向けて、この茶番に終止符を打つ良案を告げた。
◇
時は流れて王都生活十日目。
シャルロットへの謁見から五日が過ぎた今日、結弦たちは再び王城の前へ足を運んでいた。
「まさかこうも早くあの長い道を歩くことになるとは……」
「ご主人様は寄宿舎で休んでおられても良かったのですよ?」
「そうもいかないだろ。――ファルネスからエステルの身辺警護を任されているし、お前らを野放しにしておくのは怖い」
「あらあら、随分とユヅル様からの信頼を失ってしまいましたね。――悲しいです」
「全く悲しそうには見えないのだが?」
「まぁその方がユヅル様と一緒に居ることができますし、むしろプラスなのかもしれませんね」
「たくましいな。――で、話を戻すが今日は直接王女の元へ行くのか?」
「いえ、形だけですが一国の姫をお借りするので一応シャルルの方にも一言挨拶しておきます」
「了解」
エステルは慣れた足取りで王城の中へ歩いていく。――初回の謁見までに通ったプロセスを全無視して進んでいるのだが大丈夫なのか? なんか誰も俺たちと目を合わせてくれないし。
そしてエステル先導の元、結弦たちはとある部屋の前へ辿り着く。
「シャルル、キャロル準備は出来ているかしら?」
「エステル婆か……大丈夫だ、中へ入ってくれ」
エステルが扉をノックすると中からシャルロットらしき男の声が返ってくる。
入室の許可を貰った結弦たちは部屋の中へ入る。
「準備は出来ているようね」
「当然だ。――しかし本当に大丈夫なのか?」
中には五日前に見た二人が高そうな椅子に腰を掛けて待っていた。
「私がついているのだから心配いらないわ。それにあまり親バカが過ぎるのも娘に嫌われるわよ?」
「ぐぬっ……わ、わかった。私からはもう何も言わぬ」
「じゃあ行きましょうか。アリスちゃんお願い」
「わかりました。『オープン』」
アリスはリベラルのマイルームへ繋がるゲートを展開する。
「これが話に聞いていたゲートですか。これで街を一瞬で飛べるなんて驚きです」
「一応あまり口伝しないでいただけると助かります」
「わかったわ。――ではお父様、少し社会勉強に行って参ります」
「くれぐれも気をつけるんだぞ。フリードも頼んだぞ」
「この命に変えてもキャロル様をお守り致します」
シャルロットに別れを告げて結弦たちはリベラルへと転移する。
◇
そしてリベラルへ場所を移した結弦たちは男女に分かれて講義を始める。
――っというのも、キャロルの出家を取り止める代案としてエステルは週一のスクーリングを提案した。
一応名目上はキャロルの情操教育となっているが、女性陣にそのつもりは無いようで、男共は早々に大聖堂を追い出されてしまった。
仕方ないので結弦はスーとフリードを連れてリベラル郊外の雑木林へ移動することにした。
「本当にキャロル様の元を離れてしまって良かったのでしょうか?」
「あぁ~ もうそれについては考えるな。ありゃ俺らにはどうしようもできない」
こういうときに男が負けるのは世の定め。大人しく従うのが賢い生き方と言える。――いえ、単に俺が不甲斐ないだけです。
「それよりもここまで来たんだし俺らも始めようか。――フリード剣を抜け」
「は、はい! ユヅル様、全力でいかせてもらいます!」
フリードが右手に剣を、左手に短杖を握り結弦と正対する。
結局やることも思いつかなかったので、結弦は暇潰しも兼ねてフリードを鍛え上げることにした。 ――さてさて、お姫様を守る騎士の実力はいかほどのものかね。
「風の漣よ、切り裂け『ウィンドショット』」
フリードは結弦に向けて風属性初級魔法のウィンドショットを放つ。
この魔法は周囲に流れている風を凝縮し指向性を持たせた技で、アリスの使うファイアショットの風バージョンにあたる。
うん、まっすぐでいい攻撃だ。最近は人外連中の相手ばっかりしていた為、こういった型通りの技はとても新鮮だ。
結弦は無詠唱でステップを空中に三層張り、ウィンドショットを回避する。
「ステップを無詠唱で一度に三つも……」
「よくわかったな」
「これでも文武両道が家の家訓なので……それにエステル様が全幅の信頼を置かれる方です。この程度で驚きはいたしません」
どうやら頭も良いようだ。――つくづく俺の理想を地で行ってて羨ましい。
「さて、次はどうする?」
「そうですね……空は私の領域だということをお伝えするまでです。――集いて連なる風の巨盾よ、ここにあれ『ウィンドウォール』――大いなる風の加護よ、我が御霊に永遠の疾風を『ウィンドブースト』」
続いてフリードは風属性中級魔法のウィンドウォールとウィンドブーストを立て続けに唱えて結弦の元へと跳躍する。壁蹴りの要領で中を舞うフリードの動きは、三次元戦闘を得意とするレンのスタイルに近しいものがある。――が、本家野生児に比べて動きは一段劣るかな。
結弦は飛んでくるフリードを迎撃するべく、道具欄から《フラガラッハ+10》を取り出し騎士剣と切り結ぶ。
剣の筋も悪く無い。――まぁ俺がとやかく言えるものでもないが、少なくともそこら辺の魔物相手なら十二分に立ち回れるだろう。
「その強化魔法いいな。後で参考書でも貸してくれ」
「結構本気で撃ったつもりですが、全然相手になりませんか……」
「そう気を落とすな。――っとたしかこうだったか? 大いなる風の加護よ、我が御霊に永遠の疾風を『ウィンドブースト』」
先ほどフリードが唱えていた呪文と彼の動きをイメージをコピーして結弦はウィンドブーストを発動させる。
すると結弦の身体は体感で半分程度まで軽くなり、一度の跳躍でより高飛べるようになった。
「まさか一目見ただけでウィンドブーストを使えるようにしてしまうとは……」
「おっ! 今度は驚いてくれるんだな。まぁ今のは理論度外視で使ってるから無詠唱ってわけにはいかないんだがな」
「私の努力は一体……」
「まぁ上には上がいるってことで諦めろ。――それよりお前は俺と同じで剣と魔法の両方を使って戦うタイプみたいだし、この機会に色々と試させてもらうぞ?」
「胸をお借りします」
最近、色々な魔法が使えるようになったからか剣術と魔術の両立がいまいち出来てない気がする。フリードは常に型通りの動きで攻めてくるし、正攻法のお手本としてちょうどいい。
それから三時間、結弦とフリードはお互いの戦術に幅を持たせる為、いろんなシチュエーションで剣を交えた。
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