2.11 新たな仲間たち
ダンジョン探索を終えた翌日。
結弦は、宿で今回の探索の事後処理に追われていた。――まぁ大部分は、新たに増えた仲間が原因だったりするのだが……
♢
結弦は初めにギルドへの調査報告書をまとめることにした。
そして当然ながら、白音やスーの事は書けない為、どうしてもダンジョンの深層部の説明がぼやけてしまっていた。
「ぬしさま? そんな紙切れなど適当に書いておけばよいのじゃ」
「そうはいかないだろう。こんなんでもギルドからの依頼だ。貢献ポイントを稼ぐ為にもキッチリ仕上げないとな。――第一、報告書はお前らのせいで書きにくくなっているんだから、少しは有益な情報を出してくれ」
「難儀じゃのぅ……仕方ない、童も原因の一部みたいだし少しは手伝ってやるのじゃ。――とは言え、童も千年ほど前に移住してきた身、前の主の顔など殆ど覚えとらんのじゃが」
「そうなのか?」
それは初耳だ。
「うぬ……千年前に起きた大戦で童はフィリア姉さまにコテンパンにされてしまってのぅ……這う這うの体で彷徨っていたんじゃが、たまたま良さげな隠れ家を見つけることが出来たのじゃ。――そして、安住の地を求めて奥に進むと物凄く大きなトカゲがおってのぅ……とても美味じゃった♪」
「普通に覚えてるじゃないか! ともかく、ダンジョンのボスはそのトカゲでいっか。――後はダンジョンの謎についてだが……」
「謎とはなんぞや?」
「このダンジョンの入り口は夕方にしか現れなかったり場所が不規則だったりと中々に不思議なダンジョンなんだ。まぁ光の波長が影響しているのは分かっているのだが、どう報告書にまとめたものか」
「んにゃ? それは童の『蜃気楼』によるものだから、今はもう普通のダンジョンじゃよ?」
「あぁん!?」
「言ったじゃろ? 童は安住の地を求めてあのダンジョンに辿り着いたと。それでせっかくの寝床を荒らされたくないから蜃気楼を張って追っ払っておったのじゃ。――まぁ、童もあの術はそんなに得意じゃないから多少の不具合は出てしまったがのぅ」
「そういう事は早く言え! ってかダンジョン丸ごと弄れるとか魔王だけあってやる事成す事規格外過ぎだろ。――まぁ、おかげで報告書の方は無事に書けそうだが……これなら最初から手伝ってもらえば良かった……」
「ふふ~ん♪ もっと褒めてくれてもいいのじゃぞ?」
調子に乗って頭をぐりぐり押し付けてくる白音を適当にあしらって報告書を完成させる。
「さてと、報告書はこんな所でいいかな。次は……来たか」
結弦が懸念している問題の二つ目が向こうからやって来る。
「ご主人様、そろそろお夕飯の時間になりますので一階に降りてきてください。――こら! スーちゃん、つまみ食いはいけませんよ。お行儀良く待っていてください」
「ぐぬぬ、我は悪くないぞ! この『唐揚げ』なる貢物がいけないのだ!」
「口答えですか? これは減量の刑ですかね……」
「なにっ!!……すまぬ、我が悪かった。――大人しく待っているからそれだけは勘弁してくれ!」
そう、新たに増えたもう一羽の問題児(?)と周囲の上下関係だ。
アリスはパイルの村へ遠征していた時を除いて、毎日宿屋の女将であるマーテルから料理を教わっていたらしい。――というのも、最初は手伝い程度だったのだが、本人が物凄いやる気を見せたがためにマーテルが結弦の見えない所で色々と仕込んでいた。
そして、鍛え上げられた料理の腕は中々のものへと昇華され、いつの間にかウチの台所事情を完全に掌握する存在になっていた。――それこそ神鳥さえも従えるほどに………
一方レンはというと、そんな哀れな神鳥をお爺ちゃんのように慕っており、日中はよく遊んでもらっていたらしい。――こちらも神に対する扱いとしてはいかがなものかとは思うが、昨日のように怯えた雰囲気が払拭されていたので良しとしている。
結果、この一人と一羽が増えたことでより混沌としたパーティーになってしまった。――後、神鳥なんだから唐揚げが好物なのは不味いだろう……同族なんだから。
