2.35 千年の刻を経て
2章本編最終話です。
ザイードでの騒動も一段落し、リベラルの自室にて眠りに落ちた結弦は夢の中でフィリアに会っていた。
「今回は随分とお早いご登場で……半日ぶりか?」
「そうね……四ヵ月も昼寝続きで私も飽きちゃったのよ」
昼間、指先一つで街の一部を灰燼に帰した人のセリフとは思えないが……パッと見、身体に不調は無さそうだし力が戻ってきているということだろう。
「あれ? でも昼間のグリード相手にトンデモ技使ってたよな? また眠りにつくのか?」
「あんなの周囲の『気』を集めただけで私の力なんて微塵も混ぜていないわ。精々、現界し続けるのに霊力を少し使ったくらいよ」
「まぁ今更お前のイカレっぷりに驚きはしないが……じゃあなんで出てきたんだ?」
一応今までは俺にとって分岐点となるタイミングでフィリアは会いに来ていた。
確かに今回の事件で俺らは王都に食道楽以外の用事が出来たので、タイミング的には分からなくも無いが……
「えぇ、あなたの考えている通りよ。昼間に出てきたあのグリードって男、よくよく考えてみたら少し心辺りがあってね。――ちょっと私も王都に用事が出来たのよ」
「王都に用事ってなると王様にでも会いにいくのか?」
「まぁそんなところね」
随分と軽いノリだな。
「一応神様なんだしそうポンポンと出てこられても困るんだが……言っても無駄か」
「安心しなさい。流石に私も昼間から堂々と現れたりしないわ。夜中にこっそりと会いに行くつもりだから結弦にはその手助けをお願いしたいの」
「また面倒なことを持ってきたな」
俺が引っ掻き回される未来が容易に思い浮かぶ。
「まぁ今までみたいに戦うわけじゃないだろうし、なるべく期待に添えられるよう努力するよ」
「いい子ね、細かい話は追々するとして……今日はもう一つお願いがあるの」
「ん?」
「暇なの」
「んん!?」
なんかこの流れ前にもあったような……
「察しが良くて助かるわ。さっきも言ったけどずっと昼寝続きで暇してるの。――だから少し相手しなさい?」
「まぁお前の暇神モードにはよく付き合わされていたし別に構わないんが、本当は俺よりも白音と話したいんじゃないのか?」
結弦の言葉にフィリアが一瞬たじろぐ。
どうやら図星のようだ。俺をダシに使って白音と寄りを戻したいのがミエミエだ。――そういうところはフィリアも白音もたいして変わらないな。
「何かしら? その顔、またお仕置きされたいの?」
「あれマジで死ぬほど痛いんだから冗談でも止めてくれ。――別にこの場には俺しか居ないんだしもう少し素直になったらどうだ? どうせ俺がフォローすることになるんだろうから少しは協力的にだなぁ……」
ぶっちゃけ、白音の方がフィリアに会いたがっているんだし何をウジウジしているのかわけがわからん。
「それだと私の威厳とか立場とか……」
「それこそ今更だろ? お互い痛い所は散々見ているんだし、さっさと呼んでくれ」
「ほんと貴方ってデリカシーってものがないね。ちゃんとフォローしなさいよね? ――よっ! そ~れ♪」
掛け声はアリスの時と一緒なんだな。――なんていうかシリアスな場面が台無しだ。
そんなげんなりしている結弦をよそに、白音は夢の中の世界へと現れた。
「んにゃにゃ!? ぬしさまとフィリアねえ様なのじゃ♪ うぬうぬ今日は童も頑張ったからのぅ、きっとこれはご褒美に違いない! ねえ様~」
夢の中と勘違い(厳密には正しいのだが)している白音はフィリアを視界に捉えると、欲望のままに抱きついた。
「こら白音! 離れなさい、暑苦しいでしょ?」
「良かったな。向こうからすり寄ってきて……俺はお邪魔そうだし、帰っていいか?」
「ダメに決まっているでしょ! いいからこのバカ狐を早くひっぺがしなさい!」
「へ~い」
いつもとキャラがブレブレなフィリアに苦笑いしつつも、言われた通りに白音を引き剥がす。
「何をするのじゃ! せっかくねえ様が目の前におるのに……はっ! これは嫉妬なのかや? もしかして童がねえ様に取られてしまうと思ってしもうたのかのぅ? 弱ったのじゃ、童モテモテなのじゃ♪」
