2.8 宵の明星:邂逅
翌朝。
徹夜でジークの手記と戦っていた結弦は軽い寝不足を覚えながら、アリスたちと朝食を取っていた。――どれだけフィリアに身体が強化されていても、人間の三大欲求の一つである『睡眠』を無視することは出来ないらしい。
「ご主人様、大丈夫ですか? あまり顔色が優れないように見えますが……」
「あぁ、ちょっと昨日の本で夜更かしが過ぎた。――飯食って少し休めば良くなるはずだから気にしなくていい」
「そうですか……無理しちゃダメですからね?」
「ありがとう」
ジークが残した手記には、結弦の知らないこの世界の事柄がたくさん書いてあった。
それはこの大陸の主だった街や村、ダンジョンの位置が載った地図や日常生活に必要な衣食住に関する資料、魔物図鑑等、今後確実に必要になってくる情報ばかりだった。
♢
朝食を済ませ結弦の体力がある程度回復した後、結弦たち一行はダンジョン探索を再開した。
「そういえばこのダンジョン、定期的に構造が変わるとのことでしたがその本に載っている地図は役に立つのですか?」
「あぁそれなんだが、これによると内部構造は変わらないみたいなんだ。ただ、入り口の仕掛けによってダンジョンに入った時の初期位置がバラバラになってしまうらしく、今までの挑戦者はそこら辺を錯覚していたんだろう」
実際、モンスターハウスのポイント等は地図の場所と相違なく、今のところは迷ったりもしていない。
「そうだっんですか。まぁ規模もそこそこ大きいみたいですし、無理もないですね。――それでご主人様、今はどちらに向かっているのですか?」
「それなんだが、このドクロのマークが描いてあるところに行こうと思っている」
実は地図にはいくつかのマークが振ってあり、この手記を拾った部屋に宝箱、セーフティーゾーンに家、ダンジョンの出入り口と思われる所に扉のマークと大変ありがたい仕様をしている。
「――で、その大変ありがたい仕様にして貰っているのにどうしていかにも危険そうな場所へ?」
「まぁそれは……面白そうだから?」
「それ付き合わされる私たちのことを考慮していませんよね?」
「うーん……レン、ここ面白そうじゃないか?」
「ドクロさんなの~」
「ほら、レンも賛成してくれてる」
「はぁ……まぁいいですけど。依頼達成の為にはなるべく多くの情報を集める必要がありますし」
「あんま不貞腐れないでくれ。――なんかあったらちゃんと守ってやるから」
「絶対ですよ!?」
「はいはい」
などと軽口を言っているが本当にこのドクロマークはなんなのだろうか。――神器持ちのジークが付けた訳だから、それ相応の『何か』があるはずだが……
◇
そして、探索を開始してから三時間、結弦たちは目的のドクロマークが描かれている部屋の前に到達する。
「いかにも、ダンジョンの主が住んでそうな扉だな」
「そうですね。――とても禍禍しいオーラを感じます」
「まぁこの部屋の情報があれば今回の調査依頼、十二分に果たしたと言えるだろうし、パパっと済ませて旨い飯でも食べに行こうぜ」
「にくー!」
「あぁ、分かってるよ」
「なんで二人は緊張しないのでしょうか? 私がおかしいのでしょうか……」
「お前はちょっと真面目過ぎるんだよ。――っと無駄話はここら辺にして行くか。奴さんもお待ちみたいだし」
「えっ!?」
いつの間にか扉はゆっくりと開いていき、結弦が気を向けた先には一人の女性が座っていた。
「まったく。童はゆっくりとごろ寝していたいだけなのに、どうして人間はこうも邪魔をしにくる」
童女……それはドクロマークの部屋には似つかわしくないほど華奢な体躯を黒い和装で包み込み、服の黒よりも更に深く暗い色をした黒い髪を足元辺りまで垂らしていた。そしてレンと同じような獣耳を生やしており、見た目だけならレンと同い年くらいだろう。
「まぁ人間は好奇心の塊で出来ているからな。――んで、お前は魔族なのか?」
「なんとも迷惑な話じゃな。後、童を魔族などという凡百の輩と一括りにされるのは好かん」
「それは悪かった」
「わかれば良いのじゃ。童は『白音』、あやかし達を統べる偉大なる九尾の妖狐なのじゃ。――して人間、お主はかようなせん無き理由で童の住処を荒らした訳だが……お灸を据えられる覚悟はあるのかや?」
《ステータス》
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名前:白音 1462歳♀
レベル:150
ジョブ:魔王(妖狐)
装備:無し
所持金:無し
スキル:超加速
心眼
変化
詐欺
魔法:鬼火+7
分身+5
爆裂+4
蜃気楼+4
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自己紹介と共に彼女のステータスが交流欄に更新された。――それにしても見た目はレンと同じぐらいなのに随分と歳を取ってるな。後、ステータスの内容が凄まじい。
一応、今回の依頼はダンジョンの調査だから別にボスを倒さなくても良いのだけれど、怒ってらっしゃるみたいだし帰しては……くれないよな。
期待も虚しく白音は玉座から立ち上がり、今までは見えていなかったご立派な尻尾たちがユラユラと空を泳ぐ。
仕方ない……魔王狩りといきますか。
『あらあら、また勝手にやんちゃしちゃって……』
どこからかそんな声が囁かれる中、魔王『白音』との戦闘は幕を開けた。




