2.29 黒幕調査
結弦たちはタンゲの作る夕食に舌鼓を打った後、結弦を除く五人で仲良く川の字になって寝ていた。
「むにゃむにゃ、もう食べられないのじゃ」
「レンはまだいけるのぉ~」
「それならこちらをどうぞ」
「我はから揚げではないのだぁ」
「スーちゃんは私のですよ~」
そんな寝言だけで会話が成立している愉快な仲間達を結弦は縁側から眺めつつ、ザイードに残されているであろう敵の手掛かりについて考えていた。
エステルは捕らえた山賊からどうやって情報を引き出したのかは知らないが、先ほどこの街を少し歩いた感じ、よそ者が暗躍するのは思った以上に難しいような気がした。
この街はロクシタンやリベラルに比べて、住人たちは寝静まるのが早い。――それこそ日が暮れて二時間もすると聞こえるのが川のせせらぎぐらいしか無く、夜中にこそこそと活動しようものなら誰かしらの耳に絶対入っているだろう。
もちろん、白昼堂々と人気の無い場所で依頼を請け負った可能性もあるが、この街の規模を考えると人の目を盗むこと自体が至難の業だろう。
だからと言うわけでも無いが、明日からの調査は住民への聞き取りから進める予定だ。
基本中の基本ではあるがこの街の住人の結束力を鑑みれば、十分な成果は上げられると思う。
◇
「ではまた夜に」
「今日も来る気か? ちゃんとファルネスから許可を貰っておけよ?」
「しょうがないですね。お仕事の方、ご武運を祈っています」
「ありがとう」
翌日、エステルをリベラルに送り届け、結弦たちはリベラル襲撃の黒幕調査を開始した。
「じゃあ手筈通りに手分けして聞き込みをしていこう」
「わかりました(あい~)(行ってくるのじゃ)(うむ)」
アリスとスー、レンと白音、結弦の三組に別れて行動することにした。
==Side Ren&Shirone==
白音とレンは初日にクロと水遊びをした子供たちの元へやってきていた。
一応心配だからという理由でユニにも同行してもらっている。
「みんな集まってなの~」
「わーレンちゃんだ。――今日も遊ぼ~」
「ごめんなの、今日はお仕事しないとなの」
「そうなんだ~」
「お仕事終わったら遊ぶの~ だから皆のお話を聞かせて欲しいの」
「いいよ~」
「ありがとうなの。――じゃあさっそくだけど、半年くらい前に何か変なことなかったー?」
ご主人様は色々準備があるから聞き込みをするならそのくらいの時期に何かあったか聞いてこいって言ってたの。
「う~ん、半年も前の事はあんま覚えていないよ~」
「まぁそうじゃろうな。童も覚えとらん」
「レンもなの~」
「ってダメじゃない! ユヅルさんにお願いされたんだから何かしら手掛かりを探さないと!」
「ユニは真面目屋さんなの」
一緒についてきていたユニが流され始めていた二人を正す。
「あっ!? そう言えば半年くらい前って泥棒さんがいっぱい出てたよね?」
「確かにそうだったかも……お父さんに戸締まりしっかりしなさいってよく言われた~」
「ほほぅ、ちゃんとあるではないか」
「盗まれた物が食べ物ばっかりだったからあんま騒ぎにならなかったの。――動物さんかもしれないからって」
「――して、盗られたのはどこの家かのぅ?」
「街の外れに近い八百屋さんだよ。――ついてきて~」
子供たちがわーきゃー言いながら被害にあった八百屋さんとやらに走っていき、そんな子供たちを『まってなの~』、『案外ちょろいもんじゃ』と追いかける二人であった。
==Side Yuduru==
「――で、ここにたどり着いたと」
「そうなの~(うむ)」
「結局みんな同じ情報でしたね」
「あぁ、まぁそれだけ情報の確度が高いということだろう。――すみませーん!」
「いらっしゃい。何を買っていく?」
