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2.14 リベラル大聖堂

「……ユヅル様、お迎えに上がりました。――外に馬車を用意させていますのでご足労願います」

「はぇ?」


 翌朝、結弦が目を覚ますと、目の前は謎のおっさんの顔で埋め尽くされていた。

 突然のことで間抜けな声をあげる結弦は訳もわからないまま、おっさんに担ぎ上げられ、そのまま外へ連行される。

 そして、よくよく見ると隣で寝ていたはずの皆の姿も無かった。――恐らく先に連れていかれたのだろう。


 三分後。

 結弦はおっさんに馬車の中へ放り込まれる。そして車内にてようやく仲間達と再会することができた。


「ご主人様!」

「あぁ、やっぱり先に乗っていたか」

「うぬ、童をあのように扱う輩、アリスが止めなければ消炭にしてやるというのに……」

「おいおい……」


 仲間たち(とおっさん)の無事が確認できて一安心する。

 あまりの手際の良さに終始呆気に取られていた結弦だったが、馬車に運ばれる頃には流石に覚醒していたので、現状の把握と整理を始める。


 まず昨日の出来事を加味すれば、間違いなくエステルが絡んでいると思うが、ここまで強引な『お礼』をされるとは思っていなかった。

 それと初っ端から強烈なインパクトを俺に与えたおっさんは、俺たちを馬車に放り込むと御者台の方で無心に手綱を取って馬を操っている。――こうしてみるとロボットみたいなおっさんだな。


「それにしても私達、どこへ連れていかれるのでしょうか?」

「う~ん、恐らく中央の教会だと思うけど、細かい場所までは分からないな。――あぁそれと、そこにいるおっさんは恐らくエステルの身内だからそこまで警戒しなくてもいいよ」

「はぁ……」

「まぁ、危なくなりそうならそこにいる魔王と神鳥がなんとかしてくれるさ」

「任せておくのじゃ♪(アリス嬢の身は我がお守りする)」

「頼りにしてます」

「お城なの~」

「お城とはちょっと違うけど……」

「おっきいですねぇ~」


 多分、そこまで危ない事にはならないと思うけれど……ともあれ、二人のフォローとレンの無邪気さもあってアリスの不安は解消されたようだ。



 馬車に揺られることニ十分、当初の見込み通り、街の中央でそびえ立つ大きな教会へ連れてこられた結弦たちは、建物の裏口に回され、おっさんの案内のもと、謁見の間のような場所へ通された。


 大きな教会だから何があってもおかしくはないが、こういう豪華な場所に連れてこられるとレンじゃなくてもちょっとした城へ来た気分になる。


 そして更に待つこと十分、唐突に始まった楽団の演奏に合わせて奥から正装姿のエステルが現れた。


「皆様、朝からご足労ありがとうございました。――あら? すでにお疲れのようですが何かありましたか?」

「今日初めて見る顔がそこのおっさんで且つ、無理やり連行された点を除けば概ねいつも通りの快調だ」

「はい? ファルネス、どういうことでしょうか?」


 俺らをここまで連れてきたおっさんはどうやらファルネスというらしい。


 《ステータス》

 _____________________

 名前:ファルネス 46歳♀

 レベル:15

 ジョブ:司祭《クロノス教》

 装備:なし

 所持金:スィード金貨50枚

 スキル:祈祷

     説法

     経営

 魔法:なし

 _____________________


 結弦が認知したことによってファルネスのステータス情報が交流欄に追加される。


「はい、聖下は昨日の抜け出しによって承認が必要な書類が大量に残ったままです。なので、早急に職務へのお戻りをと思いまして………多少、強引なお出迎えとなってしまいました」

「はぁ………すみません、私の監督が至らないばかりにご迷惑をお掛けしたようです。ですが、原因は私にあるのでファルネスを責めないでください」

「まぁエステルの立場は薄々気づいていたし、別に怪我をした訳でもないから構わない」

「そう言っていただけると助かります。――後、残念ながらユヅル様にはバレてしまっているようですが改めて自己紹介をさせてください。私はクロノス教の教皇の席に就いているエステルと申します。昨日は負傷した私を皆様が助けていただいたこと、心より感謝と御礼を申し上げます」


 エステルのカミングアウトを聞いたウチの仲間たちは口々に『えっ? えっ? 教皇様!? どうしましょう、昨日は随分とフランクにお話をしてしまいました……これはお叱りなのでしょうか?』、『教皇様……?』、『ほぉ、これが今代の教皇か。――スーはどう思う?』、『うむ、多少お転婆みたいだがまずまずだろう』と四者四様の感想を述べていた。


