2.33 言伝
『ごめん……なさい。今回は……無理』
毎度お馴染みの刻の流れが止まった世界。
結弦はいつの軽い調子でフィリアへ呼びかけたが、彼女の返答は予想外のものだった。
『おい……どうした? 』
『フィリア様? 大丈夫ですか?』
『ちょっと……邪魔が入ってて……ね』
同じく神札を通してフィリアと通じているアリスも異変に気付いたようだ。
そして酷くノイズが混じった彼女の声に、二人はどうしたものがいいかと困惑する。
『今あなた達が……対峙しているその男、……この場に現れた時から……私にちょっかいをかけてくるのよ』
『ちょっかい? お前のことを感知してるって言うのか?』
『それは多分無いわね……アイツ、この街を覆う結界みたいなものを張っていて……自分の意図しない存在を……弾き出そうとしているみたい……』
俺たちと戦っている片手間にそんなことをしていたのか。それもフィリアが苦戦するってことはよっぽど強力な奴を張っているんだろうな。
『えぇ、……人間にしてはたいしたものよ……私が……もう少し本調子だったら……破れなくは無いんだけど……今は無理ね』
『となると今回はお前の力をあてに出来なそうだな』
『ごめんなさい。――こっちも貴方たちに話しかけるのが精一杯で…………神剣生成に割く……リソースは余ってないわ』
『フィリア様が謝られることはありません。確かに厄介な敵ですけど私たちがなんと……あれ?』
『気付かれた!? ……まさか逆探知されるなんて……結弦、……気をつけ……なさ』
突然、停止していた結弦たちの時間は動き出し、それを境にフィリアの声も聞こえなくなってしまった。
「み~つけた♪ 酷いなぁ~ 僕を除け者にして二人でお楽しみとは……」
「アリスもいるから三人だ……ってか今のはお前の仕業か?」
グリードが今までに見たことのない無い卑しげな笑みを浮かべる。
「ご名答。実は僕、君と遊ぶ事とは別にもう一つ大事な使命があってね。――刻の巡りを阻害する存在の調査、簡単に言ってしまえば結弦クンたちの身辺調査さ」
「それだけの為にあれほどの迷惑をかけたというのか……」
二つの街でグリードは沢山の人々を傷つけ悲しませた。――到底こいつの所業は許されるものではない。
「まぁ過程は僕に裁量を任されているからね。研究がてらエンターテイメント性に富んだ講演をさせて貰ったよ。――でもそうか……君の後ろに居たのがあのフィリア・ミラ・クロノス本人だったとは、流石の僕でもこの結果は予想出来なかった……」
どうやらフィリアの存在は完全に感知されているみたいだ。
「でもおかしいね……ご本人様なら僕の結界なんて簡単に破れるハズなんだけど……?」
「それは……」
「まぁいいや……せっかく見つけたんだ、いつまでもそこに隠れてないで出てきて話でもしようじゃないか!」
グリードは興奮気味に手を叩く。
すると今まで辺りをふよふよと浮いていた妖精たちが一つに凝縮、融合し、手のひらサイズで闇色の球体へと変化した。――現れた球体からは、この世の物とは思えない異質な『闇』が周囲に撒き散らされている。
「さぁ千年ぶりの邂逅だ!」
そして彼は球体に手を突っ込み、中からとある者を抜き取った。
「まったく……初対面のレディを無理やり引きずり出すなんてどっかの『誰かさん』以上に礼儀がなっていないわね」
「えっ!? フィリア……なのか?」
「えぇ、こうしてこちらの世界で会うのは四ヶ月ぶりね」
闇色の球体からグリードに引きずり出されたフィリアは彼の手を振り払い、結弦の元に舞い降りる。
「おぉ! これは! 神々しい! 苦節千年、貴方を見つけるのにどれだけ時間を費やしたことか! あぁこれこそ天運、感謝しますよ結弦クン」
「随分と気味の悪い奴に愛されているのね」
「辛いからあまり抉らないでくれ。――ってか大丈夫なのか? さっきはすごく苦しそうだったが」
「えぇ、あれは貴方の懐中時計に宿っていたからであって、外に出てしまえば周囲の魔素が私を護ってくれるわ」
相変わらずなんでもありのようだ。
「そうでもないわ、こちらに顕現し続けるにはかなりの霊力を使うから早めに片付ける必要があるわ。――と言うわけだから手短に終わらせましょうか?」
