2.12 宗教都市リベラル
ロクシタンの街を発つこと数時間、人通りの少ない街道でスーが先程買った酒を加工すると言いだす。
「ユヅル殿、すまぬが一度酒樽を出してはくれないか? 街を出る前にも言ったが、少々加工しようと思う」
「あぁ、それは構わないけど何をする気なんだ?」
スーの要望通りに道具欄から商工ギルドで購入した酒樽を取り出す。
「なに、大したことではない……この樽の中に我の血を一滴垂らすだけだ。――これで状態異常一式と軽微な病から即時回復する効能が付与される」
「ほぉ、それは凄いな」
「……これでも神の眷属だからな、我の一部を使えばちょっとした神酒くらい容易に生成できる。これをあの街へ持っていけば信心深いやつらに高く売れるだろう?」
「それはいいな。――けどいいのか? 神の力の安売りってことで、バレたら確実にウチのフィリアさんが怒りそうなんだが……」
「まぁ…それは……ほら、我を召喚したアリス嬢の特権ということにしておけばいいだろう。――ただ、フィリア嬢は怒ると怖いからなぁ……ユヅル殿、何かあった時はしっかり宥めてくれよ?」
「おい! 俺に責任を押し付けるな……俺だってあいつからの制裁は食らいたくないんだぞ!?」
「うぅむ、仕方ない……その時は一緒に怒られてやろう……」
「まったく、ご主人様もスーちゃんも悪巧みをする時だけは仲がいいんですから」
思わぬ爆弾を生成してしまったスーと一緒にフィリアに対する言い訳を今のうちにたくさん考えておく。――ここまで来たら作らなければいいのでは? とも思ったが、アリスによると神酒と名の付く酒はこの国では国宝クラスのアイテムになるらしい。――その為普通にギルドで売らず、街の偉い方々へのコネクション用に所持するという方針で決着した。まぁ古今東西、どうにも宗教が絡むとロクなことにならない気がするので味方になってくれそうな偉い人と先に仲良くなっておこうという算段があったりする。
スーの血を垂らし神酒と化した酒樽を再び道具欄に収納し、俺たちはリベラルへの移動を再開する。
♢
それからのんびり馬車に揺られること八日余り。
特に魔物の襲撃に合うこともなく神聖都市リベラルの門前へとたどり着いた。
「随分とあっさりついてしまったな」
「むむむ? ぬしさま、簡単に言うが童が起きてる間も寝ている間も妖気を垂れ流しにしていたということを忘れないで欲しいのぅ」
――そう、魔物の王である白音は、自身が持つ『気』を周囲にまき散らすことで、格下の魔物達が近づくことはできなくなる……らしい。
「わかってるよ、白音がいるおかげで快適な旅路となった……ありがとう」
「うぬうぬ、わかっているならそれで良いのじゃ♪」
白音が付き出してきた頭を乱暴に撫でてやる。
とてもチョロ……扱いやすいことに定評のある白音をおだて殺し、結弦たちはリベラルの街へ入街した。
この街の景観は中央に巨大な教会構えており、そこから放射状に建物が軒を並べている。この中央にある教会はこの国の主派であるクロノス教の聖地でもあるらしく、中央に近づくほど人だかりは激しさを増していた。――街の規模はロクシタンを三割増しした程度で全体的に高そうな石造りの建物やオブジェクトが華やかさを演出している。
「早速市内観光と行きたいところだが、まずはこの街での拠点となる宿屋探しをしようか?」
「馬車も預ける必要がありますし、それがいいでしょう。――スーちゃん、空から宿屋っぽい看板を探してください」
「了解した。――では、少し失礼する」
アリスにお願いされてスーは空高く舞い上がる。――しっかりと神鳥を扱いこなせている辺り、将来は有望な飼育係となってくれることだろう。
街の上空から捜索すること五分、スーは目ぼしい宿屋を何件かピックアップしてくれた。――結弦はその中の一つで、比較的街の外周寄りに店を構えている宿屋を選び、そこへ向かった。
♢
「いらっしゃいませ、ようこそ『サウスリベラル』へ。――ご宿泊でよろしいでしょうか?」
「はい。とりあえず十日ほどは滞在させてもらえないでしょうか?」
「かしこまりました。……お部屋は二部屋でよろしいでしょうか?」
「あぁ、それでかまわ…(いえ、一部屋で構いません)……ではそれで」
横から割り込んできたアリスに気圧され、店主にそう答えてしまう。――まぁ今までも一緒の布団で寝ていたので俺は別に構わないけど……お金に困っている訳でも無いし、広い方がいいのではないだろうか?
「それでは一部屋を十日間ご使用されるということで……代金は銀貨換算で五十枚になります。――また当店では食事の提供サービスは致しておりませんので、あらかじめご了承ください」
店主に代金を支払い、俺たちは客室に入る。――この宿では食事が出ないみたいなので、これからどこか食べに行く必要がある。……ちょうど観光にもなるから都合がいいかな。
「――さて、少し休んだら夕飯を食いにいこうか」
「はい(にーくー!)(お腹空いたのじゃ~)(この街の料理……久しく食していないから楽しみだ)」
四者四様の返事が返ってくる。――ウチのパーティーはみんな食欲旺盛なので休憩の必要は無いかもしれない。
♢
若干の休憩を挟み、結弦たちは人通りの多い街の中心へと訪れていた。
やはり中央に向かう程豪勢な店も増えていき、実に美味しそうな店がちらほらと散見された。
「ご主人様、にーくーが食べたいの~」
「ふむ、移動中はずっと糧食ばかりで肉はお預けだったからな。――よし、今日はレンの行きたいところにいこうか」
「わーいなの~ レッツゴーなの~」
レンは結弦のゴーサイン待ちだったようで、許可が出るや否や物凄い勢いで一つの店に突撃した。――相変わらず肉に対する執念は素晴らしいものだと思いつつ、他の面々は急いでレンの後を追いかける。
レンが選んだ店は、大きな豚を中央で丸焼きにする料理ショーをしていた。――十中八九、これに惹かれたんだなと誰もが思った。
そしてなんとか追いついた結弦たちもレンの後に続いて席につき、メニューを眺める。ここでは、肉料理を始めに、サラダや焼き魚、果ては麺料理まで取り扱っており、外観からは予想出来ないほど種類が豊富だった。――そういえばこの世界に来てまだ麺を食べていないな……せっかくメニューに載っていることだし食べてみるか。
「結構種類があるみたいだし、とりあえず適当に好きな物を頼んでくれ」
「ありがとうございます。――では、私は山菜の盛り合わせと地魚の炙りでお願いします」
「ふむ、それなら童はこの黒パンのチーズ掛けと燻製麺を頂くとするかのぅ」
「レンはあのにく食べるのー」
「我もお供しよう!」
「了解っと……すみません、注文いいですか?」
店員を呼んで各々注文をしていく。白音が頼んだ燻製麺とやらはラーメンみたいな料理でチャーシューの代わりに特大豚の燻製をぶつ切りにしたものが入っていた。――俺も同じものを頼んで食べてみたが、臭みも無く思ったよりするすると食が進んだ。――うん、美味い!
四人と一羽は久しぶりにお腹いっぱいになるまで料理を平らげ、店を出る。
そして宿へ引き上げる最中、結弦たちはこの街でこれから起こる大事件の幕開けに遭遇するのであった。




