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1.6 必要なもの:その2

 結弦は新たに仲間となったアリスを連れて、落ち着いた雰囲気の公園へ移動した。

 ちなみに今度は手元に街の地図があったので迷うことなく目的の場所へ行くことができた。


 そして公園についた結弦たちは、改めて自己紹介と今後の予定について話を始める。


「まずは改めて挨拶といこうか。俺は大野結弦という……職業は冒険者で、この街にはさっき来たばかりだ。正直、この辺りは土地勘が無いからアリスにはそこら辺のサポートを期待してる」

「かしこまりました。では次は私の番ですね。……先程も紹介させて頂きましたが、私はアリスと申します。――ご主人様、この度は私とのご契約、誠にありがとうございました。今後ご主人様が快適な生活を送れるよう日夜、精一杯ご奉仕をさせていただきます」


 アリスは持ち前の作法スキルをフルに使った自己紹介をしてくれたのだろう。――ただ、こうも気立てが良いとこっちが緊張してしまうな。


「アリス、その礼儀正しさは美点だと思うが、俺に対してはもっと砕けた感じでいいぞ」

「よろしいのでしょうか?」

「あぁ、俺は生まれてこの方、奴隷というものを持ったことが無くてな。――出来る事なら共に旅する仲間として接したい……ダメか?」

「いいえ、ご主人様の寛大なお心に私はとてもうれしく思います。――ゴホン、では改めてよろしくお願いしますね、ご主人様♪」


 うん、こっちの方が年相応で可愛らしいな。

   

「さて、お互いの紹介はここら辺にするとして……アリス、早速なんだがこの街の案内を頼んでもいいか? 今日は生活に必要なものを一通り揃えるつもりだったんだ」

「そうでしたか……もちろんお任せください。私も元はここの市民でしたので、この街にあるお店は一通り把握しています」

「それは助かる。まずは……そうだな、服を何着か購入したいから服屋へ連れていってくれ」

「わかりました。――ついてきてください」


 結弦はアリスの案内に従い公園を後にする。


 ――とりあえず滑り出しは上々と言っていいだろう。あのくらいの年齢の女の子を相手にするのは随分と久しぶりだから内心、キョドってないか心配だった。

 それとこの感じなら今日はアリスを頼っていれば全て事が済みそうだ。


 この街に来て最初の買い物が奴隷だったりしたせいか、最初はどうしたものかと頭を悩ませたが、アリスを見るに地で頭の回転が速そうだから、この先色々と助けになってくれるだろう。



 アリスに連れられること五分弱、最初の目的地である服屋にたどり着く。

 場所は先刻、行商団の面々と別れた中央広場が見える位置だった。


 こんな近くに目的の店があったとは……なぜ気づかなかったんだ俺。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご入用でしょうか?」

「俺と彼女の服を……そうですね、三セットと丈夫な靴を二足ほど見繕ってください」

「ふぇっ!?」


 突然、横にいたアリスがすっとんきょうな声を出す。……何か変な事を言ってしまったのだろうか?


 う~む、応対してくれている店員は営業スマイル全開だし判断がつかん。――まぁ別に気にすることもないか。


「かしこまりました。紳士用の服は向かって右側がシャツや羽織物を取り扱っており、その対面がパンツと肌着、靴を揃えております。――婦人服につきましては二階になります」

「わかりました。――俺の方は一人で適当に見繕うことにしますので、彼女に合う服を用意してやってください」

「かしこまりました。――終わり次第、お呼び致します」


 そう言って、店員はアリスを連れて二階に上がっていった。


 ――さてと、俺自身服に特別な拘りもないしここはパパッと買ってしまおう。この世界に来て三日……汗臭いしさっさと着替えたかった。


 結弦は店員が案内していた紳士服エリアに足を運ぶ。


 こちらの世界の人たちは全体的にダボついた服を着ている。細かな違いはあるものの、元の世界とは大きな差異はない。

 唯一違いがあるとすれば、この短パンみたいなのが下着という点くらいか。


 結弦は適当に上下三セットと長く使っても傷みにくそうな靴を一足選んで会計を済ませる。

 全部で金貨一枚と銀貨五枚の出費となった。


 アリスが気を利かせて、高くもなく安くもなくといった店を選んでくれたのだろう。


 自分の用事が終わり、手持無沙汰のままニ十分ほど待っていると、二階から店員と綺麗に着飾ったアリスが降りてきた。

 やはりと言うべきか元が整った出で立ちをしていただけあって、アリスの外見は大きく変貌していた。

 具体的には、華やかなパステルカラーの生地にこの世界のものと思える花をワンポイント入れたブラウスと落ち着いた色のスカートを組み合わせた装いとなっている。


 ――うん、服一つで先ほどとは見違える美少女になっている。これは本当に気を抜くと心を奪われてしまいそうだ。


「大変お待たせ致しました。私の方で服を三着と靴を二足ほど見繕わせていただきました」


 よくやった。店員さんGJ!


 店員は棒立ちのアリスの前に他の服をあてがう。


 どれもアリスの可愛さを引き出すパーフェクトな選択だった。さすがはプロ、センスが伺える。


「助かります……どれも問題なさそうなので、全て購入でお願いします」

「かしこまりました。――服が三セットと靴が二足でお代は銀貨二十八枚となります」


 スィード金貨三枚弱か。――女物の服は高くなるとは思っていたが俺の二倍弱とは驚いた。


 まぁそれだけの物は見せてもらったので文句はない。


 店員に服の代金を払い、服飾屋を後にする。

 なお、アリスは終始硬直状態で口元だけはパクパクと魚のような動きを見せていた。



 店を出ると、今まで大人しかったアリスが、急に俺の腕を掴んで路地の隙間へ連れ込む。


「ご主人様! 今更遅いとは思いますが……本当によろしいのでしょうか?」

「何がだ?」

「このお洋服一式です。奴隷は本来、無償で主人に奉仕することが使命です。――たとえ対価を頂くにしても、ここまで高価な物を贈る人はいません」


 知らなかった。

 さっきは顔に出さなかっただけで、さぞ店員さんも不思議に思ったことだろう。


 ――とは言え、服はもう買ってしまったのでこれはアリスの物だ。下手に風邪を引かれても困るし、

俺の目の保養にもなるので返却という選択肢は存在しない。


「かまわない。――公園でも言ったが、俺にとってアリスは大事な仲間だ。お互いの能力や立場が違うのは仕方がないにしても、身に着ける服くらいは同じ店の物でもいいだろう?」

「本気ですか?」

「別に冗談を言う場面とも思えないが?」

「そうですか……ご主人様、大変申し訳ありませんでした。――ご主人様が思い描く私との関係性に私自身の理解が至っておりませんでした。――ご主人様から頂いたこの服は後生、大事に着させていただきます」

「あぁ、大事に着てくれ」


 アリスは今日一番の感情が籠った言葉を送ってくれた。

 そして心なしかアリスが笑顔になってくれた気がする。――これで少しは彼女との壁を取り払えたかな?


 なんとなくアリスとの絆が深くなったことを感じた結弦は、再び表通りに戻り、買い物を再開した。

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