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3.4 王城への道

 王都生活四日目の深夜。

 フリードがセッティングしてくれた国王との謁見を明日に控えたこのタイミングで我らが暇神様と夢の中で会っていた。


「みんな、疲れているところ悪いわね」

「いや、どうせお前のことだからそろそろ『来る』とは思っていたよ」

「大丈夫です。王都の散策は楽しいですし、全然疲れてなんていませんよ」

「そう、ならいいのだけれど。――っと今日は先に新しい愛人さんに挨拶をしないといけなかったわね」

「おいっ! その言い方、いい加減なんとかならんのか?」


 実は今回、結弦たち四人と一羽の他にエステルが夢の世界へと招待されていた。


「仕方ないでしょ? 保護者として、貴方の周りにいるおもしろ……可愛い女の子は逐一チェックしておかないと。――貴方と違って物分かりの良さそうな子みたいだし」

「いや、コレお前に気圧されて動けないだけだからな?」


 結弦が言うようにエステルはフィリアを前に指一つ動かせず、三つ指ついて土下座の姿勢を貫いていた。――なんだろう……数日前に同じ光景を見た気がする。


「お、恐れ多くもお初にお目にかかります。わ、私はクロノス様の信徒で、いつもユヅル様にお世話になっておりますエステルと申しましゅ」

「はいどーも、いつもユヅルの相手してくれてありがとう。保護者のフィリアよ」

「なんか急にババァ……いえ、なんでもありません」


 瞬きする間もなく結弦の額にフィリアの指が添えられていた。――どうやら今日のフィリアさんは丁重にお相手致さないとすぐにでも伝家の宝刀(デコピン)が炸裂しそうだ。


「私に不遜な態度を取る馬鹿は置いておいて……エステルだったわね、立場的に難しいかもしれないけどもう少し楽に話せないかしら? それとも私と話すのは辛い?」

「滅相もありません。――ですがよろしいのでしょうか?」

「えぇ、今は貴方が崇めるクロノス様じゃなくて結弦の保護者で暇神のフィリアとして会っているのだから」

「わかりました」


 エステルの態度が少し軟化する。――ってか自分で暇神とか言うなら俺にそこまで目くじら立てる必要は無いんじゃないのか? ――あっ! いえ、なんでもありません。


 結弦の心を読んだフィリアが鋭い眼光を飛ばす。――あ~こわいこわい。


「えーと、そろそろ本題に移っていいか? フィリア、今日出てきたってことは十中八九明日の件だろ?」

「えぇ、そうよ。みんなにちょっとしたお使いを頼もうと思って」

「なんだ?」

「明日、お城に入ったら地下に保管されている変遷記をちょっと読んできて欲しいの。恐らくだけどこの前の不躾な輩に関する情報があると思うから」


 不躾な輩とは多分グリードのことだろう。


「変遷記?」

「文字通り、この国の移り変わりを記した歴史書よ。――と言っても、普通の書物とは違ってこの国で起きた出来事を逐一記録する魔法が組み込まれているから魔導書と言うべきかしら。――で、私はそこに何かしらの手掛かりが残っていると睨んでいるわ」


 そんな便利アイテム初めて聞いた。


「もちろん国家機密に関するネタもぎっしり詰まっているから、実際に読めるのはエステルぐらいでしょうけどね」

「はい。変遷記でしたら私も教皇に就任した時に一度だけ読んだことがありますが……正直私には何が書いてあるのかサッパリでした」

「まぁ人の身で『詠める』代物では無いからね。さっきも言った通り、あの本には極秘事項もたくさん記されているから一般人に読めないようにプロテクトが掛かっているわ」

「それじゃ意味無いじゃん」

「もう少し頭を使いなさいな。そのために私がいるんでしょ? ――エステル、神札はちゃんと持ち歩いているわよね?」

「あっ……」


 エステルは急に顔を暗くする。

 以前、リベラル郊外にある湖畔でアリスの神札を一枚拝借してディアと契約を交わした。実はこれ、フィリアにお伺いを立てずに勝手にやってしまったのだが、エステルは咎められると思っているのだろう。


「別に怒っているわけじゃないから安心しなさい。――ただ、変遷記を読むときは肌身離さず持っていて欲しいの」

「そういうことか。エステルの目を通してお前が読むんだな?」

「ご名答。それで神札の件は不問にするからお願いできる?」

「わかりました! それでお許し頂けるなら精一杯頑張ります!」

「結構」


 そうしてフィリアから新しい任務を請け負った結弦たちは夢の世界に別れを告げた。



 翌朝、結弦たちは予定通り国王に会うため、今まで足を踏み入れることが無かった貴族特区を歩いていた。


「貴族特区といってもパッと見は外周区とは変わらないな」

「そうですね。家の規模こそ大きいですが様式や景観等、街並みに関する部分は条例により厳しく定められているので外から見ただけでは違いは分からないかと思います」


 エステルが結弦の疑問に答える。――『条例』……リベラルではそんな単語聞かなかったし王都特有のルールなのだろう。


「そんなもんか。まぁ俺らには関係無いことだが、王都も王都で苦労してるんだな」

「この国の象徴ですからね」

「んで、その象徴の中でも一際目立っているアレにつてだが、後どんくらいで着くんだ?」

「それにつきましては、後三十分ほどかと」

「まだ掛かるか。物は見えているんだけどな……」


 エステルの言葉に結弦はげんなりする。

 以前、リベラルではファルネスに叩き起こされて馬車で連行されたものだが、今回は先程の『条例』とやらが影響しているのかみだりに馬を使うことは禁じられている。


 あぁもうめんどくさい……この数十分で用もないなら絶対に行きたくない場所になった。


 それからきっちり三十分、結弦は文句を言いながらも貴族特区を踏破した。



 王城正門。

 寄宿舎から数えで一時間ほど歩いて着いた城の正面玄関は今まで見てきたどの景色よりも荘厳なものだった。


「着いた。――もうこれだけで達成感だ」

「相変わらずぬしさまはみみっちいのぅ」

「お前にだけは言われたくない。――んでエステル、この後の流れはどうなってるんだ?」

「そうですね……聞くと絶対嫌そうな顔をすると思いましたので今まで伏せていましたが、身体検査に衣装替え、細かな作法の講習があります。――大体二時間くらいでしょうか?」

「俺帰っていいか?」

「ダメです! フィリア様にもお使いを頼まれているんですからしっかりしてください」


 横からアリスが結弦を叱責する。――なんでみんなケロっとしてるんだろう?


「そうですよ。 フィリア様からのお願い、この身に代えても成し遂げなければなりません!」

「はぁ……わかったわかった。帰らないからお前らは少し落ち着け」


 ちなみにエステルは見ての通りフィリアの信者としてワンランクレベルアップしている。――ちょうどアリスがエステルに対して狂信的なように……まぁディアの件が関係してるんだろうけど、もう少し肩の力を抜いていいと思う。


「では、そろそろ城に入りますので皆様お静かにお願い致します」

「わかった」


 話が一段落したところで結弦たちはフリードを先頭に王城の中へと進む。


 そしてエステルが予告した二時間が過ぎた辺りでその時は来る。


「では次の者、扉の前へ」

「はい」


 係りの者に従い、結弦たちは謁見の間へと続く大きな扉の前へ立つ。


 そして、一拍置いて中から盛大な音楽と共に謁見の間への扉は開かれる。

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