2.32 木星の王
ここ最近に起きた事件の首謀者と思われる謎の男『グリード』との戦闘が始まった。
彼は結弦たちが焼却しようとした小箱や周りの木材を材料に、全長五メートルほどの巨大な人形を作り、結弦たちに襲いかかってきた。
この人形は厄介なことに、本体とセットで作られた長剣には吸血能力が付与されているのだ。最悪カスっただけで一発K.O.になりかねないこの剣のせいで、結弦たちは常に吸血剣を警戒しなくてはならず、開戦から今に至るまで攻勢に出れずにいた。
「いやはや、僕はあまり生身で戦ったりしないんだけどこれはこれで楽しいね。生きてるって感じ? 研究開発に通じるものがあるね。――なんでだろう? 相手が君だからかな」
「気持ち悪いこと言うな。それとこの数を相手に余裕かまし過ぎだ」
「そうでもないさ。まだ僕の発表は序論しか見せてないしね。――『ジャベリン』」
結弦たちを相手に余裕綽々なグリードは、人形を巧みに操りながら詠唱省略の魔法を繰り出す。
ジャベリンと呼ばれたこの魔法は、先端が針のように鋭い木製の槍を無数に投擲してくるものだった。――当然、常に吸血剣を警戒する必要がある結弦たちにこれを全て躱すことは不可能である。
「便利そうな魔法をたくさん持っているな。こりゃ俺も悠長に話している暇はなさそうだ。――それ!」
回避は不可能と判断した結弦は、以前ギルドで購入した魔導書に載っていた土属性中級魔法『ロックウォール』を無詠唱で幾重にも展開して槍を全て弾き飛ばす。
「君のそれもだいぶ反則じみているじゃないか♪」
「俺もそう思うよ。でも、俺も俺以外にこんなチート野郎がいるとは思わなかったしおあいこだろ? ――っとこのままじゃ埒が明かない。白音、相手を変わって時間を稼いでくれ」
「やっとぷりてぃな白音ちゃんの出番が来たのじゃ♪ それじゃあお許しも出たことだし、景気づけに一発いってみようかのぅ。――宵の狭間に生まれし闇『蜃気楼』」
白音が周囲に濃度の高い霧を出現させ、敵の目を攪乱させる。
以前は敵同士だったということもあり、結弦はこの霧で視界がシャットアウトされた上に大量の白音が現れてとてんやわんやの状況に陥ってしまった。――が、今回は白音が配慮してくれたのか霧の中でも敵味方の位置がハイライトで浮かび上がっている。
「おやおや次は間違い探しですか。それともかくれんぼかな? どっちにしても趣向が凝っていて素晴らしいですよ」
「えっへんなのじゃ!」
「敵に乗せられてどうする! とりあえず組上がった。――交錯せし三光の束、狂え『リファクション』」
白音が時間を稼いでいる間に結弦は脳内で新しくアルゴリズムを組み直した詠唱改編魔法『リファクション』を発動する。幻影を生み出すこの魔法は、白音の鬼火を伴った分身と違ってただのハリボテでしかないが反面、数に制限はなく、分身体と併せて優に百体以上の敵影を生み出す。
これには流石に初見ということもあって、グリードと人形の動きが一瞬止まる。
そしてこの機に生じた隙を結弦たちが逃すわけも無く、各々が持つ必殺の一撃をロボットに向けて放つ。
「スーちゃん、杖に戻って!」
「相分かった」
「――原初の炎にして終焉への導き手、我が請うは審判の焔『クリムゾンブレス』」
「クロ~ いっくよ~ お肉の丸焼き斬り!」
「キシャァァ!」
「――惑い狂え狂乱の華、分身『爆裂』」
材料が可燃物ということもあり、三人と二体の火属性を帯びた高火力の一撃は動きを止めたロボットに深々と刻み込まれ、四肢が分断される。
「おやおや、これは困りましたね。せっかく作った私の作品がおしゃかですよ」
「どうやらお前の木偶人形はこれで攻略出来そうだ。もっといっぱい作ってもいいんだぞ?」
「いえいえ……技術者たるもの、一度切ったカードを再び切り直す事はありませんよ。――そろそろ頃合いでもありますしね……本論の時間です」
そう言うとグリードは予備動作無しで空中へ浮かびあがった。
そして、登場時に出現させた『ウォール』の魔法を使ってボールのような球体上のオブジェクトを作り、本人は中へ籠る。
「何のつもりだ?」
