2.27 田園都市ザイード
王都とリベラルの中間の位置に存在する街『ザイード』。
豊かな田園風景と街の中央に流れる大河はこの街を象徴しており、今まで訪れた場所で例えるならパイルの村をいくつもかき集めた感じが一番近いだろう。
そんなのどかな街に降り立った結弦たちは、のどかとは真逆の境遇に立たされており、現在は街の衛兵達に剣を突き付けられていた。
「なぜこんな所に伝説のドラゴンが……街の兵を全てかき集めるんだ!」
「あの~ ……これ見えます? この首輪と手綱があればペットとして見てもらえるって聞いてるんだけど」
結弦はクロの首元を指さしながら衛兵に訴えかける。――せっかく面倒な書類を一通り書いてやったのにこんなところで足止めを食らいたくはない。
「こちらは王国より命あって参られたユヅル殿一行だ。故あってドラゴンを伴っているが、危険性は無いので矛を収めてもらいたい」
「そんな話が聞けるわけないだろ! どこにドラゴンをペットにする馬鹿がいる」
ここにいるのですが……
飛空艇の船員が懸命に取りなしてくれているが、中々に難航しそうだ。
「もうこの際ブレスの一発でも撃っちまった方がいいんじゃないか?」
「もうそれただのお尋ね者ですよぉ~」
「みんな仲良くするの!」
混乱を極める中、自分たちのせいで言い争ってる事に嫌気が差したレンはクロの背中に跨り、両者の間に割り込む。
「なんだと!? こんな小さい子がドラゴンを操っているだと!?」
「喧嘩しちゃダメなの!」
ザイードの衛兵は突然間に入ってきたクロとレンに腰を抜かす。
「わっ……分かったからそのドラゴンをこっちに近づけないでくれ」
「もう喧嘩しない?」
「あぁ、街へ入ることも許可するからゼッッッタイにその手綱を放すんじゃないぞ!」
「わかったの~ ありがとなの~」
いつの間にレンは人との仲を取り持つスキルを身につけたのだろうか? ――まぁ本人は気付いていないみたいだけど……
あっけに取られる結弦たちを余所に、ずかずかと街の門をくぐっていくレンであった。
♢
紆余曲折の末ザイードの街に入ることが出来た結弦たちなのだが、驚くことに中に入ると状況は百八十度ひっくり返った。――っと言うのも今まで物陰から様子を伺っていた子供たちが一斉に押しかけてきたのだ。
「すげ~ 俺、本物のドラゴンを初めてみたよ!!」
「わぁ! 鱗かたぁ~い」
「クロって名前なの~」
「クロちゃんって言うんだ。よろしくね♪」
「キシャァァ♪」
子供たちに囲まれるクロとレン。そして、少し遠くから青ざめた面持ちで神にでも祈るかのようなポーズをしている大人たち。――別に取って食ったりしないんだけどなぁ~
着いて早々に人気者となったクロは子供たちを背中に乗せて街中を悠然と歩く。
そして街の中央に流れる大河に行き、子供たちと楽しそうに水遊びを始めたあたりでようやく大人たちの顔に色味が戻ってきた。
「えぇ~と心配なのは分からなくもないですが、見ての通りアイツはレンの相棒なので人を襲ったりしませんよ」
「うぅむ。確かにあれだけ近づいているのに食べられていないのはおかしいか。――我々も少し警戒し過ぎていたのかもしれない」
街の住人が口々に安堵のため息をつく。
意図してやったわけではないが、レンが子供たちと遊ぶことによって大人たちの警戒心を和らげることが出来たみたいだ。
「旅の者よ、長旅で疲れているのに騒ぎ立てしまって申し訳ない。私たちも空想上の生物がやって来たことで周りが見えていなかった」
「まぁ見てくれだけは本物のドラゴンですからね、無理もないです。――っと申し遅れました、私の名前は結弦と申します。リベラルの街より公務で訪れました」
「そうでしたか。――してユヅルさん、公務ということはこの後もご予定が?」
「いえ、時間も時間ですし今日の所は宿を探してゆっくりするつもりです」
「なるほど。実は私、旅館を営んでいるのですが、もしよろしければ私の宿に泊まりませんか? 先ほどのお詫びも兼ねてサービスしますよ?」
なんと、偶然にも今一番欲している宿屋の主人と出会えた。――加えて勝手に悪気を感じてくれているようで色々とサービスしてくれるらしい。
「それは丁度良かったです。でも大丈夫ですか? 俺たちを招くと一緒にアレがついてきますよ?」
「えぇ、流石にドラゴンが中に入れるほど大きな造りではないので建物の中に入れる事は出来ませんが、庭でしたら自由に使ってくださって構いませんよ」
「そうですか。――それならお言葉に甘えさせていただきます。――レン、クロ、寝床が決まったから行くぞ~」
「わかったの~」
「キシャァ♪」
「あっ、レンちゃんウチに泊まるのね」
クロの背中で遊んでいた子供たちの中の一人がレンと一緒にこちらへ来る。
「あぁご紹介が遅れました。旅館『落山湯』を運営しているタンゲと申します。そしてこちらは娘のユニです」
「さっきは遊んでくれてありがとね。ウチの温泉は肩こり腰痛に効くから後でいっしょに入ろ~」
「お風呂たのしみなの~」
「あぁそれは楽しみですね。私もご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」
「童も一緒に入るのじゃ♪」
「わぁ、レンちゃんのお仲間さんですね。こちらこそよろしくお願いします」
どうやら女性陣はタンゲの娘、ユニと仲良しになったようだ。
♢
クロと遊んでいた子供たちと別れ、結弦たちは旅館『落山湯』に移動した。
落山湯は大河の脇に位置しており、川から水を取った温泉が目玉らしい。
「では改めまして、ようこそ『落山湯』へ。先ほども言いましたが、精一杯おもてなしさせていただきますのでごゆっくりお過ごしください」
「私も頑張ってお世話するね」
タンゲとユニが結弦たちを客間へと案内してくれる。
通された部屋はこの世界で初めて見る畳敷きの広間で、襖を開けると話に聞いていた庭と繋がっていた。――景色も良いしサービスするというだけの事はありそうだ。――後、この世界にも畳ってあったんだな……ウチにも是非ほしいところだ。
リベラルを経ってから二週間、最後の最後まで厄介ごとに見舞われた空の旅だったが、ようやく腰を落ち着けることが出来そうな結弦であった。
いつの間にか話数が50本を超えていました。
まぁ、既存の話を割り増ししたり幕間入れたりと実際の所は50本以下だったりしますがよくここまで続いたものです。




