2.15 山賊狩り
翌朝、エステルに頼まれた山賊退治を遂行するため、結弦たち一行はリベラルの街を出立する。
「今から向かうあの山、たしか『赤銅山』って言ったっけ?」
「はい。エステル様たちは山の中腹辺りに山賊のアジトがあると予想しているみたいです」
「となるとそこまでは山登りか。行くだけで結構大変そうだな」
見た感じ、軽く標高二千メートルはありそうな巨大な山で、登るだけでへとへとになりそうだ。
「なんじゃ、ぬしさまはもう弱腰かや?」
「俺とアリスは一般人なんでな」
「よく言うのじゃ。この中で一番イカレておるくせに……」
人外連中と一緒にしないでほしい。
「ご主人様に白音さん、そろそろ敵勢力の支配下になると思われますのでお喋りはその程度にしておいてください」
「わかった(つれんのぅ)」
アリスに注意され、結弦たちは気配を殺して入山する。
♢
山を登り始めること一時間、山賊が仕掛けたと思われる多種多様な罠に辟易としながらも結弦たちは行軍を続けていた。
「こうも罠だらけだと、普通の人間には近寄る事すら難しいんだろうな」
「そうですね。私たちはレンちゃんが事前に危険な罠を発見してくれているので被害はありませんが、教会の方たちには荷が重そうです」
「山はレンのお庭なの~!」
「えらいぞ~ その調子でこの先も頼む」
「あい~」
♢
更に登ること三時間、エステルが目星を付けているポイントへ到達する。
「この辺はあまり罠が設置されていませんね。恐らく山賊の生活圏になっているのでしょう……」
「どれ、それなら我が少し見てくるとするかの。ユヅル殿たちはしばらくここで休んでいてくれ」
「頼む」
スーに周辺偵察を任せ、残った面々は木陰に腰を下ろす。
いやはや、今時の軟弱な元日本人としてはこの山登り、結構堪えた。――まぁレベル補正のおかげで外的な不調は無いんだけど身体の内側、特に肺と脳は山登り特有の気圧差に悲鳴をあげている。――軽い高山病になっているかもしれない。
「アリス、身体の調子は大丈夫か?」
「はい、多少息が上がりましたが少し休めば大丈夫です」
アリスは軽く息を整えつつ返答する。
どうやらアリスは平気そうだ。――同じ人類として尊敬する。
「レンもぴんぴんなのー」
「童も余裕なのじゃ」
「まぁそれは見ればわかるよ」
ハナから一般人じゃない二人は心配していない。――そもそも顔色一つ変えていないし。
「むぅ、ぬしさまはもう少し女子の扱いを心得るべきなのじゃ!」
「そうなの~」
結弦の対応に不満を持った白音が不貞腐れ、隣で愚痴をこぼす。レンにいたっては言葉の意味は……分かっていないんだろうな。
結弦はそんな白音とレンの言葉を聞き流し、地面へ横になる。――少し固いがこのくらいなら十分に休める。
♢
しばらくすると偵察に出ていたスーが戻ってきた。
「ユヅル殿、山賊の拠点を見つけたぞ。ここから日が昇っている方角に一里ほどだ」
「了解。――んじゃ元気なレンと白音は先行して敵勢力の把握と退路になりそうな抜け道を調べておいてくれ」
「あい! (言った傍から童の扱いが雑なのじゃ!)」
「そう言わずに頼むよ。帰ったら一昨日の水菓子を買ってやるから」
「ぐぬぬ、ぬしさまは卑怯なのじゃ。――仕方ない、ちょろい童はぬしさまのいいように使われてやるのじゃ。レン、ついてくるのじゃ!」
「わかったの~」
レンと白音は木々を巧みに飛び移りながら物凄い速度で遠ざかっていく。野生児と魔王……俺やアリスでは到底真似できない動きをしている。
「さて、それじゃ俺たちも向かうとしようか。スー、案内を頼む」
「わかりました(承知)」
♢
結弦とアリスはスーの案内のもと、山賊の拠点と思わしき竪穴に向かう。――が、道中で想定していた戦闘は起きず、代わりにおびただしい数の山賊たちが地に伏せていた。
なんか盛大に顔が腫れあがっているし一昨日の騒ぎを思い起こす光景だ。
「う~ん、俺は偵察をお願いしたはずなんだけどな」