♢
「皆聞いてくれ、明日は朝一でギルドに依頼の報告をした後、この街を出ようと思う。かまわないか?」
結弦は食事の合間にこの街を出る話を切り出す。
「大丈夫です。――本日中に必要な糧食と資材は揃えておきましたから、いつでも出立できます」
「俺が報告書に苦戦していたせいで準備を全て任せてしまってすまなかった。――他のみんなも大丈夫そうか?」
「あい(久々の外の世界だから楽しみなのじゃ)(左に同じく)」
特に問題は無さそうかな。
その後、街を出るに当たって細かい注意事項を新入り二人に教えておく。
♢
部屋に戻った結弦たちは二日ぶりに恒例の湯浴みを皆で行い、最後は仲良く同じベッドで眠りについた。――ちなみに、アリスとレンに泡まみれのおもちゃにされるスーと、身体中を白音に弄ばれた結弦は互いに確かな友情を築き上げたのはまた別のお話。
――そして気を見計らったかのようなタイミングで彼女は結弦に接触してきた。
◇
「こんにちは結弦、ダンジョンから無事に帰ってこれたみたいで何よりだわ」
「フィリアか。――いつもながら助けてくれてありがとう」
「それだけ?」
「え~と、すまん……フィリアからのオーダーである魔王討伐を反故にしてしまった。――罰を受ける覚悟は出来ている」
「殊勝な心意気で実に結構。……そうね、本来なら一発きついのを浴びせてあげたところだけれど、あの子は私にとっても所縁がある関係だし、今回はこれで許してあげる」
そう言ってフィリアは結弦に笑顔でデコピンをしてきた。
「いっったぁぁ!今まで受けたどの攻撃よりも痛いぞ! あぁ~ 頭がぐらぐらする」
「当然よ、私の一撃はレベルによる減衰が無いからいい薬になったでしょ? この痛みを糧に少しは反省することよ」
「うぐっ……まだクラクラする。――これマジな罰は確実に死ぬな」
「それはあなた次第ね。せいぜい白音の手綱はしっかり握っておく事ね。もし、また悪さをするようなら飼い主である結弦に責任を取ってもらうから」
「肝に銘じておきます」
「よろしい」
かなりキツイ一発をフィリアから貰った後、結弦は彼女からジークの話を聞き出す。――彼は千年前の神魔竜大戦の時の助っ人ポジションで呼んだイタリア人で、俺と同じように悪態をつきつつも懸命に三大勢力を倒して回ったらしい。……話を聞く限りゾッとするネタばかりで出来る事なら今後一生関わらずに済むことを願うばかりだ。
「そういえばジークが持っていたあのタロット、とんでもないバカ鳥を呼び寄せたけど一体どういう能力を持っているんだ?」
「あぁ、それも伝えておかないとね」
「あれは神札と呼んで、神剣と同じ神器の一つね。能力はカードに対応する物や生物、場所なんかと契約を交わすことが出来るの。繋いだ契約はカードを通して自由に行き来させることが出来るわ。――例えばこの宿屋と契約を交わせばいつでも帰ってくることも可能よ」
「なんとも便利な道具だな」
「まぁ使える限りはね。当然このカードにも制約があって、前提条件として私が認めた者でないとカードは能力を発揮しない。そして解放されるカードは一月に四枚までと一度使用したカードを他の契約へ転化させる事は不可。後は使用者の実力が伴っていないとそもそもカードが解放されないこともあるわ」
「思った以上にめんどくさそうだ。それで今アリスが使えるのはどのくらいなんだ?」
「そうね……今のあの子なら小アルカナの『Ⅲ』くらいまでだったら何もしなくても解放されるわ」
「なるほど、思ったより手札は少ないと言うわけか」
「えぇ、今回の戦闘で朱雀神を呼ぶのにカップのエースを使ったから残りは物品を司る『コイン』、場所を司る『ワンド』、事象を司る『ソード』の各エースが今月使えるカードになるわ」
「物や場所は分かるが『事象』っていうのはなんだ?」
「文字通り、この世で起こりうる様々な環境を作りだす能力よ。マグマが隆起したり地震が起きたりと内容は様々ね」
