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2.21 新・リベラル大聖堂

 リベラルでの魔人騒ぎから三ヶ月。

 当初、一ヶ月で再建される見通しだった教会の工期は延びに延び、気づいた時にはこれだけの時間を要していた。


 実はこうなってしまったのも結弦が要らない口出しをしたからなのだが、今となってはここまでする必要があったのか、彼自身にも分からなくなっていた。


 ――っというのも……



 魔人討伐を祝った宴の翌日、結弦たち一行はエステルのいる仮設テントに顔を出していた。


「皆様、おはようございます。朝早くにも関わらず、ご足労いただき誠にありがとうございます」

「あぁ、おはよう。――それで、昨日の今日でどうしたんだ?」


 涼しげな顔で来訪を労ってくれるエステルは昨日の酔いは残っていないようで、実に平常運転であった。


「はい……本日は教会建設の予定表が出来たのでそれをお渡ししておこうかと思いまして」


 そう言えばエステルから教会の再建までの間、街の警備に加わって欲しいと頼まれていたな。


「そうか。どれどれ……本当に一ヵ月で物になりそうな計画だ。――ちなみにこの予定表、足元周りの工事について書いていないのだが、これは別で予定を組んでいるのか?」

「足元? 足に何かするのですか?」

「ん? 建物の土台部分についての事なんだが……地面と建物の接地面の処理はどうなっている?」

「枕木と窯焼きのレンガを敷き詰める予定です」

「それだけ?」

「そうですが……他に何かする必要があるのでしょうか?」

「アリス、この地方の家の建て方は概ねこんな感じなのか?」

「私は宮大工ではないので詳しい事は分かりませんが、普通のお家に比べれば随分と頑丈かと思いますよ?」


 驚いた。

 この世界に地震の概念があるのか分からないが、こんな積み木教会でよく今まで持ったものだ。


「ユヅル様? どこか問題でもあるのでしょうか?」

「う~ん、あまりこの世界に無い技術を伝授するのもなぁ……ただ、このままだとロクな物が出来そうにないし……」

「ご主人様、お悩みのところ申し訳ございませんが、出来ればエステル様の為にご助言をお願いできませんか? (せっかくの機会ですし、恩を売っておいた方が得ですよ?)」


 察しの良いアリスが、結弦とエステルの立場を考えて、横から口を出してくれた。――まぁエステル信者の彼女がどこまで利己的に考えたのかは分からないが……ってか見ないうちに随分とエステルに毒されてるな。


「ふむ……そうだな。エステル、少し口を出していいか?」

「えぇ、それは勿論構いませんが」

「ありがとう。まず、建物を建てる時には一階部分と同じくらいの高さを掘る必要がある」

「地面をですか?」

「あぁ、レンガによる組積造も悪くはない案ではあるが、杭を打って軸を安定させる方がより強度面で期待できる」

「杭とは……」

「柵とか作る時に地面に打つ木のでかい奴だ。それを軸に土台、床、柱と組み上げていくと建物が受けた衝撃を順々に地面へ逃がすことが出来るんだ」

「はぁ………」

「まぁ言葉だけじゃよくわからないよな」


 工学系出身の結弦としてはこの手の土建に関することも予備知識として蓄えていたりする。流石に本職の方々には敵わないが、少なくともこの世界においてはなんとか使い物になるだろう。


「う~む、話してたら俺も手も出したくなってきた。――よし! エステル、少し現場の人間を使ってもいいか?」

「えっ? えぇはい、こちらとしては人手が増えるので助かりますが、よろしいのでしょうか?」

「俺が良いと言っているから問題ない。――さて、教皇様のお許しが出たことだしサクッと人員分担するぞ。まずはアリスとスーだが、街の外にある岩を手当たり次第に削って来てくれ。それとレンと白音だが、話の流れから薄々感づいていると思うが『楽しい楽しい穴掘り』の時間だ」

