3.5 謁見
「教皇聖下の御出座でございます」
謁見の間下手側最奥部に位置する文官の言葉を合図に結弦たち一向は室内へ足を踏み入れる。
部屋の中はリベラルの大聖堂にあった謁見の間を数倍大きくした広さで、内装から調度品までのありとあらゆるオブジェクトが最高級品だと一目で断定できる。
また、下手側に文官、上手側に武官とおぼしき装いの人がそれぞれ二十名ずつくらい整列して来訪者であるエステルに注目をしている。そして、官僚たちの更に奥、この国で最も位階が高い人物が結弦たち全員を見据えていた。
エステルと結弦たちは事前講習で教えられた所定の位置まで歩みを進め、膝をつき頭を垂れる。
「ここより五百里離れた宗教区リベラルが長、エステル、国王陛下に嘆願したい事がございますが故、参上致しました」
「うむ、遠路遥々よくぞ参った。顔をあげて楽にしてくれ」
教皇モードのエステルが国王と言葉を交わす。
国王は齢六十歳ぐらいの初老で、白髪混じりの茶髪と程よく肥えた胴回りが特徴的な人物だった。――まぁ絵本とかで見る王様と日本のいつぞやの首相を足して二で割った感じが近いかな。
国王の許しが出たのでエステルは顔を上げ立ち上がる。
「ありがたき幸せ……っとここら辺でいいかしら?」
「へっ?」
突然エステルの仮面がポロっと剥がれ落ちる。
結弦たちはもちろん、周囲の官僚たちも一部を除いてざわつく。
「そうだな。従者の方々も楽にしてくれて構わない」
「はぁ……」
言われた通り、状況が読めないながらもなんとか理性を働かせて立ち上がる。
「エステル婆に会うなんて何年ぶりだろうか?」
「二十五年くらいかしら? 貴方の戴冠式に出席したのが最後だと思うわ。――後、私より貴方の方がよっぽどお爺さんなのだからいい加減、その言い方はなんとかならないかしら?」
「それは無理な相談だ。私が生れた時からずっと面倒を見てくれている婆さんではないか」
結弦たちをそっちのけで思出話を始める二人。――さっきの講習で聞いた注意事項が頭から崩れ落ちているのだが、大丈夫なのだろうか?
「仕方ないわね。――っといけないユヅル様、困惑しているところ申し訳ないのですが、一応紹介しておきます。こちらがグラジオラス第四十九代国王陛下のシャルロット・ヴァン・グラジオラスよ」
「え、え~と、私は冒険者の大野結弦と申します。そしてこちらからアリス、レン、白音とペットのスーになります」
なけなしのアドリブ力を全開にして国王陛下に自分と仲間たちを紹介する。
そして結弦の脳内には毎度お馴染みのステータス情報が更新される。
《ステータス》
_____________________
名前:シャルロット・ヴァン・グラジオラス 62歳♂
レベル:24
ジョブ:国王 (グラジオラス)
装備:無し
所持金:無し
スキル:守護
統括
先導
威厳
外交
魔法:ブレッシング+3
_____________________
ふむふむ、ステータスから読み取れるのは年齢が六十二と予想していた通りということぐらいか。
「(アリスか……やはり運命には逆らえんと言う事か)ほぅ、『ユヅル様』か……婆さんがそんな顔を見せるようになるとは長生きしといて良かったわい」
「シャル? 少し口が過ぎるのではなくて?」
一瞬、国王は暗い顔になり、誰にも聞こえないほど小さな声で何かをつぶやく。その後、何かを思い出したかのようにニヤついた笑みを浮かべ、エステルをおちょくり始めた。――ってかエステルが中々にヤバい目を国王に向けているんだが……俺以外にもこんな態度で接する相手がいたとは驚きだ。
「おぉ怖い怖い。これ以上は一発貰いそうだし止めておこう。――して、久しく顔を見せに来たわけだが此度は何要だ?」
「前に飛空艇を手配する時に耳に入れておいたと思うけど、事件を起こした黒幕が動き出したの」
「ザイードの件か」
「えぇ、報告は上がっているようね。それでお願いなんだけどザイードの復興に国の力を借りることは出来ないかしら? ウチはまだリベラルでの事件で受けたダメージが残ってるから手が回せないのよ」
「ふむ……言いたいことはわかった。国としても当然手を貸すことに異議はない。――がエステル婆、そなたが来るということはそれだけではないのだろう?」
「よくわかってるわね。ご想像の通り、本当に頼みたい事は別にあるわ。実はここにいるユヅル様たちに協力してほしいの」
「ほぉほぉ」
国王はエステルと結弦を交互に見て、再度いやらしい笑みを浮かべる。――こいつ絶対中身はただのおっさんだな。
「なにかしら?」
「い、いや、なんでもない。それで具体的には何をすればいい?」
「今はこれといって何かを頼むつもりは無いわ。ただ、いつでも話を通せるようにしておいて。――それともう一つ、変遷記の閲覧許可をちょうだい」
「あの本をか? まぁ構わぬが、読めるのか?」
「まぁそこは何とかするつもり」
「そうか」
この感じなら問題無く変遷記も読めそうだ。
そして適度に事務的な報告をした後、エステルがお暇しようとすると突然、廊下へ繋がるドアが勢いよく開かれ、奥から一人の少女が駆け込んできた。
「フリードが来てるって本当!?」
「キャロル様、今は公務中なのでお引き取りを」
「嫌よ、フリードったら中々私に顔を見せに来てくれないんだもの」
唐突に乱入してきた少女は衛兵の制止を無視して、フリードの元へ一直線に突撃してくる。
どうやら新たに現れた珍客はフリードに用があるらしい。――なんとも癖の強そうな女の子が現れたものだ。
そう思いながらも結弦はフリードとキャロルの絡みを見物しようと二人にほど近い特等席へ移動するのであった。
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