1.7 必要なもの:その3
「私のせいで時間を取ってしまいましたね。お買い物を再開しましょうか。――次はどちらに行きます?」
表通りに戻ると、調子を取り戻したアリスが次の行き先を訪ねてきた。
「そうだな、次は武器と防具を買いに行きたい」
「わかりました。街の南側に大きな装備屋がありますのでそちらに行きましょう」
アリスと共に街の南側にあると言う装備屋に向かった。
話によると今から向かう店はこの街で最も大きな店のようで、大抵の装備だったら取り扱っているらしい。
◇
目的の場所へ到着すると、家を三軒ぶち抜いて無理やり合体させたような建物が建っていた。
「思った以上に大きいな……これなら確かに何でも売っていそうだ」
「ええ……私も実際に店へ入ったことは無いので楽しみです♪」
店内に入ると、中央を連絡通路として左が武器、右が防具屋と、建物の形態を上手く利用した用途分けがされていた。
「まずは武器から見てみようか」
「わかりました」
二人で店中を歩き回る。
商品は入り口に置いてあるほど安価で、奥に行くほど高額な物が置かれている。
とりあえず今回買う武器は、駆け出し冒険者感を出すための囮なので、ボロければボロいほど良い。――おっ、あそこにあるはいい感じにボロそうだ。
結弦はたくさんの武器が大樽の中に無造作な状態で突き刺さっている投げ売りコーナーへ向かう。
――ふむ、投げ売り品の武器だけあって、値段は一律銀貨五枚と良心的だな。――ただ、滅茶苦茶に刺さっているからお目当てのものをピンポイントで抜き取るのが面倒だ。
結弦は面倒がりながらもいくつかの剣を手に取る。――すると《青銅の剣+2》《黒鉄の剣+1》《水流の刀+4》と武器の情報がログとして表示された。
持つと装備扱いになるのか。素人目だと、どれが良い物なのかさっぱりだったので素直に助かる。――ぱっと見はどれもガラクタだし。
装備の性能を確認する術を知った結弦は、武器の性能を一振りずつ確認していき、慎重に吟味する。――別にメインで使うわけじゃないが、せっかくなら良いものを……と結局は欲が出てしまい、多量の時間を浪費してしまう。
「う~ん、最後に握った《水流の刀+4》が一番高性能っぽい」
とりあえず水流の刀は購入しよう。――次はアリスの装備か。
俺は水流の刀を片手に、一点ものがたくさんディスプレイされているエリアに移動する。
「アリスはどの武器がいい?」
「またしても私に……ですか?」
「仲間なんだから当然だ。――それに純粋な話、戦力は多いに越したこと無い」
「仲間……ですか。本当に困ったご主人様です。一応伝えておきますが、奴隷に武器を与えると突然襲ってくる者もいますので言うだけ無駄かも知れませんが気を付けてくださいね」
そうなのか。――想像すると恐ろしいな。
「それと私は幼少の頃、街の学び舎に通っていましたので、初級の火属性魔法が扱えます。ですので、頂けるなら杖か宝珠が一番役に立てます。――ただ、宝珠は少々値が張るので杖でお願いします」
「別に金は気にしなくていい」
「いえ、そこはなんと言われようと主人より高いものを持つわけにはいきません……ご主人様はもう少し世間の目というものにも気を配る必要もありそうですね」
さっきから若干のトゲが混ざっているのだが、何かしてしまったのだろうか。――あと今、アリスが着ている服はどれも俺より高いのだが、それはノーカウントなのだろうか?
「それは! ご主人様が私の断る隙もなく、店員に乗せられてポコポコとお買いになるからです。……これ以上無駄な出費をさせないためにも、今回はきっちりと私の方でお財布の紐は握らせていただきますからね!」
結局怒られてしまった。――むぅ、奴隷というのも中々に難しい。
「わかったわかった。――とりあえず杖ならいいんだな?」
「はい、先ほどの投げ売りされていた所にいくつか杖もありましたので、その中から私に合いそうなものを選んでください」
再び投げ売りコーナーに移動し、再び樽の中から杖っぽい物をいくつか抜き出す。
そして流れ作業のように手にした杖を、一つ一つ装備欄で確認する。――すると、その中に一つだけ不思議な杖があった。
《日廻の杖+3(炎珠)》
なんだろう? 火属性の杖のようだけど、今まで見たことのない表記が後ろに付いている。
「それは魔物の魂を封じたとされる勾玉が埋め込まれている装備です。この場合は発動する火属性魔法の威力が若干ですがアップします。――それにしても装飾用の石とたいして違わないのですが、よくお気づきになりましたね」
アリスによると、この杖は見る人が見れば投げ売り品として売られるような代物では無いらしく、掘り出し物らしい。
「それじゃアリスはこれでいいな。――待ってろ、会計を済ませてくる」
「わかりました」
会計を済ませた後、アリスに杖を渡す。そして、そのままの足取りで防具売り場の方へ向かう。
◇
――結論から言うと、防具は各々のサイズに正確なものでないといけないみたいで、店頭で素材と型を選び、完成するまで数日は待ってくれと言われた。
服はダボついて適当なのに防具はオーダーメイドとは……不思議だ。
店に見本として飾ってある型を見回りながら、それぞれで自分に合いそうな防具を選ぶ。
「俺は、このジャケットタイプの防具でいいか……軽そうだし」
「私はこちらに置いてあるローブでお願いします」
「わかった。――あとは素材だが、無難に革でいいか」
「そうですね。コストパフォーマンスを考えると、こちらの『高跳牛』の革がよろしいかと思います」
「了解……すみません、防具の注文をお願いします」
店員を呼びつけ防具の注文をしていく。加えて、自分達の正確なサイズを測定し、記録してもらった。
あとは完成を待つだけだ。
代金を先払いで支払った結弦は、注文した新たな防具の完成に僅かな期待を抱き、店を出る。