2.20 祝宴
結弦たちは飲食店を一通り周回した後、アリスと合流して宴会の会場である教会前の中央広場に向かっていた。
そして中央広場に着くと、そこは昼間の景色とかけ離れた、盛大な祝宴場のそれになっていた。
「短時間でよくここまで仕上げたものだ。――若干俺が思っていたのとは違うけど、白音が『本戦』というだけのことはある」
そう、宴会と言っても日本のように大きなテーブルを皆で囲む立食パーティーのようなものでは無く、夏祭りのような屋台に似た出店があちらこちらで乱立しており、かなりの人だかりがそこを起点に生まれている。――それこそ雰囲気だけで言えば祭会場に来た気分だ。
「うむ、ひとえに宴と言っても地方によって赴きが違うのじゃ。まぁどのような宴であれ、童は思い思いの楽しみかたを模索するのみ! ――そして童にとってこの方がなりふり構わず馳走にありつけるから好都合なのじゃ♪」
「――とりあえず言っても無駄なのは百も承知だが、あまり羽目を外すなよ?」
「ぬしさまよ、確かにそれは言っても無駄なのじゃ。童の食道楽を求める心はすでに開戦しておるのじゃ~」
言うや否や、白音はレンを脇に抱えて屋台の一群に突撃していく。――こうなったら俺はアイツらが暴れまわって人的被害が生まれない事をとっかの神に祈ることしかできない。
――うん、もう知らん!
◇
屋台群に突撃した大食い二人を除く、結弦たち一行はエステルやファルネス達、教会側が陣取るテーブルに向かった。
「ようこそおいでくださいました。――ユヅル様、スー様、アリスちゃん……あら? 全員お揃いではないのですか?」
「すまない。アイツらはこの盛り上がりに少々当てられてしまってな……察してくれ」
「あぁなるほど。――わかりました。全員お揃いでないのが残念ですが、こちらはこちらで始めてしまいましょうか?」
「あぁ、そうしてくれ」
エステルに誘われ、十人ぐらいは優に座れる大きな丸テーブルの一角に結弦とアリスは腰を下ろす。
テーブルの上には予め屋台の一群とは別に用意されていた食事がところ狭しに並べられており、三人の胃袋を刺激する。
「――では改めまして。ユヅル様たちには赤銅山での山賊討伐から魔人討滅に至るまで、多大なる協力に我々一同心より感謝の意を示します。そして今後のご健勝を祈って……乾杯!」
エステルによる乾杯の音頭を皮切りに、テーブルを囲む皆の歓声が飛び交う。
「これはもう食っていいのか?」
「大丈夫だと思いますよ。――ご主人様、どれをお取りしますか?」
「それじゃあそこにある串焼きと魚介スープを頼む」
「わかりました。――あとスーちゃんには耳目鶏と山菜の炒め物を取ってあげますね」
「ピャー(野菜ばっかり寄越すでない!)」
周囲の目を気にしてか、スーは鳥らしい鳴き声を発しつつ念話のようなものを結弦やアリスに送る。――無駄に器用だな、アイツ……
「鳴いてもダメです! 昨日スーちゃんが魚ばかり食べていたのを私、ちゃんと知ってるんですからね。――後、ご主人様に迷惑をかけた罰です。しっかり反省してください!」
「ぴぃ~(理不尽じゃ~)」
そんなアリスとスーの応酬を肴に、結弦は用意された料理に手をつける。
「ふむ……串焼きはパイルの村以来だが、やはり手軽に食べれて実に良い。それでこっちの魚介スープは今まで食べたことのない味がする……どんな魚を使ってるのだろうか?」
「それはですね、吉兆鯛と呼ばれるグラジオラスの民が験担ぎをしたいときに用いられる魚です」
結弦の独り言を聞いていたのか、少し離れた所にいたエステルが隣に来て解説をしてくれる。
「なるほど、確かに名前からして縁起が良さそうな魚だな」
「はい。――ただ、漁獲量が極端に少ないので入手するのは中々苦労しますが……」
「そんなものをこの場で出していいのか?」
「えぇ、少ないと言っても不可能ではないので。――だってぇ私ぃ、教皇様だもぉ~ん♪」
――あれ?
なんだかエステルの様子が……おかしい?
エステルの目はいつの間にか据わっており、普段の教皇としての面持ちは微塵も感じられない。
「だ~か~らぁ~ユヅル様は偉い私にもっと良くしてくれなきゃいけないのれぇす!」
いつしかエステルは結弦に撓垂れ、女性特有の甘ったるい香りをこちらに放ってくる。
――あぁこれ間違いなく酔っぱらってるな。前の神酒ではこんな酷い有様にはならなかったんだけど……ってかファルネスたちは一体何をしてるんだ?
結弦は教会関係者を目で追う。――しかし、彼らと目が合いそうになると決まってそっぽを向かれてしまう。
「もしかして俺……ハメられているのか?」
「どぉ~こぉ見てるんですかぁ? 今は私とお話してるんですよぉ~」
「おまえ、自分が酒に弱いって分かってるのか?」
「な~に言ってるんでしゅかぁ~ 私は教皇様なのでぇお酒もへっちゃらなのれぇす~」
「あぁ駄目だこりゃ」
「そ~んなことより、ユヅルさまぁ~ 膝枕してぇ~」
完全に酔っ払ったエステルはそのまま結弦の膝に頭を滑り込ませてくる。
なんと言うか酔っぱらいというよりは子供をあやしているみたいだな。――まぁ外見だけならアリスと大差無い……
その後、エステルは結弦の膝という最重要任務を達成したことに満足したのか、そのまま静かに寝息を立て始めた。――まったく、俺の回りの奴はどいつもこいつも自分勝手なやつばっかりだな。
「ご主人様、エステル様も色々と溜まっていたのでしょう。――できればそのまま寝かしておいてあげてください」
「あぁ」
いつの間にかスーを手懐けたアリスが結弦の横に座っており、エステルに向けて優しい視線を投げかけている。
まぁ俺としてはもとより甘えんぼうなエステルを見れる貴重な機会を逃すつもりはないので、ここは粛々とエステルの寝顔を肴に晩酌するつもりだ。
そうして結弦たち一行は、いつもと違う宴の雰囲気と若干の酒に酔いつつ、小さな姫と共に甘い夜を過ごすのであった。