フィリアは周囲の魔素を大量に取り込む。それこそ、素人の結弦が知覚出来るほど濃密なやつを……
「これはこれは……御身と殺し合うのも楽しそうですが、今はあなたに伝言がありましてね」
「へぇ~ 私を引っ張り出しておいてどの口が言うのかしら?」
気分を害したのか、フィリアは黒い炎を帯びた巨大な槍をグリードに投げつける。――なんか禍々しすぎて神様が使うような武器に見えないんだけど……
しかしそれがグリードに当たることは無く、彼は平然と会話を続ける。
「まぁまぁ……そう怒らないでくださいよ。所詮僕は伝書鳩に過ぎないのですから」
「ふ~ん……それで伝言ってのは何かしら?」
「あなたが今まで封じていた祀ろわぬ者たちが解き放たれました。簡単に殺されても面白くないのでせいぜい足掻いてみなさい。――と僕の神からの言伝です」
「『僕の神』ねぇ~ どこの誰か知らないけど、また面倒なことをしてくれたものね。――それに祀ろわぬ者ってあなたも含まれているのでしょう?」
「僕はただの研究者ですよ。――さて、あなたへの伝言も済ませましたので僕はそろそろ退散するとしましょうか」
「逃がすとでも?」
「あまりいっちょ前に吠えないでください。今の抜け殻みたいなあなた相手に後れは取りませんよ。――じゃあ結弦クン、また僕の発表を聞きに来てください。刻の巡りが交わる落日に」
グリードはそう言い残すと闇色の球体の中へと吸い込まれていき、球体もグリードの身体が消滅するのと共に霧散した。
「完全に見失ったのじゃ。気配もなにも感じられん」
「最初から最後までわけのわからんやつだったな」
「はい、それに恐らくですがまだ本気は出していないかと」
「あぁ、次はもう少し善戦できるように鍛えないとな。――でもまぁとりあえずは誰も欠けることなく乗り越えられてよかった」
「そうね。特に大きなケガもしていないようだし、ひとまずは良しとしましょうか。――みんなご苦労様」
フィリアが皆を労う。
その言葉に安堵したのか皆肩の力が抜けて地面へ座り込んだ。
一人を除いて……
「フィリア姉さま……出会ってしまった以上次は童かのぅ?」
「安心しなさい。今のあなたを罰する気はないわ……結弦にも必要な存在だしね」
「おい! その言い方、含みを感じるのだが……」
「これでも私は器の大きい女神様なのよ? 愛人の数なんて気にしないしハーレムなんて男冥利でしょう?」
「は~れむなの~」
レンは絶対言葉の響きだけで言ってやがるな。
「本当かや? 千年前の事を思えば童は素直に滅されるべきなのかもしれないのじゃ」
「ほんと手がかかる子ね。その気があるなら結弦と会った瞬間に私自ら引導を渡していたわ」
おいおい、神様が直接手を出すのはいけないんじゃなかったのか?
白音はフィリアの言葉を噛みしめる。
そして、結弦と目を合わせ何かを悟ったのか、次第にいつもの表情へと戻っていく。
「うむ、わかったのじゃ! フィリア姉さまのご命令とあらば童も誠心誠意尽くすのじゃ♪」
「おいこら! 暑苦しいからくっつくな!」
「あっ! ――白音さんばかりズルいです!」
「ぺったんこなの~」
白音が結弦にべったりと抱き着いてくる。加えて乙女の意地なのかアリスとレンも後を追って突撃してくる。
当然、三人を抱え込むことは出来ず仲良く四人で倒れ込むことになるのだが、そんな様子をフィリアは微笑ましく眺めているのであった。
一話以来のフィリア様降臨です。
後、数話で二章も終わりなのですが、ようやくこの物語の構成上重要な敵を登場させることができました。(構想段階では結構早い時点であったのですが、なんやかんやとようやく書けた次第です)
三章以降はこのグリードさん達が絡むことも多くなるので、一度きっちりと区切って二章の修正作業に移りたいと思います。
追記:
評価ptが100を超えてから三週間程たちましたが、嬉しいことにもう200ptの壁が見えてきました。
これも皆様のおかげです。(ありがとうございました<(_ _)>)
200pt突破でまた幕間を書いてみようかなと思うので引き続きのご支援と書き上げた時は覗いてみてもらえると幸いです。




