2.10 宵の明星:神札《クロノリンク》
==Side Alice==
どうしよう。ちょっとずつだけどご主人様が押されてる。
結弦のレベルや彼が手に持っている神剣の事を知っているアリスは当初、戦闘が長期化するとは思っていなかった。
しかし、永続ダメージが付与される鬼火への対処と空間裁断による精神的な疲弊が蓄積され、今や肩で息をしている有様だ。
「ご主人様大丈夫かな?」
「ちょっと危なそうなの~」
『そうねぇ~ あれだけ色々な力を貸してあげているのにセンスが無さ過ぎて十分に力を使い切れていない。――せっかく可愛い愛人がいるんだから助けてもらえばいいのに……男って本当バカよね』
「えっ!?」
部屋の隅でレンと会話をしていたアリスは、唐突に参入してきた第三者の声にたじろぐ。
そして声の主に気づいた時にはアリスの刻は止まっていた。
『こんにちはアリス。数日ぶりといった所かしら』
『はい、フィリア様……突然話しかけられるので驚きました。――それでこの状況、フィリア様は私にご用があるということでよろしいですか?』
『えぇ……でもそんなに畏まらなくていいわ。――今あなた暇してるでしょ?』
『助けれるものなら助けたいですけど、私たちでは足手まといですから』
目の前の戦闘はアリスの動体視力では時々追い付けない程高速で繰り広げられており、一度その輪の中に入ったら自分がどうなるかぐらい容易に想像できる。
『そうね。でも見ての通り結弦はこういった事が下手だから、あなたにも手伝って貰いたいの』
『私に何が出来るのでしょうか?』
『簡単よ。結弦から預かっている神札を出しなさい』
『神札? タロットカードのことですか?』
アリスはいつの間にか動きを再開した現実世界で
フィリアに言われた通り、ポケットにしまっていたタロットカードを取り出す。
『そう、それは神札と呼ばれる神器。この世にあるあらゆる物と『契約』を交わすことが出来る力を宿した神の契約書よ』
『そんな凄いカードだったのですか……』
『まぁ所持者の力量と私の加護によって契約できる範囲は制限されるから何でも出来るわけではないけど……まぁ今のあなたなら力量はともかく加護においては私そのものがついているからわりと何でも出来るわ』
『はぁ………』
『まぁ難しい事は結弦に言っておくとして、とりあえず今は『カップのA』を出しなさい。このカードは幸福と新たな関係を示していて、最も私の支配下にある一枚だから今回はこれを使うわ。――あなたはそれを頭上に掲げてこう唱えなさい……』
アリスは言われるがまま、カップのAが描かれたカードを持ち、力ある言葉を紡ぐ。
「――巡り巡りて回帰する、刻の円環を汲みし杯よ、我が呼びかけに応え顕現せよ『クロノリンク=A』」
アリスが詠唱を終了するとカードから暖かな光があふれ出した。
そして光は形を変え、美しい黄金色の羽を持つ鳥の姿へと変貌した。
「綺麗……」
「お初にお目にかかる、我が主よ。――してフィリア嬢、千年ぶりの顕現……これはそう言う事でいいのだな?」
『えぇ、少し早いけれどあなたを傍に置いておくことにしたわ』
「???」
『気にしなくていいわ。彼は朱雀神、私の眷属の一翼で、あなたの属性である『炎』を司る神鳥よ』
「以後、よしなに」
「えぇー!? ちょっとちょっとフィリア様! ご主人様のピンチにこんなことを言うのは憚れますが、敢えて言わせていただくといきなりそんな凄い鳥さんを寄こされても困まります!」
「かっかっか!! 我を『鳥さん』なんて言う大物は数千年ぶりじゃよ。――フィリア嬢、我はこの娘をとても気に入ったぞ。故に我は盟約に従い、これよりこの嬢ちゃんの守護を仰せつかろう」
『頼んだわよ』
「えぇー!」
フィリアと朱雀神の手のひらの上で踊らせられているアリスは終始みょうちくりんな表情をしていた。
そしてそんなアリスをひとしきり観賞したフィリアは、朱雀神とのつなぎ役を全うしたのを確認した後、二人を残して気配を絶つ。
「行っちゃった……え~と、なんだか凄いことになってしまいましたが、ひとまずはよろしくお願いします。――っといけない、私はアリスって言います。朱雀神さん……ん~ 呼びにくいのでスーちゃんでいいですか?」
「流石は我が主となる方、キモが据わっておるな……呼び方など好きにしてかまわん。――してアリス嬢、記念すべき我の初仕事はあの小娘と坊主どっちを屠ればよい?」
「屠っちゃダメです! 出来ればご主人様を助けてあげて欲しいんですが……でも狐さんも殺しちゃだめですよ!?」