「色々と面白いものを見せてくれたからね……僕からのお礼さ。――天に捧げし我が御霊、星の巡りを搔き集め、面を上げろ『スピリット:木』」
グリードが初めて呪文を省略しないで魔法を発動させる。
すると、彼を覆っていた木の球体は弾け飛び、中からグリードと四つの小さな生き物が現れた。
「紹介するよ。僕の助手たちで『イオ』『エウロパ』『ガニメデ』『カリスト』だ」
「なんだと!?」
新たに出現した謎の生物は手のひらサイズの羽が生えた小人で、さながら絵本に出てくる妖精のようだった。――ってか今挙げた名前、聞き間違えでなければ木星の周りを回っている四大衛星だった気がするんだが……
「やはり知っていましたか。――では褒美に貴方が辿り着くべき正解へのヒントを一つ上げましょう。実は僕、前世の記憶ってのを持っているんですよ?」
「!? どういうことだ!」
「そこから先は自分で考えましょうか」
グリードは不適な笑みを浮かべながら四体の妖精を自分の周りに漂わせる。
こいつの言っている事がどこまで正しいか分からないが、少なくとも今の会話で俺が元の世界の知識を持っていることがバレた。――今までの奴と違って野放しにするのは危険すぎる。
「みんな、さっきの奴をもう一度行くぞ?」
「わかりました」
「わかったのー!」
「任せておくのじゃ!」
「あーダメですダメです……それだと芸が無い。僕と対峙するなら常に新規開拓の芽を持ってくれないとね? イオ、やりなさい」
「あいあいさ~『ウィンド』」
グリードが従えている妖精の一体が突風を起こす。
その風は白音が作り出した霧のカーテンを吹き飛ばし、白音の分身と結弦の幻影を消した。
「ぐぬぬ、どうやら二回目は無理そうなのじゃ」
「あの妖精さんたち、頭良さそうなの~」
「レンちゃん? 褒めてる場合じゃないですよ?」
「いえいえ、敵であっても素直に褒める精神、誠に感服いたします。この子達も久々の出番に喜んでいることですし……見せてあげましょうか」
「はぁ~ グリードはすぐ調子に乗るんだから……『スプラッシュ』」
「そこがいいんじゃない?『サンド』だよ~」
「Let's『ファイヤー』」
グリードの周りを漂う妖精たちが火・水・土・風の四大魔法を四方八方に繰り出す。
妖精たちは特に狙いも定めていなかったようで、しっちゃかめっちゃかに撃たれた魔法は周囲の建物を次々と破壊する。
「また面倒なことをしてくれる。これならさっきのデカブツを相手にしている方が幾分かマシだった……」
結弦は無邪気に魔法を放つ妖精たちをロボット以上に厄介な連中と認定した。
この妖精たちの一番危険な点は、次弾発射までのクールタイムが極端に少ないことだ。こうもポンポン撃たれるとグリードに近づく隙がない。――後、家屋への被害が時間経過に比例して拡大していくことも問題だ。
「あのちっこいの、思った以上に邪魔じゃのぅ」
「そうですね。街の被害もそろそろ見過ごせなくなってきましたし、早いとこ何とかしませんと」
前衛担当の白音やレンが近づけない状態に陥っている。
俺も迂闊に動けないし、新しい切り口を見つけないと不味いかもしれない。
――ってかいつもはこういう展開になると、なんだかんだとお節介を焼きにくるアイツがまだ現れていないな。
どうせいつも通り見てるんだろうし、そろっと出てきて意見出しの一つでもして欲しいところなんだけど……『どうですか~? 暇神さん?』
結弦は自身の腰元にある懐中時計に目を向ける。
『ごめん……なさい。今回は……無理』
案の定、こちらの様子を盗み見していたであろうフィリアから返事が返ってくる。――だが、その声は予想に反して苦しそうだ。
『おい……どうした?』
この手の面倒な奴は、フィリアに頼ってサクッと片付けようと思っていた結弦は、彼女の予想外の返事に困惑するのであった。
そう言えば結弦君って必殺の一撃的なの無かったですね。(神剣使って串刺しやブラックホール生成みたいなのはありましたけど)
ちなみに呪文については長ければ長いほど高火力、反対に短いほど速射性が高いものをイメージして考えています。
それとグリードさんですが「木属性―太陽系第5惑星の木星―第5ということで大罪の5番目で強欲」と言った感じでキャラを作りました。