「なぁフィリア、俺帰っていいか?」
「ここで貴方にいなくなられたら今日呼んだ意味がないでしょ」
結弦はさらっと今日呼ばれた一番の理由だとカミングアウトされる。
ほんとどこまで面倒な女神様なんだか……
「ほら白音、バカやってないでそろそろ目を覚ませ」
「んにゃ? ぬしさまは何を言っとるのじゃ? 夢なのじゃから目を覚ましたら終わってしまうではないか!」
「一応夢の中にいることは自覚しているんだな。心配しなくていい、起きてもここの記憶は残るし一応俺らも本物だ」
「本当いつまで経っても鈍いままね。普段どんな夢を見ているのかしら?」
「またまた冗談を……そんな訳あるわけ……痛っ!!」
いつまでもベタな反応をする白音に業を煮やしたのか、フィリア特製のデコピンが炸裂した。――あれクソ痛いんだよなぁ~ 本人が言うにはレベル無視らしいし。
「この痛み、昔怒られた時と同じなのじゃ! ってことは本物のフィリアねえ様なのかや?」
「妙な所で本物認定されてしまったけど、まぁいいわ。――半日ぶりね、白音」
「ねえ様~」
白音は本人だと分かった途端、再びフィリアに抱きつく。
「結局状況は変わってないように見えるが」
「奇遇ね。私も呼んで後悔しているところよ。――後、暑いからさっさと離れなさい!」
フィリアが白音を引き剥がす。さっきのデコピンと違い、今度は優しく押し戻しているあたり、本当は満更でも無かったのかもしれない。――つくづく素直じゃない。
「結弦、あんまり余計な事を考えていると貴方にも一喝いれるわよ?」
「はいはい。話が進まないからそろそろ本題に戻ろうな? 言いたいことがあるんだろう?」
「貴方楽しんでるでしょう。覚えておきなさいよ? ――白音、千年前は酷い別れかたをしてしまったから謝りたかったの。――ごめんなさい」
「あのフィリアねえ様が頭を下げ……ってそうじゃない。ねえ様は何も悪くないのじゃ。童が子供だっただけなのじゃ」
「今もたいして変わっていないがな」
「そうね。でもきちんと顔を見せてくれるあたり、しっかりと成長しているのよ?」
「よっぽど昔は悪餓鬼だったんだな」
「えぇ、それはもう魔王なんかになっちゃうくらいに手を焼かされたわ」
「ぬしさまもねえ様も童の前で昔話は止めてくりゃれ。これでもねえ様には悪いことをしたと思っておるのじゃ」
「わかっているわ。――でもそうね、貴方とまた会えて良かったわ」
「童もじゃ。これからは悪いことはしないから側に置いといて欲しいのじゃ」
こうしてみると仲の良い姉妹みたいだ。――まぁこれでわだかまりが解決したなら俺としても助かる。
その後、結弦はフィリアと白音の昔話を延々と聞かされ、気付いた頃にはベッドで目を覚ましていた。
◇
「ぬしさま、さっきはありがとうなのじゃ♪」
寝起き一番に白音は結弦に抱きつき、夢の中での礼を言う。
「あぁ、これからはいつでも夢の中で会えるから寂しくなったら寝る前にでも呼び掛けてやればいい」
「わかったのじゃ♪」
とびきりの笑顔を向けてくる白音に結弦は頭を優しく撫でてやり、寝ている他の皆を起こした。
◇
朝食後、結弦たちはエステルに挨拶を済ませ、ザイードに転移した。
「さて、こっからはクロの出番だが大丈夫か?」
「やる気に満ち溢れているの~」
「そんじゃお言葉に甘えて王都まで飛んでもらうかね」
「キシャー!!」
結弦たちはクロの背に跨がり、ゆっくりと大空へと舞い上がる。
さて、いよいよ王都だ!
日本ではそんな場所無かったし、今からワクワクが止まらない。
頭にも書きましたが本編はここで一区切りです。
なんやかんやと重要そうな人物が出てきました。
次章からは少しずつ物語の核に迫っていくと思います。
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それでは3章以降の結弦君たちの活躍をご期待ください。




