2.26 レンとクロ
飛空艇生活十四日目。
先日の黒耀竜襲撃から今日まで、大きな問題が発生することも無く比較的順調な旅路を送っていた。――現在はザイードまで十里ほどの地点を航行中だ。
ちなみに件の黒耀竜なのだが、アリスやレン、スーによって瀕死状態までボコボコにされていたところから脅威的な自己治癒能力で順調に回復し、今では自由に空を飛べるようになっている。――まぁレンに敗北したことで誇り高き竜族(?)から彼女のおもちゃにジョブチェンジしてしまったようだが……
「クロ~ 逃がしちゃだめなの~」
「キシャァァ!」
「やぁっ! ……チッ! すばしっこいの!」
「シャァァ!」
クロと名付けられた黒耀竜は先の戦闘以来、すっかりレンに懐いてしまった。
初めは面倒な奴を押し付けられたと心底迷惑そうにしていたが、空を飛べるようになり、いつでも野鳥狩りが出来ることに気付いてからは積極的に世話をするようになった。――つくづく自分の欲望に忠実なやつだ。
《ステータス》
_____________________
名前:クロ 74歳 ♂
レベル:25
ジョブ:使い魔
装備:なし
スキル:ファイアブレス+4
飛行
威圧
魔法:なし
_____________________
「クロ、火をちょうだいなの」
「フシャァァ」
「いい感じなの~ ひっさ~つ、『お肉の丸焼き斬り!』」
そして今となっては当たり前のように繰り出されるクロとレンの合わせ技によって、必死に逃げていた野鳥の息の根は止められた。
なお『お肉の丸焼き斬り』なるこの技、レンに問い詰めたところ、いつのまにか出来るようになっていたとのことで、疑問に思った結弦は刀を一度調べることにした。――すると、刀の情報が『村正 妙法蓮華経+17(邪鬼王)』と元の村正に邪鬼王と言う名前の勾玉が融合された物に変わっていた。
勾玉ということでピンと来た結弦は道具欄を調べ、以前入手したゴブリン大将の勾玉が無くなっていることに気付いた。――どのタイミングかは分からないが十中八九この勾玉が融合してしまったものだろう。
「まぁ武器が強化されたのは良いことだが知らないうちにというのが怖いな」
「勾玉の件ですか? 確かに不気味には思いますけど今のところレンちゃんも使いこなせているようですし、そこまで気にする必要もないかと思いますが」
「だといいんだが……」
「ご主人様、ご飯取ってきたの~」
「あぁ、よくやった。いつも通り厨房の誰かが調理してくれるはずだから渡してきてやれ」
「わかったの~」
結弦に指示されたレンとクロは自分たちで獲った鳥を意気揚々と持っていく。――俺たちからしてみれば比較的当たり前な光景になってきているのだが、毎回ドラゴンの相手する船員はそうもいかないんだろうな。
♢
昼時になったところで結弦たちは食事処に移動して、レンとクロが獲った鳥の焼き飯を食べながら今後の予定を相談していた。
「ん~ それで、今日にはザイードへ着くけど、ソイツどうするんだ?」
「クロのこと? 連れてくの~」
「キシャァァ♪」
「いや、それ確実に騒ぎになるから。――スーみたいに小さくできないのか?」
「我をそこらの便利アイテムと一緒にされても困るだが……まぁ無理だろうな。我はアリス嬢によって現世に顕現した身、そもそも在り方からして違う」
「あぁ! その手があったな。――アリス、カードの契約頼めるか?」
「わかりました」
「待って! ダメなの! クロを閉じ込めるのはダメなの!」
「シャァァ!」
珍しくレンが抗議する。最初はあんなに嫌がっていたのに随分と愛されるようになったな……クロ。
「う~む弱った……このままだと街に入れないぞ?」
「横から失礼いたします。当艦はもうまもなくザイードに到着いたします。こちらの区画は閉鎖いたしますので客室または搭乗口までお移り願います」
結弦が悩んでいると、船員の一人が到着まで後少しの距離まで来ていることを報せてくれた。
「わかった。――あぁすまない、つかぬことを聞くがザイードにペットを連れていくのは可能か?」
「ペットと言うと……その……ドラゴンですよね?」
「いや、ちょっと大きい鳥だ」
「鳥ですか……体長三メートル超の生物を『ちょっと大きい』と言うのも中々に無理がありますが……まぁ巨大な生物を飼育されている富豪の方もいらっしゃいますし、然るべき手続きを済ませれば理論上は可能です。――理論上だけですが」
あらそうなの? 物は言ってみるものだな。好奇の視線に晒されるのは慣れているし、番犬代わりに置いておけばチンピラに絡まれることもないかもしれない。
「そうか、それを聞けてよかった」
「本当に連れていかれるのですか……分かりました。後程書類一式をお持ちいたしますので客室にてお待ちください」
「あぁ助かる。――そう言うわけだからお前たちは先にクロを連れて搭乗口へ行っていてくれ」
「分かりました」
「ありがとうなの~」
「キシャァァ♪」
話がまとまったところで結弦は皆と別れ、一人客室へと移動し、必要書類一式を作成した。
◇
一時間後、結弦は再び皆と合流して目と鼻の先に見えるザイードの街並みを眺めていた。
「わぁ~ 凄いですね、とてもおっきな川が流れてますよ~」
「そうだな。ザッと見た感じ、リベラルやロクシタンより小さな街みたいだが、自然に囲まれていて心安らぐ街だ」
「気持ち良さそうなの~」
「うぬうぬ、日向ぼっこしたらよく眠れそうじゃ」
野生サイドの二人にも好評のようだ。
「とりあえず着いたら宿を探そう。――ペット可の所じゃないといけないから中々に骨が折れそうだが」
「頑張るの~」
「期待してるぞ。――っとそろそろみたいだ。サクッとやること終わらせて王都に行こう!」
「はい♪(いくの~)(うぬ)(そうだな)(キシャァ)」
ザイードの街並みに高揚した結弦たちは、意気揚々と飛空艇を降りるのであった。