同じ手掛かりによって再度合流を果たした結弦たちは、件の八百屋に話を聞く。
「すみません、自分たちはちょっとお話を聞きに来ただけです。――あぁでも美味しそうな野菜ですね。それとそれを貰ってもいいですか?」
「おう! お客なら大歓迎だ。緑茄子と岩盤椎茸だな……銀貨七枚と銅貨四枚だ」
「ありがとうございます」
緑の茄子なんて初めてみた。てっきりカボチャあたりだと思っていたから食べるのが楽しみだ。――もう一方は名前的に食べるのが大変そうなキノコだから今度レンや白音に試してもらおう。
「んで兄ちゃん、話ってのはなんだい?」
「あぁそうでした。――自分たち、とある賊を追ってまして……八百屋のご主人に半年前の出来事を聞かせていただけないかと」
「なるほどな……半年前っていうと泥棒騒ぎの件だろ?」
「はい」
「確かにウチもやられたわ。そこに並んでいる商品が毎日一カゴずつ、大体一週間くらいかな……朝起きた時に綺麗に無くなってるんだ」
「その週に怪しげな人とかは見ていませんか?」
「うーん、その時期は余所者がそこそこ街に居たからなぁ……ちょっと分からないな」
「余所者がいたんですか?」
「あぁ、王都から魔将討伐の遠征にってことで兵隊さんたちが来てたよ。――まぁだからと言って王国兵が盗みをするとは思えないし、一市民である以上そもそも疑いをかけることすらおこがましいからな」
なるほど、王国の兵士が絡んでいるかもしれないから大事にならなかったと言うわけか。
これは少し見えてきたかもしれない。
まず、盗みを働いたのは十中八九、襲撃してきた傭兵ギルドの連中だろう。そして依頼人は王国兵の中に紛れ込んでいた誰かというのが一番考えられる線だろう。
その後、結弦たちは王国兵の話を少し聞き、八百屋の主人と別れた。
◇
時は進み夜。
再度アリスの神札で旅館に足を運んだエステルに今日の調査結果を伝える。
「そうですか。――状況から見て、恐らくユヅル様の見立てに相違は無いでしょうね」
「あぁ」
「でもそうなると困りました……いくら私でも王国を相手に表だって探りを入れるのは難しいです」
「だからと言ってみすみす殺されつもりも無いだろ?」
「もちろんです。――状況を整理しますと、敵は魔将討伐を隠れ蓑にする必要があるほど人目を気にしています。なので襲われるにしてもまだ時間の猶予はあると思います」
「その間に俺たちで片付けろと?」
「お願いできませんか?」
エステルは珍しく真摯な目で結弦を見つめる。――敵わないな、その目は俺を動かすのには十分過ぎる力を持っているよ……
「安心しろ、最初からそのつもりだ。――ウチの連中もその気みたいだしな」
「えぇ当然です。エステル様にはこれからもお友達でいて欲しいですから」
「エステルまもるの~」
「旨い物を食わせてくれた恩があるからのぅ、童も力を貸してやるのじゃ♪」
「同じく」
「皆さんありがとうございます。私も全力でお手伝いいたしますね」
エステルは含みの無い優しい笑顔を皆に向ける。
そして、その笑みは教皇としての仮面を脱いだ一人の少女の顔であった。
「普段からそう言う感じで接してくれたら、可愛げの一つでも感じているんだろうな」
「あら、ユヅル様はこういうのがお好きと……練習しておきますね♪」
「言ったら意味無いからなそれ。――でもまぁこっちの方がお前らしいか」
「エステル様ばっかりズルいです! 私もご主人様に可愛がって貰いたいです!」
「あらあら、それなら一緒に練習しましょうね」
「頑張ります!」
「俺でからかうのも程々にしてくれよ?」
少しだけ素の感情が発露したエステルを改めて守り通そうと思う結弦たちであった。――が、そんな暖かな想いを無為にしようとする動きがザイードの闇夜を駆けていく。




