3.2 合流
「まさかここまでダメだったとは思わなかった」
「うぅ、申し訳ありません……」
王都に到着後、結弦たちは案内役として行動を共にすることになったフリードと一緒に焼肉屋へ足を運んでいた。
そこで、結弦は呑みニケーションを狙って彼に酒を飲ませた。――が、残念なことにフリードはアルコールへの耐性が全くなく、少し舐めた程度で酔っぱらってしまった。
「ご主人様が無理やり飲ませたりするから……反省してください!」
「あれって飲んだ内に入るのか? ――いえ、次からは気をつけます」
そして今日はよくアリスに怒られる……ってか普通飲めないなら『飲めない』って言うもんじゃないの? もしかしてこれがパワハラ? 俺、知らない間に上司の圧力ってやつを使っていたのか?
「いえ、私の忍耐が足りないばかりに……うぅっぷ!」
「いいからお前は黙って担がれてろ」
「そうなのじゃ。童の服を汚すでないぞ?」
「善処します」
現在、フリードは白音の背におぶられている。――というのも最初は誰が面倒を見るかで揉めていたのだが、紆余曲折の末、饅頭の詰め合わせの献上で決着がついた。
そして一行は、酔い潰れたフリードをなんとか寄宿舎へ連れて帰り、ドタバタ続きの初日に幕を下ろすのであった。
◇
王都生活二日目。
今日はリベラルで到着の報せを待っているエステルに無事着いたと報告し、どのタイミングでエステルがこっちに来るのかを確認する予定だ。――まぁ本当は昨日中に済ませたかったんだが、フリードを放っておくわけにもいかないので、渋々翌日に持ち越した。
「んじゃ、いつも通りパパっとやってくれ」
「わかりました。 ――巡り巡りて回帰する、刻の円環へと導く杖よ、我が呼びかけに応じ刻み込め『クロノリンク=Ⅳ』」
アリスが神札を用いて寄宿舎の一室と契約を交わす。――なお、今回使ったⅣが現在アリスに解放できる枚数の上限で、これ以上他の場所を登録するにはアリスのレベルを上げる必要がある。
「終わりました」
「りょーかい。――んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
「うむ」
「いってら~なの~」
部屋にレン、白音、スーを残して結弦はアリスと二人でリベラルへと転移する。
そしてエステルが居る執務室へと向かい、彼女に到着の報告をする。
「――っというわけで、向こうとのゲートは確立したぞ」
「ありがとうございます」
「あぁ。――それで、エステルはいつくるんだ?」
「そうですね~ ファルネス、つかぬことを聞きますがあそこにある書類は貴方に任せてもいいかしら?」
エステルは部屋の片隅にある一メートル程度に積まれた紙の束を指差す。
「これを全部ですか? ――いくらなんでもちょっと多すぎる気が……いえ、今回は公務ですし致し方ありませんか……(よしっ!)――なにか?」
「何でもありません。――さてユヅル様、見ての通り私の仕事は片付きましたので行きましょうか」
「あ……あぁ」
エステルはファルネスの見えないところで小さくガッツポーズを決める。――これ本当に連れていっていいのだろうか?
