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2.28 落山湯

「ご主人様~ 気持ちいいですね~」

「あぁ、俺たちで作った風呂も良かったが露天風呂はまた格別だな」

「ユニの家のお風呂気持ちいの~」

「ありがとうレンちゃん♪」

「かっかっか。確かに湯加減も丁度良くて実にいい湯なのじゃ。これで酒の一つでもあれば完璧なんじゃが……」

「お前はどこのおっさんだ」

「相変わらずぷりてぃな白音ちゃんに向かって酷い物言いじゃのぅ」

「普通年ごろの娘が湯船に浸かりながら月見で一杯なんて言わないからな?」

「それはソレ、これはコレなのじゃ」

「調子のいいやつだな」


 現在、結弦たちは落山湯に来ており、一日の疲れを温泉で癒していた。今回はユニもいるせいか、流石に女性陣も遠慮したようで男湯と女湯に別れての入浴となった。――まぁ結局、壁一枚隔てて姦しい会話が流れてきてしまうのだが、久々にゆっくりと風呂に入れるのは素直に嬉しい。


 ――っとそんな結弦の爺臭い感傷はさておき、実は女湯の方にはもう一人珍客が入浴していた。


「エステル様も来れてよかったですね」

「えぇ、アリスちゃんが神札で連れてきてくれたおかげよ。――温泉なんてかれこれ二十年は入ってないもの」


 旅館に着いて早々タンゲさんに許可を貰い、建物の裏手にある納屋をアリスの神札で契約させてもらった。効果についてはいまいち理解してもらえなかったが自由に使っていいとのことだったので甘えることにした。

 そしてザイード到着の報せも兼ねて一度リベラルに戻ったら、アリスが余計な事を言ってしまい、気づいた時には人員が一人増えていた。


「一応確認するがここに来ることはファルネスに伝えているんだよな?」

「もちろん黙ってきましたよ。あの仕事一筋のファルネスが仕事サボって遊びに行くことを許してくれるハズないですし……」

「あぁ~ なんか目に見える。――でもこれバレたら怒られるのは俺なんだよなぁ。頼むからさっさと帰ってくれ」

「あら、酷いです。これでも結構融通してあげたと思うんですが……追い返すおつもりで?」

「サラッと圧力をかけないでくれ……あぁもう知らん! 好きにしろ。――ただし、怒られるのは勘弁だぞ?」

「話が早くて助かります。そう言うわけですのでユニさん、私もよろしくお願いいたします」

「わわわっ! 教皇様にお願いされる日が来るなんて思ってもいませんでした。小さな旅館ですが、気のゆくまでおくつろぎになってください」

「ありがとうございます」


 他の連中にはそうでもないのにどうしてエステルは俺に対してだけは時々黒くなるのだろうか?


「それはユヅル様が私を構ってくれないからです」

「そうですね。ご主人様は私たちのことをもっと気に掛けるべきだと思います」

「勝手に心の中を読むな。それとアリス、これでも俺は十分お前を可愛がってきたつもりなんだが」

「もちろん承知しています。ですが、私たちが願うものを朴念仁なご主人様にもう少し理解してもらいたかっただけです」

「善処します」


 随分な言われようだ。――ただ、この場は多勢に無勢、下手に機嫌を損なえば後が怖い連中ばっかりなので素直に引き下がることにした。



 風呂上り、合流した結弦たちは旅館のラウンジで牛乳瓶を片手にお互いの身の上話に花を咲かせていた。


「へぇ~ 白音さんって魔王様だったんですかぁ」

「そうじゃ……ほれ」

「すごいモフモフです♪」

「ぬぬっ! 童の尻尾がそんなに気に入ったのかや?」

「はい。気持ちいいです~」

「かっかっか。そなたは見所があるのぅ。――ほれっ、好きなだけ触っておってよいぞ」

「わ~い。レンちゃんのお仲間さんたちってみんな面白い人ばかりだね」

「そうなの~ みんなヘンテコで面白いの~」


 レン、それはちょっと意味合いが変わってくるぞ?


「まぁ飽きない人たちですよね。私もアリスちゃんが羨ましいですもの……私もついていっちゃダメかしら?」

「そんな目力を強くしてもダメだ。そもそも一般人ならともかく教皇様が教会を離れるのはまずいだろ。――っと話は変わるがあれからリベラルの街は問題ないか?」

「えぇ、山賊退治が終わった今リベラルは平穏そのものですよ。――ユヅル様こそ私をふったのですからお仕事頑張ってくださいね?」

「節々にトゲを感じるが、まぁ任せてくれ」


 そして程よく湯上りの熱が冷めたあたりで夕食の準備が出来たとタンゲが伝えに来てくれた。



「本日の献立は山岳鱈(さんがくたら)の水炊きと特大(ビッグ)(ポーク)のステーキと炊き込みご飯、デザートにリンゴのシャーベットとなります」

「おいしそうですね」

「にく~」

「馳走じゃ♪」

「良い香りだな」

「いただきます」


 それぞれ『待ってました!』とばかりの勢いで箸に手を付ける。移動中は連日野鳥の焼き物ばかりだったので彩のある食事は実に一週間ぶりだったりする。


「うむ、味も申し分無い! 特に水炊きが久しく味わっていなかった魚を思い出させてくれるのぅ」

「大袈裟なやつだな。まぁどこぞの鳥ばっか食っていた手前、気持ちは分かるが」

「にくおいしぃ~」

「レンちゃんはいつも通りだね。……あっ! エステル様、小骨には気を付けてくださいね」

「えぇ、大丈夫よ。身もよく解れていて言うほど骨も気にならないわ。良い腕をお持ちのようですね」

「教皇様にそう言っていただけるとは……光栄です」


 タンゲは一人勝手に男泣きをしている。――ほほぅ、他の街に来て初めて知ったがエステルって俺が思っている以上に偉いんだな。


「まぁそんな教皇様に好意を持たれてるご主人様も中々に大物ですが」

「どういうことだ?」

「朴念仁なご主人様には一生分からないお話です」

「またそれか」


 最近アリスの性格が少しずつお節介な暇神に近づいていきた気がする。これも成長期というやつなのだろうか? ご主人様は寂しいよ……


「まぁぬしさまが鈍いのは今に始まったことじゃないじゃろう。――そんなことより今は飯じゃ♪」

「そうなの~ あっ! クロにもご飯をあげないと」

「おうそうだったな。ほれっ……昼間の鳥の姿揚げだ」


 結弦は道具欄からクロの餌を取り出す。


「ありがとなの~ 行ってくるの~」

「あっ! レンちゃん私もついていくよ」

「それでしたら私もドラゴンさんを拝見したいです」

「あい~」


 レン、ユニ、エステルの三人は庭で放し飼いになっているクロの餌やりへと向かう。

 随分レンもユニと仲良くなったな。――この感じ、アリスはお姉ちゃんとして寂しく感じているのだろうか?


 和気あいあいとした食卓を囲みながらも仲間の変化に複雑な思いを抱く結弦であった。



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Twitter:ぽんさん(@PonSanMk2)

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