「わかりました。(アリス嬢の護衛は任せてもらおう)」

「穴掘りなの~(うげっ……童そういう重労働な仕事はキャラに合わないのじゃが……)」

「山賊相手に狂喜乱舞してた奴が『キャラ』とか可愛らしく取り繕ってももう遅い!」

「うむぅ……ぬしさまの変なスイッチが入ってもうた。――流石にこれは諦めるしかないかのぅ」

「まぁそう言うな。――今回は俺の趣味が多分に入っている手前、夕飯は期待してくれていいからな」

「約束じゃからな?」

「あぁ、安心しろ」


 そう言って結弦は『パンパン』と手を叩き、皆を仕事に向かわせた。



 各々に仕事を任せてから半日。

 終業時間と言うことで皆を回収しつつ、今日の進捗を聞く。


 ちなみに結弦はというと、エステルのいる仮設テントに籠って計画書を一から見直していた。

 実はこの計画書、基礎の件はもとより、上物全てが杜撰な内容で、見た当初は卒倒しかけるほどの代物だった。

 それをあれやこれやと直していたらいつの間にか夜になっていた。


「――だから悪かったって。明日からは俺も手伝うから」

「ほんとじゃな? 童、このままだと腕がもげてしまうのじゃ!」


 どうやら昼間の重労働が中々に堪えたらしい。

 アリスに聞く感じだと、俺が指定した所は粗方掘りつくしたみたいだから、今日以上にキツイことにはならないと思うが……


「それで? アリスの方はどうだった?」

「はい、ご主人様の求めていることが資源調査だと思われたので、色の違う岩の欠片を一杯拾ってきました。――後で精査の程よろしくお願いいたします」

「あぁ助かる」


 そう、アリスにはとある材料を探してもらいに行っていた。見た所かなりの種類の石片が詰まっているし、後で色々と試してみよう。


 そうして結弦は各々の進捗を聞きつつ、前日と変わらぬ豪勢な夕食の時間を送る。



 翌日、結弦たちは工事現場を一端離れ、とある丘陵地帯に足を運んでいた。

 それは、昨日アリスが見つけた岩を大量に確保する為だ。


「ん~ 多分それとその岩かな……んじゃレン先生、よろしくお願いします」

「あい~ よろしくされるの~」


 結弦が指示を出す岩に向けて一閃。レンの愛刀『無銘(むめい) (かね)(しげ)+10』の刃先は一度も止まることなく、岩を切る。


「上出来だ。後もう二山くらい切れば十分かな」


 結弦はレンが切った巨大な岩を道具欄に収納する。


「なぁぬしさま? そんな岩っころを沢山切ってどうするのかや?」

「あぁ、ちょっとした接着剤作りに使うつもりだ。これといくつかの土を混ぜて水に浸けると強力な接着剤になるんだ」

「ほぉ~ 初耳なのじゃ」

「まぁ、調整用にちょっとした薬草とかも入れるから知らなくても無理はないさ」


 結弦が作ろうとしているのは元の世界でいうセメントと呼ばれるコンクリートの原料の一つだ。まぁ結局同じ材料を揃える事は出来なかったが、セメントの大部分を占める石灰に近い岩がアリスの集めてくれたサンプルの中にあったので、夜通し研究することでなんとかレシピを作成することに成功した。


「話し合いの結果、教会の外装はレンガによる組積をメインで行うことにした。だから少しでも耐久力を上げるためにこれを大量生産して使うつもりだ」

「のぅぬしさま? 勘のいい童はまた重労働させられる未来が見えているのじゃが……」

「よくわかったな。その通りだ」

「いぃやぁじゃぁぁぁ!!」


 白音の絶叫がこだまするなか、黙々と石灰岩集めは進行し、二日目の業務は滞りなく完了した。



 そして今に至る。

 ――というか、単純にその日以降は地道な土木作業と度重なる設計変更の連続で、イベントらしいことは特に無かったので割愛する。


「まぁ何はともあれようやく建ったな」

「はい、ユヅル様のご助力によって、当初のものより二回りも大きな教会を建てる事が出来ました」


 竣工日の朝、新しく出来たリベラル大聖堂の前でエステルは感無量といった感じで言葉を溢す。


 そしてこの『二回り』は構造的に大丈夫と判断した結果踏み切ったわけだが、これを成したことでちょっとしたおまけが付いた。


それは……


「いつまでも感慨に耽っておらんでさっさと行くのじゃ!」

「おうちかくほなの~」

「少々狭苦しいが見晴らしは悪く無さそうだ」

「みんなもこう言っていますし、行きましょうか。――ご主人様♪」

「あぁ、部屋は三階だったな。コケるなよ?」


 そう、レンが言うように我が家となる部屋が手に入ったのだ。

 これは建物を大きくしたが故に用途が決まっていない部屋がいくつか出来てしまったのが原因で、それを勿体なく思うエステルが一室を暫定的に結弦たちの居室にしてくれた。


 まぁ結局は魔族討伐の旅を続けるので、ここは一時的な拠点でしか無いが、初めてのマイルームに俺も含めて全員テンションが上がっている。


「まぁ自分で作った家だしな。――無理もないな」


 そう言いながら、上機嫌に仲間の後を追う結弦であった。

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