2.4 行商人アリスと天翔けるレン
今日はパイルの村を発つ日。――なのだが、特に急ぎの用件がある訳でもないので、出発自体は朝飯を食べてからのゆったりとした行程を予定している。
現在、結弦たち三人は毎日のようにお世話になっている村の中央市場へ向かい、朝食を買い込んでいた。すると、アリスの視線が一つの屋台に注がれているのに気づく。
「そういえばご主人様、今回は交易品を買わなくても良かったのですか?」
アリスが指差す先には大量の鳥を卸す精肉店のような屋台であった。恐らくだが、昨日の補給時に行商用の交易品を買っていないのが気になっていたのだろう。
「あぁ。――金には困っていないし、そもそも今となっては無駄な隠れ蓑も必要ないからな」
元々、冒険者や行商人といったものは周りの連中に異世界人だとバレない為に始めた生業だったりする。
俺としては、レンはともかくアリスにはこちらの事情を全て話した手前、手間の掛かる行商人稼業を廃して冒険者一本に絞った方が良いと考えている。
「確かにご主人様はあまり商売というものに向いているとは思えませんので冒険者一筋というのも一つの手ではあるとは思います。ですがご主人様のお話を聞く限り、私たちはこれから色々な所へ訪れることになるでしょう。それこそ旅先でどのような出会いがあるかは分かりません。――なので、出来る事なら交友の輪は多く持っておくのが得策かと私は思います」
「そういうものか?」
「えぇ、細かいことは全て私に任せて下さって構いませんので……」
「わかった、行商に関してはアリスに一任する。――じゃあ早速で悪いが適当に交易品の調達を頼んでいいか?」
「わかりました。では、少しの間お暇させていただきます。――レンちゃん付いてきて♪」
結弦から仕事を任されたアリスは、レンを引き連れて朝の市場が醸し出す喧騒の中へと進んでいく。――レンを連れて行ったところからして、肉メインの調達をするのだろう。
♢
そして三十分ほど待つと、買い出しに出ていたアリスたちが戻ってきた。
彼女たちは宿に泊めていた荷馬車を駆り出し、市場で調達した灼熱鳥の塩漬け、干物、丸焼き、ミンチ等様々な種類の肉を積んでいた。量は大体ニ十キロほどで、アリスによるとスィード金貨八枚で購入したとのことだ。
「凄い量だな」
「えぇ、お店の人が気前よく値引きしてくれたのでたくさん買ってきちゃいました♪」
アリスが上機嫌に報告し、レンが隣でちっこい体を精一杯使って胸を張る。
なるほど。――確かに任せてというだけの事はある。
「良くやった。とりあえず鮮度を落としたくないから俺の道具欄にしまっておくぞ?」
「はい、お願いします」
アリスとレンの頭を優しくなでつつ、荷馬車を物陰に誘導し、購入した交易品を道具欄へと収納していく。
「さて、とりあえず買う物は買ったし、そろそろ村を出ようか」
「わかりました(わかったの~)」
街を出る準備を整えた結弦たちは、レンが操る場所に揺られながら再びロクシタンへ向かう。――距離もそれほど遠くないので明日の昼過ぎには到着できるだろう。
♢
パイルの村を出て三時間、三人でのんびりとした旅路を送っていると視界の端にロースターソルジャーが数体歩いているのが見えた。
「ご主人様、向こうに魔物が見えます。迂回しますか?」
「いや……レン、馬車を一端止めてくれ」
「あい。――ご主人様、狩ってもいい?」
「いいぞ。ただし、今回はアリスのステップを駆使するのが条件だ」
「はぁ……またご主人様は唐突に無茶を言いますね………」
アリスがジトっとした目を向けてくる。
ただ、その目に不安の色は無く、覚えたての魔法を試してみたいという好奇心が目の端からちらちらと滲み出ている。
「まぁそういうな。アリスがレンのサポートに回れば、レンは三次元的な攻撃を仕掛けられて戦況をより優位なものに持っていける。――っとまぁそんな理屈を抜いてもアリスはレンのお姉ちゃん役だ。――きっちりと妹分の面倒を見るのは姉の役目だろ?」
「わかりました。そこまで言うのでしたら頑張ってみます。――レンちゃん、私が魔物の周囲にいくつか足場を作るから上手く使って攻撃してみて」
「わかったの~」
「じゃあいくよ! ――大気の凝結よ、ここに在れ『ステップ』」
レンが武器を構え、アリスが魔物の近くに足場を作っていく。まだ結弦のように連続で多面展開することは出来ないが、息を整えつつ魔物の周囲に着々と足場を生成していく。
対して魔物側もアリスが行使した魔法を検知したのか、一斉にこちらへ敵意を向けてくる。――が、奇襲ということもあってレンの動きの方が一手も二手も先を行っていた。
魔物達が剣を片手に結弦たちに向けて突進を仕掛ける中、レンはアリスの作った足場を経由して魔物の直上に位置取る。そして、重力の助けを借りつつロースターソルジャーの一体に金重を振り下ろし、超重量級の一撃を敵に与えた。
レンの放った一撃は辺りに大量の粉塵をまき散らし、起こした衝撃波が周囲の敵ごと切り伏せる。――たたかだかレベル一桁代の敵に繰り出す技ではないが、ひとまずはアリスとの連携も含めて上場の出来と言えるだろう。
地上に降り立ったレンは持ち前の身体能力でバネのように跳躍し、別の足場へと移動する。そして空中戦の感覚を掴んだレンは、アリスの作る足場を華麗に飛び移り、敵のリーチ外からHit and Awayを繰り返す。
結果、無双の戦姫と化したレンはものの一分も経たずに全ての敵を屠っていた。
「よくやった」
「ありがとなの。上から見ると魔物さんたちの動きが良く見えたの~」
「ふむ、それは見てみたいな……今度は俺もやってみるか。――アリスも良くやってくれた」
「ありがとうございます。――所感ですが、新たな戦術としては十二分に使えそうです。中々に手ごたえを感じることが出来ましたし、もっと練習して詠唱間隔を短く出来るようにしてみせます♪」
「レンも頑張るの~」
「期待してるよ」
結弦は二人を労いつつ、戦闘の後始末を始める。
特にレアな敵でもないのでサクッと戦利品をチェックし、移動を再開する。
その後、一日ほどかけて結弦たちは、三者三様の思い出が収められている場所、『貿易街ロクシタン』へと辿り着いた。




