幕間 黄金の鹿:後編
=Side Alice&Sue&Esther =
「クラウンディア、どうしてあなたはいつも私の前に現れるのですか?」
「クルルゥ」
「スーちゃんなんて?」
「『キミの瞳はボクとよく似ている』だそうだ」
リベラル郊外にある巨大な湖畔にてアリスとスー、エステルは黄金に輝く鹿『クラウンディア』と遭遇していた。
当初はリベラル復興の目玉イベントとして、この魔物の丸焼きを企画していたのだが、どういう訳かエステルは魔物との対話を始めた。
「私に……ですか。それは一人浮かない顔をして湖を眺めていた時の私なんでしょうね」
エステルは湖に訪れる時の自分を回想する。
私がここに来る時って大体激務に追われて疲れ果てている時だから、弱っている私に共感でもしたのかしら? ――いや、違うわね。
「あなたは私がひとりぼっちなのを見抜いていたのかしら?」
「エステル様……」
アリスは先ほどのエステルが見せた弱い面を思い出す。
「クルゥ」
「どうやらそのようね。でも安心して、私にもようやく本当の自分を見せられる友達ができたから」
アリスが隣で暗い顔をしている横でエステルは魔物とアリスの両方に言い聞かせるように晴れやかな声で語りかける。
「クルウゥ」
「『そうか、それならボクの役目は終わりかな』と」
クラウンディアは満足そうに天を仰ぎながら声を漏らす。
そして数瞬の間、空を眺め続けた魔物はアリスたちに背を向け去ってゆく。
「待って! 今さっきあなたは私とよく似ているって言ったわ。それがひとりぼっちの私を指しているのなら次はあなたの番ではなくて?」
エステルは今にも茂みに入ろうとしているクラウンディアの後を追いかける。
「嬢ちゃん! 迂闊に魔物に近づくでない!」
「スーちゃん待って!」
スーがエステルを制止しようと動き出すのをアリスは止める。
そしてクラウンディアに駆け寄ったエステルはそのまま魔物に抱きつき、引き留める。
「クルルゥ?」
困惑気味な声を上げるクラウンディアはエステルの行動についていけずにいた。
「今まで私を心配してくれていたんだもの……それに報いてあげるのが教皇としての私だから。アリスちゃん、神札を一枚貰えないかしら?」
「!? ――え~とそれは流石にフィリア様に怒られてしまう気が……いえ、怒られる時は一緒に怒られてくださいね?」
アリスはエステルの瞳を見て考え直す。――私がエステル様の傍にずっといられない以上、支えとなる存在は必要なのかもしれない。フィリア様に怒られてしまう気もしますが私のかけがえのないお友達の為です……目を瞑ってください!
アリスが神札から『カップのⅡ』を取り出し、エステルに渡す。
「ありがとう」
「何をするかは大体予想付いていますがよろしいのですか?」
「えぇ、これは私が選んだ教皇としての人生を後悔しない為に必要なことなの。――あなたもいいわね?」
「クルルゥ」
クラウンディアもエステルが何をしようとしているのかを直感的に感じ取り、彼女と向き合う。
「わかりました。では私の後に続いて詠唱をお願いします」
「ありがとう。――巡り巡りて回帰する、刻の円環を汲みし杯よ、我が呼びかけに応え顕現せよ『クロノリンク=Ⅱ(セカンド)』」
エステルがアリスの言葉を復唱し、力ある詞を紡ぐ。すると、スーを召喚した時と同様にクラウンディアの周りを暖かな光が包み込んだ。
やがて光は収まり、エステルが手にしている神札にはクラウンディアの姿が描かれていた。
「これで私とあなたも友達よ。アリスちゃんとディア……二人も友人が出来るなんて私は欲張りなのでしょうね。――クロノス様、この出会いに感謝を申し上げます」
エステルは手を組み天に祈りを捧げる。
それは常日頃教皇が捧げるどの祈りよりも純粋で敬虔なものであった。
== Side Yuduru ==
「以上がクラウンディア……いえ、ディアの顛末になります」
「なるほど、つまり俺たちはとんだ茶番劇に巻き込まれたわけか」
合流した結弦たちにアリスが先の出来事を伝える。
「騙す形になってしまい申し訳ありません。ずっと前からディアとはお話してみたかったのですが、こうでもしないとファルネスが許してくれませんので」
「確かにあのおっさん堅物そうだからなぁ~」
「えぇ、根は真面目で良い人なんですけどね」
「まぁそういうことなら素直に騙されておくか。――さて、依頼も達成したわけだし、ここからは湖畔バカンスといこうか」
「はい♪」
多少形は変わってしまったが、無事依頼を達成した結弦たちは本日のメインイベントである湖での遊戯にディアを含めて興じるのであった。
♢
夕刻、ディアを引き連れてリベラルへと帰還した結弦たちは、この街に来てから何度目か分からない騒ぎに巻き込まれた。――まぁ、今回に限って言えば原因は俺たちの方にあるんだが。
「エステル様、これは一体どういうことですか?」
「ファルネス……ディアがあんまりにも可愛かったので連れて帰ってきちゃいました」
「可愛かったって……これ魔物じゃないですか!? 危険です!」
「まぁそこはほら、大人しいし平気だろ?」
結弦がエステルの擁護をする。
そして、騒ぎを聞きつけた野次馬達が結弦たちを遠巻きからヒソヒソと噂話を始める。
「と、とにかくここは目立ちます。続きは仮設テントに場所を変えてからにしましょう」
「そうですね。――ですがその前に、皆さん! こちらの黄金に輝く鹿は今日から私たち教会の新しい守り神になりました。正式なお披露目はこの教会が完成した時を予定しているので楽しみにしていてくださいね」
「また勝手な事を……」
「いいじゃないか、街の連中も納得してくれたみたいだし」
結弦が目で促した先には好意的な視線を向ける住人たちがいた。
こりゃ勝負あったな。咄嗟の事とは言え、住民を味方につけた以上、ディアの処遇は決定したと言えるだろう。――流石は百戦錬磨の教皇様だ。
こうしてこの日を境にリベラルの街には一体の鹿が悠々と闊歩するようになるのであった。




