1.22 フィリアとアリス
「せっかくいい気分だったのに台無しだな」
「まぁいいじゃない。あなたも私に会いたかったでしょ?」
「それはそうだが……」
「なら諦めて暇を持て余している私の相手をすることね」
言外に『先ほどの会話はバッチリ聞いていましたよ』とアピールをしてくるフィリアと夢の中で結弦は相対している。
場所は前回と同様に宿の客室で、結弦の手には風呂敷で包まれた菓子折りが握らされている。
「別にコレまで再現する必要はないんじゃないか?」
「まぁそこは気分よ♪」
結弦とフィリアは備え付けの椅子に座り、風呂敷の中に入っていた羊羹を食べながら会話を始めた。
「さて、始めに今回の魔将戦だが助けてくれてありがとう。アリスもレンも失わないで済んだのは全てフィリアが力を貸してくれたおかげだ」
「よくできました。そうね……中々に向こう見ずな内容だったけど誰も失わずに済んでよかったわね」
「あぁ、どうせ聞いていたとは思うけどアリスからも『ありがとうございました』と伝言だ」
「えぇ……でもせっかくなら本人から聞きたいわね。――ちょっと呼びましょうか」
「できるのか?」
「私を舐めないで欲しいわ。よっ! そ~れ♪」
なんとも間抜けな掛け声をフィリアが口ずさむ。――すると先ほどまで寝ていたベッドにアリスが出現した。
「ご主人様ダメですよぉ~ レンちゃんが見ているのにそんな過激なこと♪ あれ?」
一体どんな夢を見ていたのだろうか。さっきの充足感がどんどん崩れ落ちるな……
「あれ? いつものご主人様だ。さっきの野獣のような二枚目のご主人様はどこに?」
本当に一体どんな夢を見ていたんだろう。
「お楽しみのところ悪いけど、そろそろこちらに戻ってきてもよろしくて?」
「あぁそうでした。……はて? あなたはどちら様ですか? 誰かに似ているような気がするのですが」
「私はフィリア、フィリア・ミラ・クロノス。そこの甲斐性無しな結弦の保護者よ」
「こんなすぐに会えるとは……お話には聞いていましたが、本当にあのクロノス様なのでしょうか? 確かに面影は似ていますが些かお若すぎるような……」
「流石は結弦の愛人ね。不躾な所もそっくりだわ」
「まぁそう言うな。俺もロクシタンの街で見た時は三十近くに見えたからな。こんなロリ婆とは思わないだろう。――あと愛人ではなく仲間な」
「嘆かわしいことだわ。結弦にロリ婆と思われているなんて……」
「そっちかよ!? とは言えアリス、これが寝る前に話していたフィリアだ。お前がお礼を言いたがっているのを聞いてここに連れてきてもらった」
「え~と一応確認しておきますけど、話の流れから噂の夢の中というものですか?」
「そうだ。ここでの出来事は目を覚ましても覚えていられるぞ」
するとアリスは口をポカンと開けて固まり、少しの間を置いて自分の頭を床におもいっきり叩きつけた。さながらジャパニーズ土下座のように。
どうやら思考が行動に追い付いたようだ。
「クロノス様、先ほどは御身とは知らず大変失礼いたしました。それとご主人様、一生のお願いですので先ほどの痴態はお忘れになってください。――でないと私、起きたら死ぬしかありません!」
先ほどのというと野獣で二枚目な俺がアリスに過激な事をしているという妄想全開なシーンのことだろうか。――確かにアレは俺でも死にたくなる。そりゃあアリスがもう少し大人になったら実現したい夢ではあるが……
「あぁ、まぁなんだ……気にするな。アリスの気持ちが知れて俺としては嬉しい収穫だが、そういうのはもう少し大人になってからな」
「はい(ぷしゅー)」
アリスの顔が真っ赤に染まる。
「あらあら、可愛いわね。――良いコントも見れたし、さっきのは不問にするわ」
「ありがとうございます。それと遅くなってしまいましたが洞窟での一件、間接的ではありますが私たちの命を救っていただき誠にありがとうございました」
「どういたしまして。恩を感じてくれるならこれからも結弦のことを色々助けてあげてちょうだい。――さっきの妄想みたいにね♪」
再びアリスの顔が真っ赤に染まった――。夢の中だからかいつにも増して表情の変化が激しいな。
「もう! クロノス様までからかわないでください」
「『フィリア』よ……結弦はあなたを『家族』と認めたようだし私のこともフィリアと呼びなさい」
「恐れ多いです。――せめてフィリア様でお願いします」
「しょうがない子ね」
なんとか打ち解けれそうかな。アリスにはこちら側の事情を色々と話したばかりだから物怖じするかと思っていたけど杞憂のようだ。
「さて、場が和んだところでフィリア、今回会いに来た目的をそろそろ話してくれないか?」
「そうだったわね。一つは昼間渡した神剣について、二つ目はアリスの武器についての補足事項を伝えたかったの」
ふむ、なんだかんだ言いつつアリスをここに呼んだのは計算しての事だったということか。
「助かる」
「とは言え、あまり時間が無いから手短にいくわ。まず初めに神剣ね……昼間使って感じたと思うけど、あの剣の能力を使うと精神的に負荷がかかるわ」
「あぁ……使いすぎてぶっ倒れた」
「それは結弦の鍛錬が足りないだけなのだけれど……もう少し詳しく説明すると、あの転移は大きく捉えると空間魔法にカテゴライズされるもので使用時のイメージが重要になるわ」
「ということは魔法の鍛錬をしろと?」
「そういうこと。あなたの想像力が充実してくれば神剣の能力を使いこなせるはずよ」
なるほど結局のところは魔法のお勉強が重要なわけか。流石にあのままでは使い物にならないから次回までに訓練しておこう。
「次にアリス、あなたの使っている武器なのだけれど、先端についている勾玉は鍛えることが可能よ」
「えっ? それはどういう意味ですか?」
「この世界の武器は作成時にある一定の振れ幅で能力値が決定されるわ。これを後から変更することはできない……けど、あなたの杖に付いている(延珠)は魔物の魂の一部を封じ込めている生きたパーツなの」
「もしかしてさっきドロップした《ゴブリン大将の勾玉》もか?」
「えぇそうよ」
うわぁ~ なんか呪われそうで使いたくないな。
「まぁ使うかどうかは置いといて、あなたが今まで以上に大好きなご主人様と共にいたいなら延珠を鍛えることをお勧めするわ」
「はい!! でもフィリア様、鍛えるといってもどうすれば?」
「それはドワーフが持つ門外不出の秘術で可能よ」
今度は鍛冶担当として定番のドワーフか。――探すのだけで一苦労しそうだ。
「わかりました。色々と教えてくれてありがとうございました」
「いいのよ、これからも結弦のことをよろしくね♪」
「はい!」
そして、言いたいことをひとしきり喋ったフィリアは前と同じようベッドに突っ込み眠りにつく。
次第に夢の世界は白く靄が掛かっていき、結弦とアリスは現実世界に帰還する。
――いつも通りフィリアに振り回されている気もするが今回も色々と収穫があったな。
♢
「おはようございます、ご主人様」
「あぁ、おはよう」
「なんだか不思議な気分ですね」
「確かにな。身体の調子はどうだ?」
「現実に夢とずっと意識はあったのですが不思議と疲れは取れています」
「それは良かった。もうすこししたらレンを起こしてギルドへ行こう」
「わかりました」
夢から覚めた結弦とアリスはたった数時間の間に起きた様々な出来事を反芻しながら朝の支度を整えるのであった。




