2.1 昇進祝い
――刻む
――あなたが歩んだ軌跡を
――生きとし生けるすべての魂に
――深く昏く
――傷つける
♢
大野結弦は死を乗り越えて辿り着いた第二の世界で順調に冒険を進め、現在はシルバーランクの冒険者になった。
――まぁ順調といっても、どっかの暇神の手助け有りきの『順調』なわけで、普通の人間からすれば波乱万丈な物語と言えるだろう。
そんな異世界生活を順風に送っている結弦はというと、パイルの村にある冒険者ギルドを抜け、山岳鱈を売りさばいた市場の方に足を運んでいた。
「いやぁ、先ほどは凄かったですね」
「あぁ。小さな村の小さなギルドだからな……場所を移したとしても声が漏れてしまうのは致し方ないかもしれん」
結弦たちが市場の方に場所を移したのには二つの理由があった。
一つは冒険者ギルドで、二階級特進の話がギルドにいた他の冒険者の耳に入ってしまい、やっかみを受けたからだ。無駄な注目を避けたい結弦としては鬱陶しいことこの上なく、即座にギルドを離れる一番の理由だ。
「――でもこれで一足飛びにシルバーランクの冒険者になれましたのであの方から授かった武器等も堂々と帯刀することができますね」
「はぁ……そのくらいが唯一の特典と言えるか」
「まぁあまり邪険に思わないでください。それに今日くらいは『ぱぁっと』お祝いしましょう?」
そう、二つ目の理由は今しがたアリスが提案した昇格祝いの用意をする為であったりする。あまり祝い事に慣れていない結弦はこの手の事に無頓着なので細かい事はアリスに一任した。
「そうだったな。昨日は色々辛い時もあったし、今日くらいは目一杯羽目を外そうか」
「にーくー!」
「あぁ、今日は何でも買ってやるから遠慮しないで俺を引っ張っていけ」
「はい♪(あい!)」
次第に気分が復調してきた結弦たちは、和気あいあいと市場を巡り始める。
♢
「さて、まずは食いものから揃えよう。二人にはスィード金貨一枚ずつ渡すから手分けして好きな物を買ってきてくれ」
「よろしいのですか?」
「アリスには昨夜話したが俺自身、あいつからたんまり金は貰っているし、普段使いの金はアリスが管理しているんだ……問題ないだろう。――それに、どっかの誰かさんたちの食いっ気だけは向かう所敵なしだからな」
「あぅ~ 一言余計です」
「すまんすまん。まぁそんな訳だからこの金は自由に使ってくれて構わない」
「ありがとうございます(あい。に~く~へ突撃なの~)」
全速力で屋台に突撃するレンとそれを慌てて追いかけるお姉ちゃん気質なアリスを見送り、結弦も適度に買い物をする。
レンがいる手前、買ってくる食材はどうせ肉だらけになるだろうから、俺の方は野菜と穀物料理を中心に調達した。後、今まで二人に気を使って手を出していなかったのだが、露店で美味しそうな地酒を偶然見つけたので、それも少し買うことにした。
一時間後、両手に大量の肉を抱えるレンとそれを必死に支えるアリスと合流した。予想以上の量に結弦は呆れつつもこのままではまともに歩け無さそうなので、人目のない所へ移動し『料理?』を道具欄へ収納した。
ちなみに道具欄に収まっているアイテムは当時の状態を保持しているようで、料理だったら常に作り立てのものがいただけるという素敵オプションが付いていたりする。
「さて……これで食べ物は揃ったわけなのだが、これだけだと少し寂しいな。二人とも、せっかくの昇進祝いだ。――食べ物以外で何か欲しいものはないか?」
「そうですね~ 昨日の戦闘でレンちゃんのリュックが多少傷んでいましたので、新しい物を買ってあげていただけませんか?」
「にく以外じゃなきゃダメ?」
「そう言うつもりじゃなかったんだが、二人に聞いた俺が悪かった。ん~と、いつも頑張ってくれている二人に俺から何か贈り物をと思っていたんだ。――そうだな……とりあえず向こうの装飾品とかを扱っているエリアに行こうか。勿論途中でリュックが売っていたらそれも買おう」
