2.19 再建
翌日、再度エステルによる集会が開かれ、昨日の顛末と今後の展望についての説明をしていた。
ちなみに魔人との戦闘によってボロボロになった教会は立ち入り禁止になっているため、場所は教会前の広場でおこなっている。
「やはり街中で起きた出来事だけあって、昨日よりも数が多いな」
「そうですね。私たちが大部分を引き受けましたが、それでも死傷者がゼロというわけにはいかなかったですし……」
「あぁ、これを機にもう少しこの街は危機意識を持ってくれると良いんだが……それより、なぁアリス、さっきから見られてないか? ――俺たち」
アリスと話している結弦たちは現在、教会の関係者的な場所に立たされている。そのため、住民たちの顔がよく見えるのだが、先程から無視できない数の熱い視線がこちらに注がれていた。
「え~と、恐らく昨日の騒ぎが原因かと……」
横でアリスは決まりが悪そうに答える。
「何かあったのか?」
「はい、実はあの後に色々とありまして……」
「ほぅ?」
なんとなく想像出来てしまうのが残念なところだが、恐らく白音たちがやらかしたのだろう。
「はい、ご主人様の想像通りで昨日、ご主人様と別れた後に白音さんたち食道楽班は有言実行の言葉通りに街の飲食店をしらみ潰しに食い歩き、果てには大食い大会を開いたそうなんです」
「そこだけ聞くとどこぞの山賊とたいして変わらないのだが……」
「えぇ、質が悪いことに皆さんは私たちが教会を救ったことを知っていたようで、話し合いの末、いくつかの店が協賛し合って小さな宴会に発展したそうです」
「――となるとアレは食い荒らされた店主たちによる恨みの視線というわけか……あぁ頭が痛くなってきた」
「いえ、皆さん魔人の襲撃によって沈んでいた所を元気づけてくれたということで宴会自体は大成功に終わったそうです。――多分ですけど視線は白音さんとレンちゃんの食いっぷりに惚れたファンの方かと思われます」
「それはそれで複雑なんだが……おい!そこの大飯食らい二人、アリスはこう言っているのだが、本当に人を困らせるような問題は起こしていないんだな?」
「うぬぅ……どこまでが問題なのかはわからんのじゃが、食べた分の代金はしっかり払ってきたのじゃ! ――後とても美味じゃったのじゃ~」
「そうなの~ 美味しかったのー」
「少しは反省しろ! ――とりあえず後で謝りにいくからな?」
「うぅむ(あい)」
これで視線の理由は分かったが、なんとも居たたまれない。――さっさとやること終わらして解放されたい。
その後、今回の功績を称えた結弦たちの表彰や教会の再建計画についての話を終え、集会は恙無くお開きとなった。
◇
集会が終わった後はエステルと今後の話をするため、彼女が執務をしている仮設テントへ移動する。
「――魔人薬ですか、昔王立図書館で名前だけは目にしたことがありますが実在していたとは……それにしてもよくご存じでしたね」
「うぬ、戦時中は頻繁に使っておったしの……一発で分かったぞ」
「おい、下手な事をサラッというな」
「構いませんよ、最初から皆様が普通の冒険者ではないことは分かっていましたし、昨日アリスちゃんから大体の事情は聞き出しました」
「俺が居ない間に次から次へと厄介事が……」
いきなり話題に上がったアリスは申し訳なさそうに結弦へ頭を垂れている。
まぁアリスもエステルと仲良くなるために必死だったのかもしれないし、三バカと違って怒りにくい。
「安心してください。この事を知っているのは私だけですし、この場の人払いも済んでいますので。――なのでスー様も遠慮なく会話に参加してもらって構いませんよ」
「うむ。この娘、中々に聡い所があって我は気に入ったぞ」
「うーん………でもいいのか? コイツなんて、肩書だけだが一応は『魔王』だぞ?」
「肩書だけとは失敬な!」
興奮した白音が本来の耳や尻尾を出してキャンキャン喚く。
「はぇ~ アリスちゃんから聞いてはいましたが本当に魔王様なんですね。――とりあえず街中で耳や尻尾を出さないでもらえれば問題にはならないと思います」
本物の魔王を目にしたエステルは、拍子抜けするくらい平凡な感想を述べてくる。
大物なのか適当なだけなのか分からない教皇様だ。
「う~む、ここはエステルが理解ある教皇で良かったというべきなんだろうか。……っといけないな、話が少し脱線してきたから元に戻すぞ? ――それで、今回山賊を手引していた黒幕は掴めそうか?」
「いえ、それはまだ調査中です。最初はどこかの弱小宗教による妬みかと思いましたが、あのような薬を所持していた点を考慮すると、もしかしたら敵はかなり力のある存在なのかもしれません」
「ふむ、そこは俺も同感だ。まぁ長引くだろうとは思っていたし、引き続き何か分かった事があったら教えてくれ。――可能な限り協力する」
「ありがとうございます」
乗り掛かった舟である以上、この案件は片が付くまで付き合おうと思っている。――と言うのもさっきの会話からして、色々とこちらの痛いネタを握られているみたいなので、なるべく友好的な関係を築いておきたい。
「次に教会の再建の方なのですが、一度建物を壊し、ゼロから作り直すことにしました」
「まぁそれが無難な選択だな」
「はい。それで大変申し訳ないのですが、教会を建て直すまでの間、この街に逗留していただけませんか?」
やはりか。この街の防衛力を考えると、この頼みはまず申し出てくると踏んでいた。こちらとしても売れる恩は売っておきたいので願ったり叶ったりだ。
ただ、本来の目的を考えると、あまり長い間留まってはおけないのだが……
「どのくらいだ?」
「街で手が空いている人達を総動員して取り掛かることになっていますので一ヶ月くらいかと思います」
驚いた。――一ヶ月でこの規模の建物が元に戻るとは流石の異世界パワーだ。日本なら年単位で事を構える案件だというのに……
「随分と早いな。――まぁそのくらいなら問題無いか。皆もいいか?」
「はい!(あいー)(わかったのじゃ)(心得た)」
「――それじゃ決まりだな。これから一ヶ月世話になる」
「はい、ありがとうございます」
アリス以下、三人と一羽の承諾を得たところで結弦たちの追加滞在が決定した。
「それでは今日の会議はこの辺にして、夕食まで時間があります。それまで皆様は自由にお過ごしください」
「おぉ! いよいよかや? 童に供される馳走たちは!」
「お前たちは昨日も散々食っただろうが! ――どんだけ食い意地が張ってるんだよ」
「勘違いしてもらっては困る。昨日のは前哨戦で今夜が本戦なのじゃ!」
「あの白音さん? 多分ですけどご主人様が言いたいのはそう言うことではなくて……」
「いいんだ、こいつに何を言っても無駄なのは当に分かっている。――でも、だからと言って昨日の件を見過ごすつもりはないからな!? 夕食まで時間があるみたいだし、お前たち三人は店まで謝りに行くぞ」
「我もなのか?」
「監督不行きで同罪だ」
「そんな理不尽な!」
「知らん! ――あぁ、アリスは適当にその辺ブラついていていいからな」
「わかりました。皆さんお気をつけて」
「あははは」
アリスを除く結弦たち一行はエステルに一時の別れを告げ、テントを後にする。
幸いにして店の人たちは笑顔で許してくれた。――と言うより、今夜の宴の提供者だったみたいで、白音とレンが参加することを聞くや否や、俄然やる気に満ち溢れていた。
一人神経質になっていた結弦が馬鹿馬鹿しくなったところで夕刻を示す鐘がなり、結弦たちは宴会会場である中央広場まで足を運ぶ。