 そんな自由気ままなウチの仲間達を放っておいて、先方さんは粛々と仕事を進める。


「こちらは、些細ですがお納めください」


 ファルネスが俺にスィード金貨十枚と何かの魔法薬と思われるものを差し出してきた。


「昨日、私に使っていただいた神酒(ネクタル)ほどではありませんが、当教会で用意できる最高級の体力回復薬です」


 ふむ、神酒は状態異常特化だから純粋なHP回復アイテムは貰っておいて損はないだろう。――思わぬ収穫かもしれない。


「ありがとう、大事に使わせてもらうよ」


 金貨とアイテムを受け取った俺たちは、エステルと最低限の歓談を交えた後、謁見の間を後にする。


 ――が、そうすんなりとは終わらないらしい。


「お待ちください、皆様方に折り入ってご相談がございます」

「ファルネス? 何を言って?」

「聖下、この方たちは凶器を持った暴漢たちをいとも簡単にと捕縛されたと聞いております。加えて貴重なアイテムも複数所持されているようですし、例の案件にご助力いただくのが得策だと進言します」

「ファルネルス! ……恩人に対して失礼ですよ、今すぐ謝罪しなさい」

「いや、構わない……それよりも例の案件とは?」

「それは……ここまで来たら隠す方が失礼ですね。大変お恥ずかしいお話ですが、近頃このリベラル近郊に大規模な犯罪ギルドが攻め入ってくるという情報がありまして、どうやら他宗教の幹部が私の暗殺を依頼したみたいなのです。一応昨日の連中もその一味だったらしいです。――ですが、ユヅル様たちのお手を煩わせるほどの内容ではございませんので、どうかお気になさらずに」


 もうほとんど『助けて』と言っているようなものだが……さて、どうしたものか。――エステルの顔には暗い影が差しているし、中々に深刻な問題なんだろう。


「ご主人様、何を迷われているのですか? 一夜とは言え、私達と楽しくお話したエステル様のピンチですよ? 力になってあげましょうよ!」


 ここにももう一人『助けましょう』と言外に訴えかけてくる子がいた。――まぁアリスはエステルの事を気に入っているみたいだし、考えるだけ時間の無駄なようだ。


「そうだな……エステル、その犯罪ギルドとやらはどこら辺にいるか分かるか?」

「助けていただけるのですか?」

「あぁ……ただし、問題を片付けた暁には報酬として、アリスの相手でもしてやってくれ」


 隣でアリスの顔に赤みがさす。――アリスはエステルに思い入れがあるみたいだし、この際、教皇様と友達になる良いきっかけとなってくれれば俺としても旨みがある。


「ありがとうございます。――私で良ければ喜んでお相手させていただきます」

「頼んだ」

「はい♪ では、犯罪ギルドについて私たちが掴んでいる情報をお教えいたします。まずは所在についてですが、ここ最近、街での軽犯罪が北地区で頻繁に発生しています。恐らくリベラルの北に位置する赤銅山のどこかにアジトを構えていると私たちは睨んでおります……ですが、正確な場所は掴めていないのでユヅル様たちには山をしらみ潰しに捜索していただくことになるかと思います。」

「ふむ、襲撃までの猶予はどれくらいだ?」

「わかりません……が、それほど長くはないものと思われます」

「わかった。本日中に準備を整えて明日の朝一に赤銅山とやらに向かう」

「お願いします。――それとよろしければ教会の備品庫に多少のアイテムも用意しておりますので、必要とあればお持ちください」

「ありがとう、後で確認させてもらう」


 今度こそ結弦たちは謁見の間から退散し、山賊退治に向けた準備を始める。――なお、教会に補完してあるという備品は、中級の回復薬や暗視薬、捕縛ネットなど使えそうなものがいくつかあったので適当に貰い受けた。



 結弦たちは宿で装備の点検をしていると、白音が今回の依頼について話かけてきた。


「今回の教皇ちゃんの依頼といい、ぬしさまと一緒にいると事件に飽きる事ないのぅ」

「そうなの~ おにくいっぱいなの~」

「かっかっか、確かに食にも飽きることはないかのぅ」

「お前らなぁ~」

「それでも、その『事件』によって私たちはご主人様に出会えましたから」

「そうだな、我としても退屈な神界にいた頃よりも今の方がずっと快適だ」

「うぬ、童も洞穴でゴロゴロしているよりかは楽しい日々なのじゃ♪」

「まぁそう思ってくれるなら明日の山賊狩りもサクッと片してくれよ?」

「はい(あい)(楽しみじゃ)(血が(たぎ)ってくるわい)」


 白音じゃないが、ほんといつも変な事件に巻き込まれるなと思いつつ、結弦は黙々と装備や道具のチェックを進めるのであった。

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