1.21 帰還
「んむぅ?」
「気づきましたか?」
先の戦闘で莫大な精神力を神剣に吸われた結弦は勝利と共に意識を失っていた。
どうやら起きるまでアリスに膝枕をしてもらっていたらしい。――生まれて初めてしてもらったが想像以上に柔らかい。女の子の身体ってことか。
「急に倒れちゃうんで心配しました。お身体の方は大丈夫でしょうか?」
「あぁ、若干頭が痛いがこのくらいなら活動できる」
結弦は頭をアリスの膝の上に置いたまま自分の容態を確かめる。
元々ゴブリン大将の攻撃はレベル差もあって、結弦にとっては痛くも痒くもない。どちらかと言うと神剣による消耗の方が響いている。
まぁ、帰るくらいは何とかなるだろう。
「アリス、起きるまで看ててくれてありがとう。―そういえばレンはどうした?」
「いえ、目が覚めてよかったです。――レンちゃんはご主人様が眠っている間の襲撃に備えて、周辺警戒をしてもらっています」
「そうか……迷惑をかけたな」
「そんなこと言わないでください。私たちが足を引っ張ったばかりにご主人様が無理をする羽目になったのです。謝るのは私たちの方です」
「いや、今回は俺が敵の戦力を見誤っていた。本当ならゴブリン大将が出てきた時点で引くべきだった」
レベル『70』と聞いて思ったより弱いなと油断していた。まさか二人をここまで危ない目に晒すことになるとは……
「それについてはご主人様といえども帰ってからお説教です。突然、一人で魔将に向かって行って……私がどれだけ心配したかをきっちり分かってもらう必要があります! ほかにも色々聞かなくてはいけない事だらけですし、覚悟してくださいね♪」
「まぁ……そのなんだ、お手柔らかに頼む」
アリスは笑っているが、これは言われた通り覚悟しておかないといけなそうだ。魔将以上に手ごわそうだ。
その後、アリスの膝枕をひとしきり堪能した結弦は、歩哨をしてくれていたレンと合流し、洞窟の出口へ向かう。
「もう少しで森へ抜けます。レンちゃん、最後まで気を引き締めてね」
「あい……あとすこしなの」
「結局最後は俺がお荷物になってしまったな。不甲斐ないことこの上ないがよろしく頼む」
「はい(あい)」
二人に手を借り、結弦は洞窟を出る。
そして肩を借りながらなんとかゆっくりとパイルの村へと歩いていく。
♢
五時間後。
結弦たちは満身創痍な状態で村に帰ってきた。当然辺りは暗く、村人たちは寝静まった後だった。
「なんとか帰ってこれた。細かい処理は明日に回すとして早いところ宿のベッドで横になろう」
「はい(あい)」
宿で寝ている人達を起こさないようにそっと客室へ移動する。
結弦は部屋に入るなりベッドへ直行する。……が、胸元にダイブしてきたアリスによって即就寝とはいかなかった。
ちなみにレンは結弦の背中に張り付いて、十秒も経たずに寝息を立てていた。
「ご主人様、そう簡単に眠れるとは思わないでくださいね♪」
「アリスさん……もしかしなくてもまだ怒ってます?」
「い~え、ここに帰ってくるまでに頭は冷えました。どちらかと言うと今は悲しい気持ちでいっぱいです。以前の空間魔法の件もそうですけど、私はまだご主人様の信用は頂けませんか?」
そう言ってアリスは結弦の胸板に頭を擦り付ける。
顔は良く見えないが涙によってシャツが濡れているのはわかった。
ここらが潮時かな。アリスが大人なばかりに俺は随分と甘えてきた。――結果、アリスは俺の知らない所で不安に思い、現に俺の胸で泣いている。
「隠し事ばかりですまん。アリスはこの世界で出来た初めての仲間で家族だ。当然、一番信頼しているし大事に思っている。――そうだな、今から話すことはかなり突拍子もないけど、それでも聞いてくれるか?」
「――はい」
目が赤く腫れつつも神妙な面持ちになったアリスに今まで隠していた真実を打ち明ける。
――違う世界から来たこと。それはフィリアによって行使され、ステータスや所持品はチート級に設定されていること。最後に洞窟内でのゴブリン大将はフィリアの助けによって倒せたこと――
「確かにどれも突拍子もないことですね」
「信じにくいかもしれないが……」
「いえ、ご主人様のことですから全部本当なのでしょう。――ただ、今までの力技が全てクロノス様によるものだとは露にも思っていませんでした」
「正直、今回の昇格依頼は誰一人欠けることなく帰れたのは、土壇場でフィリアが手を貸してくれたからだ。今度会ったら菓子折り持ってお礼に行かないといけない」
「会えるのですか?」
「夢に出てくることがある。向こうは暇で暇で仕方ないみたいだし相手して欲しいんだろう」
「はぁ、神様の相手って……でも会えるのであれば『ありがとうございました』と私の分も伝えておいてください」
「わかった」
「ご主人様、今日は大事なことを話してくれてありがとうございました」
「あぁ、これでアリスの信用に足りればいいのだが……」
「もう! さっきのことまだ根に持ってます? わかりました。それでしたら私の事も洗いざらい話しますから!」
「ほどほどにな」
その後、アリスと日付が変わるまでお互いのことを語り合った。
終わる頃には結弦が今まで感じていた心の壁は取り払われ、アリスは名実ともに結弦の仲間となった。
――こんなことなら早く話しておけばよかったな。
結弦は自分の腕を枕にして気持ち良さそうに眠るアリスを見ながら重いまぶたを閉じる。
そして空気を読めない暇神は、確かな充足感と共に眠った結弦を無視して舞い降りる。




