1.18 ゴブリン戦
翌朝、筆頭ゴブリン討伐の為に早起きした結弦は本日一つ目の試練と向き合っていた。
そう、アリスとレンを布団から引っぺがすことだ。
二人共朝は苦手で、寝ぼけながらの抵抗は中々に強敵だ。――さながら学校へ行けと叩き起こす母親になった気分である。
格闘すること十分、何とか彼女たちを起こす事に成功した結弦は、二人を両脇に抱えて村を出る。
「ご主人様、もう大丈夫ですので下ろしてください」
「あぁ、レンも歩けるか?」
「あい……ありがとなの~」
意識がハッキリとした二人を地面に下ろす。
今回の強行軍はゴブリンが生息している洞窟が予想以上に距離があり、本日中に帰還するには早めに出発する必要があったからだ。
「お見苦しいところを申し訳ありませんでした」
「いいよ、朝弱いのは知っているから。それよりアリス、ゴブリン達が生息している洞窟は徒歩だと後どのくらいになる?」
「そうですね、森のかなり深い所みたいなので……あと五時間少々といったところでしょうか」
「そうか。帰りのことを考えると、あまり余裕はなさそうだな」
洞窟まで五時間となると、着くのは昼ぐらいかな。帰るのに同じ時間が掛かるとすると六時間以内に片付けないといけない。
三人は移動速度を上げ、目的の洞窟へ急ぐ。
♢
昼前、結弦たちは急いだ甲斐もあって、予定より一時間ほど早く到着した。
「想像以上に暗いな」
地図に記載されていた洞窟の内部は暗く、数メートル先を視認することすら怪しい。――それこそ受付で貰った発光石が無ければ戦闘どころじゃない。
「アリス、受付嬢から貰った発光石の使い方は分かるか?」
「周囲の壁などの固い所に強く打ち付けてください」
「わかった……おっ、光った光った。――かなり明るいな。発光石はまだ余っているしこれなら一人一個は身に着けておこうか」
「はい(あい)」
発光石は一つでも相当な光源として機能し、三人合わせればそこいらの蛍光灯より明るい光が俺らを照らしてくれた。
ただ、困ったことに元々暗かった洞窟でこれだけ明るい光を発生させると、中に居る敵の注意を一身に引き受けてしまった。
光に引き寄せられて大量のゴブリンが現れる。入り口付近にも関わらず、ざっと四十以上はいる。
「おいおい、ちょっとこれは多すぎじゃないか?」
「どうしましょう。ここまで集まられると私達だけでは倒しきれません」
「しょうがない……アリス、聖槍を使ってくれ。レンには時間を稼いで欲しい」
「わかりました(やるのでーす!)」
なるべく自分の力量で強くなったと感じてもらいたいところだが、正直これは手に余る。
ここは慈悲深いフィリア様の力を借りることにした。
道具欄より三人分の武器を取り出す。
アリスには前回使わせた聖槍『ロンギヌス+10』を、レンには一番近い武器種の打刀『無銘 金重+10』と『村正 妙法蓮華経+10』を用意した。
俺は特に拘りはないのでいつも使っている『フラガラッハ+10』を出す。
用意した武器を手早くアリスに渡す。
「レンと壁役を代わってくれ」
「わかりました。――レンちゃん、私と交代です」
「あい~」
アリスに戦線を維持してもらい、空いた隙でレンに刀を渡す。
「レン、悪いがいつも使っている短剣に合うサイズの剣がなかった。少し長いかもしれないが、いけるか?」
「大丈夫なの……長いけど思っていたより軽いしこれくらいなら二刀でもいけるのー」
レンは新しい武器を軽々と振り回して使い心地を確認する。いつも使っている武器と大して動きは変わらないようだし言葉通りいけるだろう。
レンは新しい武器を装備して前衛を交代する。
刀の能力なのか見えない剣筋が敵を無差別に切り刻む。――それは彼女の間合いに入ったものを一秒たりとも残しておかない鬼神ぶりだった。
すごいな、元々レンの戦闘センスはかなり冴えているのだが、チート武器を持つともはや人間離れしている。――獣だけど。
「感心している場合ではないか。ご主人様なんだし少しは働かないとな……」
レンの動きを邪魔しないように、アリスと一緒に後ろからフォローする。
あんまりカッコ良く無いかもしれないが、それぞれ適材適所の仕事がある。――そう、適材適所だ。
そんな負け犬じみた考えに浸る結弦そっちのけで、レンは魔物の大群を容赦なく切り落とす。
最初は絶望的な戦力差だったのが、十分経たずに掃討戦へ変貌する。
「これで最後なの!」
レンが最後の一体を倒す。
「終わったな」
「なんとかしのぎ切ることが出来ましたね」
「あぁ、二人ともよくやってくれた」
「にくー!」
「活躍しようが結局はそれなんだな。まぁ無事に帰ったら好きなだけ食え!」
「おー! にーくー!」
「こら! レンちゃん、またゴブリン達が襲ってくるかもしれないんだからあまり大声を出さないこと」
「むぅ…わかったの」
まぁ今の戦闘でかなりの数を削れただろうから、しばらくは襲ってこないだろうけど。
その後、大きな戦闘は起きず、結弦たちは洞窟の最深部に辿り着いた。