「ユヅル殿、本来でしたら私も同伴するべきなのでしょうが、たった今大量の書類と格闘する事になってしまいましたので聖下のことはお任せいたします。――基本的に細かいことは聖下ご自身で何とかすると思いますので心配はしていませんが、くれぐれも安全の確保だけは怠りませぬようお願いします」
「あぁ、任せてくれ」
「では、ゲートを開きますね。――『オープン』」
アリスが帰還用のゲートを展開し、エステルを加えた三人は王都へと旅立つ。
♢
王都に戻ると、部屋で待機していた三人を含めて今日の予定について会議をすることになった。
「――で、国への要請とやらはどうするつもりなんだ?」
「それに関しましては国王に直接嘆願しようと思います」
「随分サクッと言ったが、それ結構大変なことだろ?」
「まぁ流石に『来ちゃった♪』で会えるような方ではありませんので事務方伝いで謁見の予定を入れてもらうことになるかと。――確か、案内役に軍人の方が一人付いているとのことですので、その方にお願いしましょうか」
「それはいいんだがあいつ大丈夫かな? 昨日部屋に放り込んだ時は死にかけの爺さんみたいな顔色だったんだが……」
もしかしたらもう手遅れかもしれん。
「まぁ軍人さんですしなんとかなるでしょう」
「鬼だな……まぁフリードには昨日の分も挽回してもらうか。――ってかそうすると今日の午後が丸一日フリーになるのだが、わざわざファルネスに仕事全部押し付けてまで来る必要はあったのか?」
「それは勿論! せっかく早く来たのですから王都を見て回らないと♪」
「おいおい、別に遊びじゃないんだぞ? それとフリードに国王とのアポを取らせるとなるとお前の護衛がいなくなるだろ?」
「いるじゃないですか? ここにいっぱい。それに教皇である私の言葉が聞けないんですか?」
「そうです! ファルネスさんにも頼まれていますし私たちで守りましょう!」
毎度お馴染みエステル信者のアリスが彼女の援護射撃をする。
昨日のフリードの件もあるからアリスにたいしてはあまり強く出れないのが歯がゆい。
「あぁもう好きにしてくれ。――ただし、何が何でも俺から離れるなよ?」
「あらら♪ ユヅル様に求められちゃいました」
「お前ってやつは……」
「ぬしさまはモテモテじゃからのぅ~ してエステルは童たちを何処に連れていってくれるのじゃ?」
「にくー!」
「そうですね~ 皆様が美食家なのは心得ていますので、美味しいお店と街の名所を効率良く回れるコースにしようかと思います」
「素晴らしいのじゃ!」
「にくー!」
エステルの方針に白音とレンは両手を挙げて賛同する。――やっぱこいつらと一緒にいると食道楽ばっかになる。なんで太らないんだろう?
「さて、予定も決まりましたしそろそろ出掛けましょうか?」
「あぁ、でもその前にフリードの所に寄ってからな」
「すっかり忘れてました。――元気になっているといいのですが……」
「そうだな」
結弦たち一行はフリードが寝泊まりしている部屋へ向かう。
そしてフリードに国王とのアポイントメントを取って貰おうとしたのだが……
「本物の聖下がおられる……」
そう一言残し、彼は思考を停止してしまった。
「この方が?」
「はい、この街の案内と私たちの護衛をしてくださっているフリードさんです」
「エステル見て固まっちまってるけど……」
「どうしましょう?」
エステルは以前、ザイードの街に訪れた時もタンゲに男泣きをさせていた。――俺には分からないんだが、教皇ってそんなに尊いものなのだろうか?
「まぁこんなとこで時間を食ってもしょうがない。――レン、白音、一発いってくれ」
「仕方ないのぅ」
「いくのー!」
二人はフリードの頬を片方ずつ叩く。
すると、あっちの世界へ飛んでいたフリードは目をパチパチさせながら正気を取り戻した。
「あれ? 私はいったい……」
「私の顔を見て気を失われていたんです。――それで、お願いがあるのですが、国王様への謁見の取り次ぎをしてもらえないでしょうか?」
「申し訳ありません。大変失礼でお見苦しいところをお見せしました。――国王様への謁見、このフリードが必ずしも叶えてみせます!」
「よろしくお願いします」
我に返ったフリードは今までで最も使命感に満ちた顔でエステルの頼みを承諾した。――今更だけど大丈夫かな? こいつ、見た目はまともそうなんだけど、中身はポンコツなんだよな。まぁ流石に事務仕事だから大丈夫か。
「んじゃ、やることもやったしとっとと観光に行くか。さっきも言ったがエステルは絶対に俺たちから離れるなよ?」
「はい♪ ちゃんと守ってくださいね」
そう言ってエステルは結弦の左腕に抱きつく。
「いいなぁ~ それなら私は右を」
「ぬぬぬ、なら童は後ろを!」
「いやこれもう歩きにくいだけだからな」
エステルの行動を見たアリスと白音が追加でくっついてくる。
うぐぅ、純粋に動きにくいし、何より暑い。――こんなんで本当に大丈夫なんだろうか?
そして、王都二日目の午後はエステル主宰の王都観光ツアーになるのであった。
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