1.19 筆頭ゴブリン
レンの活躍もあって順調に洞窟攻略を進める結弦たちは、依頼対象の筆頭ゴブリンに出会うことなく洞窟の最下層へ到達していた。
「あれ? 最深部まで来ちゃったけど筆頭ゴブリンとやらはいないのか? もしかして気づかないうちに倒しちゃったとか?」
「いえ、それはないかと。もしかしたらこの洞窟では筆頭ゴブリンがいなかったのかもしれません。この付近にはまだ根城となる洞窟はいくつかありますので……」
「となるとここはハズレか……また潜り直すとなると今日は野宿確定だぞ?」
「そうですね、ちょっと見込みが甘かったです」
「マジか……」
結弦とアリス二人でどうしたものかと相談をしていると、突然レンが刀を構える。
「レン? どうした?」
「ご主人様、アリス! くるの!」
レンが警告した瞬間、いきなり足元が揺れ出し、通路奥から二体の魔物が出現した。
「ご主人様、あれを見てください筆頭ゴブリンですよ。それと……えっ? なんでこんな所にいるの?」
「アリス、急にどうした?」
アリスは依頼書にあった筆頭ゴブリンと思わしきゴブリンに安物の鎧を着せたいかにもな魔物の横にいる存在を見て絶句していた。
見た目は筆頭ゴブリンより一回り大きいが奴と違ってボロボロの布切れを纏っているだけだ。とてもアリスが絶句するほどの強敵には見えない。
筆頭ゴブリンの亜種とかだろうか? そもそも魔物に亜種はいるのだろうか……
「ご主人様、私とレンちゃんで退路を確保します。ですので脇目も振らずにお逃げください。あれはこの世界でゴブリンを大量発生させている親玉の『ゴブリン大将』です。魔将に分類され、恐らくレベルは『70』以上かと思われます」
ふむふむ、あれが魔将なのか。能ある鷹は爪を隠すというけど……よっぽど筆頭ゴブリンの方が強そうだ。――っといけないな、アリスの話が本当なら二人に相手をさせるわけにはいかない。
今日はレンに良い所を取られてばっかりだし、せっかくのボスイベントだ……ご主人様としての威厳のためにも格好良く倒してやろうか!
「アリス、レン、筆頭の方は任せる。俺は大将をやる」
「ちょっ……ご主人様ダメです! 死んじゃいますよ!」
「ん、任せたのー」
「レンちゃんもそんなバカなこと言ってないでご主人様を止めなさい!」
「え? でもご主人様は多分あの二体よりも強いの~」
「えっ?」
どうやらレンは気づいているようだ……野生の勘かね。
まぁレベルが『777』もあるんだ。たかだか『70』ぐらい痛くも痒くもないはずだ。
完全に女神のチート頼りだが、相手が悪いということでゴブリン大将には大人しく魔界に帰ってもらおう。
俺はゴブリン大将に向けて全力で走りだし、すれ違いざまに一太刀浴びせて走り去る。
戦闘においては空気が読めるレンがこの合間を縫って筆頭ゴブリンを自分たちに引き寄せる。
「よし、これで一対一だ」
「愚か者めが」
「うわっ!? 喋れるのか」
「異界から来たワシをそこらの魔物と一緒にするでない」
どうやら魔将クラスとは意思の疎通が可能らしい。
「話が通じるなら穏便に済ませられるか?」
「先にワシの城を荒らしたのは貴様だろう。生きて帰りたいのならワシを楽しませてみせい!」
どうやら中々にお冠のようだ。
結弦は仕方なくゴブリン大将と切り結ぶ。――が、これが中々の手練れだった。
俺の方は予想通り攻撃を受けても痛くなかった。しっかりとレベル差が反映されている証拠だろう。
しかし、俺の攻撃も相手に当たってはくれない。こちらは戦闘センスによる差が大きく影響してしまっているのだろう。
多分ウチのパーティーでゴブリン大将に攻撃を届かせられるのはレンだけかもしれない。――いくら痛くないとはいえ、なんとかしないとそのうちジリ貧だ。
しばらく一進一退の状況が続く。
そして、結弦が手をこまねいている間にアリス達が相手をしている筆頭ゴブリンの方で動きがあった。
「やぁっ…この! ちょこまかと!」
「アリス、ムキになったら危ないの」
「えっ!?」
ひらひらと攻撃を躱す筆頭ゴブリンに業を煮やしたアリスがムキになって突撃した。しかし、感情に身を任せた隙だらけの攻撃は筆頭ゴブリンにとってチャンスでしかなく、上手い具合にカウンターを合わせられる。
「キャッ!! ――ゲホッ…ゲホッ…」
アリスが鳩尾に強烈なフックを食らう。
まずい、予想外に向こうの二人が押されている。
アリスを庇いながらレン一人で捌き切れる相手ではない……このままだと危険だ。
「――ヤバいの」
レンが戦況を不利と判断して俺の方へ助け求めてくる。
しかし、こちらの戦力が半減しようと魔物が手を抜いてくれるわけもなく、一気に攻勢へと転じた筆頭ゴブリンがレンに襲い掛かる。
「くそっ! このままだとレンが危ない」
『そうやってすぐに調子に乗るから痛い目にあうのよ』
「!?」
その時、結弦の脳内に神の警鐘が鳴り響いた。それは今まで出る機会を伺っていたのかと思うほど見事なタイミングで、結弦の心を弄ぶかのような甘美な声で語りかけてくる。
『どうやらお困りのようね』
……と。




