1.3 過去
結弦君の前世話です。
ちょっとグダっている部分もあるので流し読みでも構いません。(最後の方だけ目を通していただければ物語上支障はありません)
森を彷徨うこと半日、幾度となくニワトリタイプの魔物と出会い、倒していく。
そしてお腹が空いてきた結弦はふと思った。
――なんでこうなったんだろう……と。
♢
俺、大野結弦はどこにでもいる大学三年生だった。
特筆すべき事件も無く、比較的平凡な人生を二十一年ほど送ってきた。
今も来年の就職活動に備えて、平凡に会社のインターンシップへ向かう途中だったりする。
――今日の会社は東京か……面白そうな業種だとは思うけど、些か家から遠いのが難点かな。
電車に揺られながら、結弦は未来の自分を想像していた。
そして会社の最寄り駅に到着すると、予想以上の降客数に圧倒されコケてしまう。
「いたた、通勤ラッシュだしある程度の覚悟はしていたが、ここまで酷いとは……」
なんとか体勢を持ち直した結弦だったが、今度は自分の事で手一杯な周囲の人々によってズルズルと改札まで流される。
◇
やっとのことで改札を抜けた結弦は肉体的にも精神的にもかなり疲弊していた。――そして、不幸なことに結弦が身に付けていた腕時計の風防がひび割れていた。
「マジか………これ結構高かったんだけどな。――流石にこんな時計を付けていくわけにもいかないし、さっさと代わりの物を探すか」
結弦は代わりの時計を探すべく、街を走る。
しかし朝の早い時間帯ということもあり、空いているお店も無く、コンビニで玩具みたいなやつを買うしか結弦には選択肢が残されていなかった。
「どうしよう……時間の方もそろそろ余裕が無くなってきたし、最悪コンビニで済ませるか。――ん?」
諦めかけていた結弦は路地の裏に『なんでも屋』と書かれている看板を見つけた。
近づいてみると、どうやら骨董屋だったらしく朝から年老いたお爺さんが店を切り盛りしていた。
こちらに気づいた老人が話しかけてくる。
「ほぉ、こんな朝早くに珍しいお客さんじゃのぅ。――して、今日はどんな用向きじゃ?」
「え~と腕時計を探しているのですが……流石にそんなものは置いていないですよね?」
「う~む、確かに腕時計は取り扱っていないが……いや、ちょっと待っておれ…………あったあった。若人、これなんかどうじゃ?」
店主のお爺さんが奥から古びた箱を取り出してきた。
「いえ、自分は置物を探しているわけではないので」
「早合点するでない……ほれ、見てみぃ」
箱のふたを開けると中から金色に輝く一つの懐中時計が収まっていた。
作りはしっかりしていて人前に持っていくものとしては申し分無さそうだ。――ただ、ちょっと派手すぎるような気もする。
「若いものには中々ウケが良くなくてな、ワシらみたいなバブリー世代向けの一品じゃ」
お爺さんの言う世代がどこまでを包括しているかは分からないが、年配の方にはこういうのがウケるのか。
ふむ、下手に安物を買って陰で笑われるよりかは、こういうのでインパクトを与える方が勝ちな気がする。
「そうでしょうか? 自分には中々の代物に見えますが」
「ほぉほぉ、若いのに良い眼をしておるな。――よし、久しぶりの上客のようじゃ。特別に五千円で譲ってやろう」
元値が分からないが店主の言い方からして、かなりの値引きなのだろう。
「ありがとうございます。――では、お言葉に甘えて買わせていただきます」
店主に時計の代金を渡し、商品を受け取る。
『やっと出会えたわ、これでまた始められる』
???
頭の中に聞いたことのない声が響いた……気がする。
しかし、意識をいくら集中させても再び声を聞くことは出来なかった。――勘違いだったのだろうか?
「いけない! インターンまであと少しだ。――お爺さん、ありがとうございました!」
「毎度あり~ 大事に使うのじゃぞ?」
「はい!」
骨董店を後にした結弦は急いで会社に向けて走り出す。
そして息も絶え絶えになりつつ、会社まで信号あと一つというところまで駆けた俺は……事故にあった。
♢
結弦は記憶を手繰り寄せてみて、改めて自分が一度死んでいることを実感する。
「ってか、今思えば骨董屋で聞こえたあの声……どう考えてもアイツだよな?」
結局は自分が悪いのだが、何というか女神に導かれて死んだようにも思えてきて、どうにも釈然としない。
「はぁ………今更考えても仕方ないか。まずはこの鬱葱とした森から抜け出さないと。――ん? あそこに見えるのは道か?」
物思いに耽っていたおかげか、結弦は人の手によって整備された道を見つける。
「怪我の功名ってやつかな。――これを辿っていけば森を脱出できそうだ」
期待を胸に道を歩く。
そして二時間ほど歩いた末、結弦は街道へ踊り出ることに成功した。