2.6 宵の明星:潜入
ロクシタン二日目。
昨日中に必要な仕事を片付けた結弦たち一行は、消費した貢献ポイントを稼ぐ為に冒険者ギルドへと足を運んでいた。
「せっかくですからシルバーランク向けの依頼を受けてみたいですね」
「そうだな」
結弦はアリスと二人で『あーでもない』『こーでもない』と探していると、他の依頼とは毛色が違う依頼を見つける。
「ご主人様、ここに面白そうな依頼がありますよ?」
「どれどれ……ほぉ、ダンジョンか。それも依頼書を見る感じかなり特殊な仕様みたいだ」
《依頼書》
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依頼名:『宵の明星の調査』
内容:ダンジョン「宵の明星」の内部調査
依頼者:グラジオラス王国生態研究室
ランク:シルバー以上
報酬:スィード金貨15枚、銀貨5枚
備考:ロクシタンの北西に日暮れの間だけ出
現すると言われる不思議なダンジョン
が存在する。このダンジョンは一定の
周期で内部構造が劇的に変化するとい
う厄介な特徴を持っている。我が生態
研究室では定期的に調査を行い、アル
ゴリズムの解明を目指しているのでぜ
ひ新たな発見を報告してほしい。
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「そうですね。前回潜った洞窟とはまた一風変わった仕掛けがありそうです」
「まぁ、腕試しも兼ねて行ってみるか」
「はい!」
宵の明星。
どういった仕掛けか分からないが、夕方限定の時間制限ダンジョンらしく、この時間を逃すと翌日まで入ることは出来ないらしい。まさに宵の名を冠している訳だが、中に入ってさえしまえば時間に縛られる必要は無いようでその点は親切だったりする。
♢
夕刻、結弦たちは依頼書に指定された場所でダンジョンが出現するのを今か今かと待ちわびていた。
辺りは木々で生い茂っている上に日が暮れかけている。――ちゃんとダンジョンの入り口が発見できるか少し心配だ。
「本当にここで合っているのか不安だ」
「まぁそろそろ時間ですし、注意していれば発見できると思いますよ」
「んみゃ!? ご主人様、アリス~ あそこなんか光ったの~」
空に浮かぶお日様がいい塩梅に傾いた時、レンが茂みの中に光る何かを発見した。――流石は野生児、頼りになることこの上ない。
結弦たちは光の元へ近づく。――すると、それは次第に大きくなり、手が触れそうな距離まで近づくと人一人が通れそうな亀裂になった。
「なるほど、確かにこれは宵の時間にしか見つけられないな。可視光線の内、短波長と長波長が一定のバランスに保たれた時だけ人の目で観測できるようになると言ったところか」
「可視光線?波長?」
「あぁ、太陽の確度によって光って見えなくなる色が出てくるんだ。――んで、コイツは長波長の赤い光が強くなると光を吸収して自ら発光する仕掛けみたいだ。ほら、光をずっと遮っているとどんどん消えてくだろ?」
「はぁ………私にはちょっと難しいお話です。――けど、見えなくなってしまうと困るのでさっさと入ってしまいましょう?」
「それもそうだな」
結弦たちは現れた亀裂の中へと足を踏み入れる。
内部は外から見た感じでは想像も出来ないほど広大な空間が待っていた。――それこそ空間魔法で拡張したかのような。
「凄いですね。まさかこれほどまでに大きいとは……これも光の波長というやつですか?」
「いや、これはそれだけじゃ無さそうだが……パッと見じゃ分からんな」
「そうですか。まぁ調査が名目ですし、奥へ進めば何か分かるかもしれませんね。行きましょう♪」
「あぁ……いや、ちょっと待て。依頼書に定期的な内部構造の変更と書いてある。これがどこまで当てになるか分からないがマッピングしながら行きたい」
結弦はメニューよりマップを呼び出し、目印としてこの位置にマーカーを記す。
「よし、OKだ。奥へ進もう」
「はい(あいなの~)」
結弦たちはダンジョンの奥へと歩みを進める。
しかし思った以上に広い空間だな。――見た目も大して変わらないし、気を抜くとすぐに迷子になりそうだ。
♢
ダンジョンを進むこと一時間。
道は蟻の巣のように下へ向けてどんどん枝分かれしており、一定の距離を進むと片側五十メートルは下らない巨大な部屋に連結していた。そして部屋の中には、このダンジョンで初めてお目見えする魔物が群れをなして押し込められていた。――さながらモンスターハウスと言ったところだろう。
「アリス、レン、この先にかなりの魔物がいる。二人共、準備はいいか?」
「大丈夫です(いけるの~)」
武器を構え、結弦たちはモンスターハウスへ突入する。
部屋の中にはゴブリン系統の小型モンスターがニ十体余りと全長五メートルを優に越していそうな食虫植物モドキが五体いた。
「アリス、あの奥にいる巨大な植物は魔物なのか?」
「はい、『ポイズンスプラウト』という中型の魔物です。名前にある通り、毒を含む攻撃が厄介な魔物です。――毒は攻撃範囲、即効性共に優れているので戦闘中は常に警戒しておいてください」
あの食虫植物、アレで中型という点には驚きを隠せないが、見た感じ俊敏性はそこまで高く無さそうなので気を付けていれば当たるということは無さそうだ。
「了解。――んじゃ腕試しスタートだ!」
結弦は意気揚々と魔物の群れへ駆けていく。
フォーメーションは俺が盾役として前線を築き、アリスが後方から火属性範囲魔法の『ファイアショット』で効率よく削る。そして、レンはアリスが打ち漏らした敵や面倒そうなポイズンスプラウトを確実に狩り取る。――どうせなら覚えたての中級魔法を使ってみようとも思ったが、アリスとレンの経験にならないのでここは二人に頑張ってもらう。
そして突入から五分、実にバランスの取れた役割分担によって、苦労することなく魔物の群れは掃討された。――なお、結弦はアリスとレンの二人が大方の敵を片付けてくれるので殆ど立っているだけだった。――二人のためと盾役に出たつもりなんだけど必要無かったな……
「片付きました……ご主人様、見てください。部屋の中央に地面から木箱が湧き出てきました。――どうなっているのでしょう?」
「さぁな。――内部構造が変わるという情報を加味するなら、このダンジョンが生きていてご褒美を出してくれたと考えるのが妥当か?」
「そうすると私たちはお腹の中に自ら飛び込んだご飯というわけですか。――考えるとゾッとします」
アリスがブルブルっと身震いする。
「冗談だ、深く考えなくていい。――ただこいつの内部調査が今回の依頼内容だから、ご飯だろうが罠だろうが一回は体験しないとな」
心の中でちょっと怯えているアリスも可愛いなと思いつつ、結弦は中央の木箱を開ける。
箱の中には鉄製のブーツや簡素な弓矢など、装備品がいくつか入っていた。――中身は正直しょぼいとしか言えないけど、罠がないだけまだマシか。
木箱の中身と魔物からドロップしたアイテムを道具欄に放り込んで結弦たちは次の部屋へと進む。