「ふむ、難しい事を言いおる……が主の願いだ、最善を尽くそう」
攻撃目標が定まったところで、スーはアリスが背負っていた《(<)日廻の杖(炎珠)》の勾玉部分と融合した。
『我は加減が苦手だ。力は貸してやるから後はアリス嬢が制御するのだ』
「大丈夫でしょうか?」
「安心せい。我が付いておる」
「わかりました。――ご主人様! 伏せてください! ――原初の炎にして終焉への導き手、我が請うは審判の焔『クリムゾンブレス』」
アリスは目を閉じてスーと呼吸を同調させる。すると頭の中に自然と力ある詞が浮かび上がり、再び目を開ける頃にはこの部屋を焼き尽くす豪炎が視界いっぱいに広がっていた。
==Side Yuduru==
アリスの叫び声が聞こえた途端、身体の全身からおびただしい冷や汗が出た結弦は、反射的に地面へと伏せていた。
そして次に瞬きをした時には有象無象のごとく溢れかえっていた白音たちは灰燼へと帰していた。
「――この炎、もしかしなくても朱雀神なのじゃ!?」
「ふむ、どこぞの小娘と思ったら白音の嬢ちゃんじゃないか。――アリス嬢、次は焼き切ってしまって構わんか?」
「スーちゃん!? さっきも言いましたが焼いちゃダメですからね?」
アリスにスーちゃんと呼ばれる第三者の介入によって押され気味だった戦況は一気に逆転した。
《ステータス》
_____________________
名前:朱雀神 4394歳☿
レベル:340
ジョブ:神(眷属)
装備:無し
所持金:無し
スキル:飛行
再生
心眼
防御貫通
変化
魔法:クリムゾンブレス+8
エンシェントアロー+6
リザレクション+4
_____________________
頭の中に毎度お馴染みのステータス情報が流れてくる。
ほぉ……このバカ鳥、神の眷属という設定になっているな。まぁアリスがこんな鳥呼べる訳も無いし、大方フィリアが裏で手を回したのだろう。
「おい! ぬしよ、勝負は童の負けでいいからあの危険な鳥をなんとかせい!」
レベル的には俺の方が上なんだけどなぁ……まぁ数で勝負する白音に面制圧が得意な朱雀神とやらは苦手なのかもしれない。
「だそうだけど?」
「ふむ、人間……口の利き方は習わなかったのか?」
朱雀神は結弦の対応に不快感を表したのか、先ほどと同じ火球を一つ放ってきた。
「よっと! まったく、これは躾の甲斐があるな」
そう言うと結弦はアリスが持つ杖をひったくり、勾玉を地面に叩きつけ、渋々分離した朱雀神の首元に神剣を突き付ける。
「喧嘩はダメです! スーちゃん、この方は私のご主人様なんですから乱暴したらお仕置きですからね? 後ご主人様も何でも力でねじ伏せようとするのは良くありません!」
「うぬぬ(むむむ)」
お互い、自分よりも年下の女の子に至極当然のお説教をされ、反論出来ずに縮こまる。
「悪かった。――っで、悪かったついでに出来ればあそこで腰を抜かせている奴を見逃してやってくれないか?」
「うむ、我も少し大人げなかった。――相分かった、ご主人のご主人に免じてここは下がろう」
なんともめんどくさい奴を宛がわれたものだ。
まぁアリスになびいているみたいだし飼育はアリスに任せればいっか。
話が一段落したところで結弦はさっきと一転して怯え続ける白音の元へと歩み寄った。
「どうやら手打ちにしてくれるそうだぞ?」
「助かるのかや?」
「まぁ有体に言えば?」
「ありがとうなのじゃ!」
そう言うと白音は今までの怯えが嘘みたいに、結弦の元へと飛びついてきた。
「おいっ! ひっつくな」
「良いではないか。この超絶ぷりてぃな童が感謝しているのじゃぞ?」
「自分で言うな」
「そうです。ご主人様から離れてください!」
慌てたアリスが白音を結弦から引き離す。
「うむぅ……これではまだ足りぬと申すか。――よし! 命を救ってくれた礼じゃ、童も今日からそなたの僕になるぞ♪」
「うわっ!? また面倒なことを……」
「大いに喜べ人間。――あぁいや、結弦といったか」
「まったく……また余計なのが増えてしまった。――頼むから問題だけは起こすなよ?」
「心得た! ――では月並みじゃが童の事、末永く可愛がってくりゃれ?……ぬしさま♪」
「調子のいいやつめ」
そうして結弦たちのダンジョン探索は、加減の効かないなペットと気まぐれなロリ婆を仲間に加わえて幕を閉じた。
二章での追加キャラ枠です。二章ラストで用意するボスに向けての戦力枠で、ちょっと強めの一人と一羽を追加しました。




