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2.13 教皇『エステル』



「そこの男達! さっき店でくすねたネックレスを返しなさい!」


 久しぶりに美味しいご飯をたらふく食べた結弦たちは、宿へ帰る途中でちょっとした捕り物の劇に出くわした。

 状況は、貴金属店から売り物をかっぱらってきた二人の若者を外套で顔を隠した少女が捕えようとしているらしい。


「はっ!? 小娘が邪魔するな。――こっちは生活がかかってんだ!」


 男の一人が少女に向かって殴り掛かる。――が、少女はこれを華麗に受け流し、男は頭から地面に突っ込んだ。


「女だからと舐められるのは少々心外ですね」

「このアマぁ! そっちがそのつもりならやってやろうじゃないか」


 如何にも三下な雰囲気を漂わせる男は、服の袖に隠していた小さなナイフを取り出し、少女に向かって投げつける。


「きゃっ!」


 少女は突然の飛び道具に一瞬対応が遅れ、腕にかすり傷を負う。――そして不幸にもナイフには何か塗られていたようで、少女は崩れ落ち、悶え苦しむ。


「ナイスピッチ! やるじゃないっすか兄貴! ささっ、今のうちにズラかりましょうぜ」

「あぁ、いくぞ!」


 これはまずいな、早く手当をしないと。――まったく、勇猛果敢なのはいいけど相手を選んで欲しいものだ。


「白音、向こうは頼んでもいいか?」

「ぬしさまもお人好しじゃのぅ。――後で甘味を一品じゃぞ?」

「太るから一品だけだぞ?」

「なんじゃと!! ぬしさまは乙女になんてことを言うのじゃ! ――とは言えぬしさまのお許しが出たし、太らない為にも食後の運動と洒落こもうかのぅ」


 白音は人目につかない所で鬼火を複数展開し、盗賊の追跡を始めた。――とりあえず向こうは白音に任せておけば大丈夫だろう。


「さて、こっちも何とかしないとな……アリス、患部にしみ込んだ液体は何かわかるか?」

「恐らく麻痺毒の類だと思われますが、細かい事は何とも言えません。――致死性のある毒物の可能性もありますので早急に治療が必要です」

「ふむふむ……横から失礼するがユヅル殿、どうやらさっそくアレを使う機会なのではないか?」

「確かに……わかった、今出す」


 結弦はリベラルに来る途中で生成した神酒(ネクタル)を道具欄より取り出し、少女に飲ませる。――すると、苦悶を浮かべていた少女の顔は次第に穏やかなものになり、そのまま眠ってしまった。


「よし、とりあえずは効いてそうだ。流石は神の御業といったところか。――けどこの子寝ちゃったな……どうしよ?」

「そうですね……流石にこんな往来に放置する訳にもいきませんので私たちの宿へ連れていきましょうか?」

「わかった」


 すやすやと寝息を立てている少女を担ぎ、宿に向かう。


 途中、盗賊退治に出向いた白音と合流する。――賊たちは中々に酷い有様をしており、リーダ格の男に至っては顔の造形がかなりワイルドなものに作り変えられていた。

 結弦は約束通り、露店で全員分の水菓子を購入して客室に戻り、少女をベッドに寝かせた。



 一時間後、少女は目を覚ました。


「ここは?」

「起きたか……ここは俺たちが取っている宿だ。――っで、体調はどうだ?」

「そうですか。痛みは引いて、傷口も殆ど塞がっています。この度は助けていただき誠にありがとうございました。――それと、かなり高いお薬をいただいてしまったようで申し訳ありません」

「どういたしまして。――後、薬……というより酒に関してはまだまだ在庫があるから気にする必要は無い」

「お酒だったのですか……薬効酒に関してはあまり知識が無いのですが、さぞお高いお酒だったのでしょう?」

「ん~ まぁ元はただのお酒だったんだけど、ちょっと知り合いの伝で調合してもらったものだ。あまり言いふらされると困るが名は『神酒』っていう」

「ネクタル?……国の国宝と同じ名前ですか、確かにそれは喧伝する訳にもいきませんね」

「う~ん、名前だけじゃなくて中身も神酒そのものなんだけど……」

「へっ!?」


 ぽかーんとしている少女に道具欄から神酒を出す。


「まぁぱっと見は分からないけど、状態異常からちょっとした病気まで直せるらしい。――使ったのは初めてだけど、ちゃんと効いてるみたいでよかったよ」

「あなた方はいったい……」

「そういえば自己紹介がまだだったな……俺はユヅル、一応冒険者と行商人をやっている。後は近い順でレン、アリス、白音……それとペットのスーだ。一応この面子で仲良く食道楽の旅路を送っている途中で、薬剤師もその過程で知り合った」

「え~と、そのお酒はそんな簡単に造れる代物では無かったはずなのですが……いえ、深くは詮索いたしません。――それよりもユヅル様にレン様、アリス様、白音様とスーちゃんですね。改めてこの度は助けていただき誠にありがとうございました。私は『エステル』と申します。詳しい身の上は後日、お礼に参らせていただきますので、その時にお話しいたします。――私ばかり驚かされるのも癪ですし、その辺もしっかりお礼をさせていただきますね♪」


 《ステータス》

 _____________________

 名前:エステル 126歳♀

 レベル:24

 ジョブ:教皇(クロノス教)

 装備:無し

 所持金:無し

 スキル:祈祷

     説法

     料理

     合気道

 魔法:ブレッシング+5

    ヒーリング+3

    リインフォースメント+3

 _____________________


 エステルは仕返しとばかりに茶目っ気たっぷりの自己紹介をする。――まぁ、俺には彼女のステータスが見れるので身元は分かっているのだけれど……教皇か。確かに御大層な役所だが、そんな人がこんな夜遅くにブラついてていいのだろうか? 後、年齢からしてこの人は亜人だろうか。


 その後、水菓子を食べながら他愛のない話をエステルとしつつ、頃合いを見計らって彼女を中央の教会付近まで送る。――普通に『向こうです』と教会の方を指差してくるのだけれど、本当に正体を隠す気があるのだろうか?


 最後に一波乱もあった初日になってしまったが、いつもに比べればたいしたことはない。――そう結論付け、結弦は宿に戻っていくのであった。

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