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2.25 黒耀竜

「まったく、何だってわざわざ自分より強い奴に喧嘩を売りに来るかね……」

「シャァァ!」

「おまけにスーがいないと言葉も通じないし」


 飛空艇生活五日目。

 結弦たちは突如現れた黒耀竜なるドラゴンを捕縛して展望デッキに縛り付けたのだが、この後をどうしたものかと迷っていた。


 ちなみにファンタジー世界でお馴染みのドラゴンだが、アリスの話では百年単位で目撃情報が無く、中々にレアな生き物らしい。――そのせいか、展望デッキには結弦たちの他にもたくさんの野次馬達で溢れかえっていた。


「これ……本物のドラゴンなんだよな。――帰ったら息子に自慢できるぜ!」

「いやぁ……その前に仲間を呼ばれて食われちまうんじゃないか?」

「フシャァァー!!」


 ――っとこのように見世物小屋状態になっている。


「――で、このドラゴンはさっきから何て言っているんだ?」

『訛りが酷くて全ては聞き取れないが、不意討ちはズルいぞ! 正々堂々と勝負しろ! ……とのことだ』


 スーが念話でドラゴンの言葉を翻訳してくれた。


「勝手に突っ込んできたくせに滅茶苦茶な要求だな」


 どうしていつも俺の周りには戦闘狂が集まってくるのだろうか……

 まぁ向こうが正々堂々とやらを望んでいるのだし適当に叩きのめせば諦めて帰ってくれるかな。


『ユヅル殿、本当にいいのか? こんなやつ我が一吹きすれば消し炭にしてやるぞ?』

「まぁ突っ込んできたとは言え、こちらが先に手を出しちゃったからな……報復されてもめんどいし、それくらいならいいだろ?」


 ユヅルは縛り付けていた鎖を解いてやる。

 すると、水を得た魚のように黒耀竜は元気よく跳びはねた。


「キシャァァァ!」

「分かったから少しは黙ってくれ、耳が痛くて敵わん」

「ギャ」

「こっちの言葉はわかるようで何よりだ。――んで、俺らはどうすればいい?」

『女と我は怖いから、そこのちびっ子と勝負させろ……とのことだ』


 よっぽど翼を焼かれたのが堪えたらしい。――というより怖いならさっさと逃げろよ……


「レン、ご指名だがどうする?」

「おにくちゃ~んす!」

「キシャァァァ!」

「はぁ……もう好きにしてくれ」


 端から会話にならない事を感じ取った結弦はアリスたちを引き連れてデッキの隅に待避する。当然、今まで物見遊山に興じていた船員達も我先にと船内へ駆け込む。


「いっくよ~ お昼ご飯勝負なの~」

「シャァァ!」


 場が整った所でレンが愛刀の『無銘(むめい) (かね)(しげ)』と『(むら)(まさ) 妙法(みょうほう)蓮華(れんげ)(きょう)』を鞘から抜き、ドラゴンとの距離を一気に詰める。

 彼女の動きは度重なる戦闘経験によって、出会った当初のソレとは異次元のものになっており、とりわけ『ステップ』を活用した立体機動をマスターしたことで、周囲の壁や天井など、戦場にある全て要素を足場にすることが出来るようになった。


 対して黒耀竜は自分でも勝てそうな相手を指定したと油断していたようで、レンの動きに仰天し、距離を取ることのみに全力を注いでいるみたいだ。


「鬼ごっこは嫌いじゃないけど、お腹すいたから絞めるのです!」

「キシャァァァ」


 レンの速度に観念したのか黒耀竜は逃げるのをやめ、大きく息を吸い込む。


「あのバカ! この船が木造船だって言うこと分かってないぞ!」

「どうしましょう、どうみてもブレスの前兆にしか見えませんよ。――止めますか?」

「ご主人様、アリス、心配しないで大丈夫なの~」


 結弦とアリスが慌てふためく中、レンは金重を床に置き、村正を大上段に構えた。


「ギシャァァァァ!」

「かかってくるの~ 吸収なの~」

「なんだって!?」


 レンはドラゴンが放った灼熱のブレスを真っ正面から叩き斬り、あろうことか刀身にその炎を吸わせていた。


「おいおい……あんな能力、俺は知らないぞ?」

「炎を食べてます。――まるでレンちゃんのよう……」

「童も流石に火は食べたことないのぅ」

「バカ言うな。アイツの腹ペコが刀に乗り移ってたまるか!」


 当事者でもないのにわちゃわちゃと盛り上がっている結弦たちを余所に、レンはドラゴンが吐くブレスを全て受けきる。


「キシャァ?」

「次はレンの番なの~ 必殺! 『お肉の丸焼き斬り!』」


 なんともレンらしいネーミングの必殺技が黒耀竜に刻みこまれる。

 そして、彼女の村正に切られた箇所は絶えず火の粉が舞う。――どうやら継続的にダメージを与える類いの技のようだ。


「童の『鬼火』に近いのぅ」

「まぁお前よりかは可愛げがありそうだがな」

「なんじゃと!?」

「お二人ともその辺にしておいてください。――どうみてもやりすぎです。ドラゴンさん泣いちゃってますよ?」


 見ると黒耀竜は燃える傷口を消火させようと必死に身体を地面に打ち付けていた。――何て言うかもう見ていられないな。


「あぁレン、なんか可哀想になってきたから食べるのはやめてやってくれ」

「だめ?」

「後でなんか旨いもの作ってもらうから……な?」

「わかったの~」


 食べることを諦めたレンは手に持っていた刀を鞘に納める。すると、ドラゴンに燃え移った火も収まった。――一体いつの間にあんな大技を会得したんだ? 後で聞いておかないと……


「キャキャッ♪」

「うぅ~ 暑苦しいの~」


 一方、火が消えたせいなのかトドメを刺されなかったせいなのか分からないが、今まで散々迷惑をかけていた黒耀竜は満身創痍な状態になりながらもレンの顔に自身の頬を擦り付けていた。


「ほぉ~ どうやら懐かれたようだな」

「邪魔なの~」

「せっかくだから仲良くしたらどうだ? ――後、やることがどっかの誰かと一緒だな」

「童をあんな下等生物と一緒にするでない!」

「一応自覚はあるんだな」

「ふん! 童はもっと可愛げがあるのじゃ」

「はいはい、そう言う事にしておくよ。――さて、イベントも終わったし昼飯にしようか」


 結弦は頃合いを見計らって戦闘の終結を宣言する。


「そうですね」

「ぬしさまが童の事をどう見ているか一度腹を割って話合う必要がありそうじゃな」

「今回は我も力を使ったからここはひとつ、肉を所望したい」

「この肉あげるのぉ~」

「キシャァ♪」


 一部不満げな声もあがっているが空腹なのは満場一致なので、ひとまず食事処へと向かう結弦たちであった。

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Twitter:ぽんさん(@PonSanMk2)

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