「随分と物騒だな」
「えぇ、だからソードを使う時は私と交信している時にしなさいとあの子に言っといてちょうだい。――ある程度はコントロールしてあげるから」
「わかった」
その後、フィリアから各カードとの契約用呪文を教えてもらい、夢の中での情報交換はお開きとなった。
♢
翌朝、早速アリスに翠玉亭をワンドのエースに登録させる。
「――ではいきます! ――巡り巡りて回帰する、刻の円環へと導く杖よ、我が呼びかけに応じ刻み込め『クロノリンク=A』
アリスの詠唱が完了すると棒が一本描かれていたカードは奏玉亭の外観を模した絵に様変わりする。
「これで大丈夫なのでしょうか?」
「わからん。――とりあえず使ってみろ」
「そうですね。『オープン』」
アリスが唱えると目の前に一枚の扉が出現した。
「扉が出てきました」
「みたいだな」
「レンが開けるの~」
いきなり現れた扉に興味深々なレンは一目散に飛び込んだ。
「まぁ危険は無いと思うが……ふむ、宿の一階に繋がるのか」
「とりあえずは大丈夫そうですね」
「あぁ」
「まぁせっかくだし他の力も試してみるか」
「はい!」
その後、結弦とアリスはコインのカードを用いて、馬車を登録した。――なお、馬は馬車とセットで扱われるらしく、札には馬と馬車の両方が描かれていた。
♢
神札の能力を一通り検証した結弦たちは、当初の予定通りに調査報告書を提出しに冒険者ギルドへと足を運んでいた。
「確かに受け取りました。――こちらが今回の報酬と更新された冒険者カードです」
《冒険者カード》
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名前:ユヅル 21歳♂
レベル:30
ランク:シルバー
ランクポイント:1485(次のランクまで8515)
現在の依頼受注数:0
依頼達成数:9
貢献ポイント:2255
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受付嬢から報酬のスィード金貨十五枚、銀貨五枚と更新された冒険者カードを受け取る。
カードを確認すると、国からの依頼だけあって付与されるポイントは大量だった。――特にメイン目標である貢献ポイントは魔導書の購入で消費した分を一回で帳消しにしてくれる程だ。
♢
冒険者ギルドで一つ目の用事を終えた結弦たち一行は、次に商工ギルドへと向かった。――ここでは次に向かう街の『リベラル』で売り込む交易品を買うのが目的となっている。
なお、商売に関してはアリス除いてただのお荷物なので、商品の仕入れを含めここでの用事は全て彼女に任せている。
アリスが目録より交易品を探していると、隣からスーがさりげなく念話でアドバイスをする。
『アリス嬢よ、我の記憶が正しければリベラルという街は神聖都市だ。売り込むなら酒が良いと思う。――それに我ならその酒を上手くアレンジできる』
「そうですか……分かりました。お酒を中心にいくつか見繕ってみます」
スーの助言によって一応の方向性が決まった所でアリスは、自身の目利きを頼りに酒樽を大量に購入する。
そして積み荷の用意を終えたところで、結弦たちはいよいよ次の街、リベラルに向かって出立した。
もうそろそろお話を書いて一か月になります。
三日坊主にならずにいるのは皆さまのおかげあってのものです。
とりあえず次からリベラル編に突入しますが引き続き温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
これからは、一人でも多くの読者に読みやすいものを提供できるよう努力していきたいと思います。また、誤字脱字用法についての指摘もあればザクザクとお申しつけくだされば助かります。
最後に、この物語の続きを少しでも読みたいなと思っていただければブックマーク登録等をしてもらえると幸いです。
それでは、これからもよろしくお願い致します。