「これは嬢ちゃんの目が水菓子に眩んだかユヅル殿への当てつけと言ったところだろう」
「悪いことは言いません。覚悟を決めておきましょう?」
冷静に分析をするスーと絶賛ドン引き中のアリスが結弦に冷ややかな視線を送ってくる。
「いやぁ……まぁ……そのなんだ。――以後気をつけます」
「頑張ってください」
まぁ腐っても魔王なわけで、そこいらにいる山賊程度では相手にならないか。――ただ、あまり白音に暴れられると夜な夜なフィリアに折檻されそうだし、今後はもっと上手く相手をしなくては……
「とりあえずいつまでも転がしておくわけにもいかないな。――アリス、手分けして縛り上げるぞ」
「わかりました」
結弦とアリスは地面で伸びてる山賊たちを手分けして縛っていく。
そして粗方の処理を終えた辺りで竪穴の中から大量の山賊を担いでいる狂戦士とお付きの人が現れた。
「ぬしさま~ 片付け終わったのじゃ。約束通りとっとと帰って甘味をたらふく食べさしてくりゃれ?」
「ご主人様、レン怖いの……夢に出てくるの……」
二人はそれぞれ対称的な表情でこちらに近づいてくる。
白音の笑顔が怖い。そしてレンは一体何を見たのだろうか……いや、触れないでおこう。
「おつかれさま。レン、白音、よくやったな」
「うぬうぬ、もっと褒めてくれていいのじゃぞ?」
「あい……」
「はいはい、えらいぞ~」
「うにゃ~」
結弦は白音の頭を雑に撫で回す。
どうやら今の対応は正解だったようだ。――覚悟していただけに、拍子抜けするほどチョロかった。
「さてと……思った以上に数がいたな~ どうやって持ち帰ろうか?」
結弦は捕らえた山賊を見ながら帰り道について思案する。
山賊達は白音が新たに捕えた分を併せると、ザッと三十人は下らない。
「うぬ? 面倒なら半分くらい童が処理してもよいぞ?」
「何をする気だ?」
「うむ、今は気分が良いからのぅ~ こうバリボリと……」
「却下だ。――スー、悪いが教会まで応援を呼びにいってもらってもいいか? ふもとまではなんとか連れていくから、そこからはそっちでなんとかしてくれと」
「承知した」
スーを見送り、結弦は作業に取り掛かる。
「ご主人様? ふもとまでとおっしゃっていましたけど、どうされるのですか?」
「ちょっと荒業だけど、俺がステップで空中に坂を作ってその上を転がそうと思う」
昔、高原へ遠足で行った時にあった巨大な滑り台を再現しようと思う。――まぁ規模が全然違うし、木や岩が気になるから遮蔽物のない空中に設置するつもりだが。
少なくとも、今の白音を放っておくと子供たちの教育上、よろしくないことをしそうなのでポップな修正案だ。
「できるのですか?」
「あぁ、俺は無詠唱でステップの連続詠唱ができるからな。適度にアリスがサポートしてくれればなんとかなるだろう」
下へ着くまでにへばってないことを祈ろう。
「わかりました。頑張ります!」
「かっかっか……童のぬしさまは面白い事を考えるのぅ」
「楽しそうなの~」
とりあえず異論は無さそうだ。
「じゃあ始めるぞ。レンと白音は俺が作った坂の上にどんどん山賊を投げてくれ」
「あい(そ~れ!)」
結弦はステップを無詠唱で発動し、幅員十メートルの坂を空中に生成した。これにレンと白音が捕まえた山賊を次々と放り投げ入れ、落ちそうな所をアリスが補強していく。
「そ~れそれ! よく転がるのぅ」
「転がるのです~」
「あの~ ご主人様、山賊さんたちが目も当てられない姿になっていくのですが……」
「ちょっと見込みが甘かったかもしれない」
山賊達は見えない地面に全身を打ち付けられ、ただでさえ腫れあがった身体が修正不可能なくらいに変形していく。
なんでだろう……白音の案とたいして変わらない気がする。
結局、二人に増えた狂人によって、山中は阿鼻叫喚が至るところから聞こえる地獄絵図になってしまった。
そして結弦とアリスはそんな惨状から目を背け、粛々と下山した。