「そうでしたか……あまり人から物を頂くことに慣れていないもので申し訳ありません。それとありがとうございますご主人様♪」
「ありがとうなの~」
今ひとつ自分の欲望に謙虚なアリスと肉への欲望しかないレンを連れて、結弦は思い出に残りそうなプレゼントを探し始めた。
♢
道中、様々なアクセサリーショップが軒に店を構えていたが、その中に装備品としてのアクセサリーを取り扱っている店が一軒だけあった。
「これなんてアリスに似合いそうだな。どう思う?」
「ご主人様のお気持ちはとても嬉しいのですが流石にこれは分不相応ではないかと……」
アリスは結弦が手にした簪をチラチラと見つつも、否定的な言葉を返す。
それは《叡智の花飾り+5》というこの地方によく咲く花の形をかたどった鉄製の簪で花びらの一片に雫を思わせる蒼く透き通った宝石が散らばっていた。
「そうか? レンはどう思う?」
「いいとおもうの~」
「じゃあこれで決まりだな。次にレンだが……このブレスレットなんてどうだ?」
「キラキラしてるの~ 欲しい~」
「了解。すみませーん、これとそれをください」
「あいよ。銀貨五十六枚だ」
露店のおっちゃんに装飾品の代金を渡し、商品を受け取る。
アリスには先ほどの《叡智の花飾り+5》を、レンには《岩壁の腕輪+4》という色見の付いた石を随所に配置してあるブレスレットを贈った。話には出さなかったが、どちらも装備時に魔法威力増強と防御力上昇のオプションが付いているものをチョイスしている。装備品でもある為、多少値段は張っているが無視した。
「ありがとうございます。この髪飾りも後生大事に使わせていただきます」
「ありがとうなのです~」
「結局実用的な物になってしまったけど喜んでくれてなによりだ。――さて、大分時間を使ってしまったしさっさと帰ってパーッとやろう!」
「はい♪(あい!)」
ささやかな贈り物を渡し、お腹を空かせて宿に帰った結弦たちは宿屋の主人から許可を取って、自室で盛大なパーティーを開いた。
♢
そして夜も更けて……
「もう食えねぇ」
「はい、私もこれ以上は苦しいです。――レンちゃんが未だに食べ続けているのが恐ろしいです」
「まだまだなの~」
レンが買い込んだ肉の大軍に結弦とアリスがノックダウンしている横で残飯処理の如く、テーブルの料理を片っ端から平らげている。――この中で一番小さな身なりをしているレンのどこにそれだけの量を収める胃袋があるのかいつもながら甚だ疑問だ。
結弦たちが食い倒れから回復するのに一時間ほど要し、三人で後片付けといつもの湯浴みを行い、就寝に向けての支度をした。
「アリス、レン、ちょっといいか? 明日からのことなんだが寝る前に少し話をしておきたい」
「わかりました(あい)」
「今回、パイルの村まで来て無事昇格を果たすことができた。とりあえず最低限の箔ってやつは取れたと思う。だからというわけではないが、今後の方針は本来の目的である『旅』を中心にしようと思う。まだこの国を全然見て回れていないからな」
「そうですね。――でしたら次は王都に行ってみませんか? 私も生まれてこの方、王都には足を踏み入れたことがありませんので色々と新しい発見があると思います」
「――それはいいな。王都までの道中はどのくらいになる?」
「大きな街単位ですと一端、ロクシタンに戻りましてそれからは『リベラル』、『ザイード』、『カストロール』を経由します。距離的には最短で三か月くらいの旅路となります」
「そうか……まぁ妥当な距離だろう。じゃあ明日はロクシタンへ戻るための準備日とする。――レンもそれでいいか?」
「あい……なのです」
王都か。――ゲームだとお馴染みの場所だし、せっかくなら行ってみたい。珍しいアイテムや魔導書も置いてあると尚良い。――今から楽しみだ。
明日からの新たな目的地に胸を弾ませつつ、結弦たちは川の字で眠りについた。




