1.15 試験
「――という訳で今日からもう一人、面倒をおかけします」
「そりゃ構いやしないが、あんたもお人好しさね~」
「まぁ成り行きとは言え、見過ごせなかったので……」
宿屋『奏玉亭』を経営するマーテルに宿泊客を記した台帳にレンを追加してもらう。
結弦はレンの食事代として銀貨二枚をマーテルに支払う。
宿泊代は泊る部屋数で決まるので、こちらは据え置きだ。――まぁベッドが更にせまくなるが、役得ということにしよう。
客室へ移動し、先ほど購入した商品を仕分けていく。
せっかくだしレンにも道具欄の話をしておくか。
「レン、ちょっといいか? アリスも聞いてくれ」
「はい(あい)」
「アリスには昼間見せたが、俺はアイテムを亜空間……ここではない別の場所で保管することができる。だから二人共、取り分け緊急性の低い物は俺が預かるから渡してくれ」
「わかりました。少々お待ちください」
「わかったの~」
二人から予備の服や戦闘時に使用しないアイテムを受け取り、道具欄へ収納する。
アリスは相変わらず不思議そうに見ており、レンに至っては無邪気に興奮していた。
「ご主人様、物を保管できる上限はないのでしょうか?」
「どうだろう? まだそれほど使ってないから分からないが……当面は大丈夫だろう」
「それはそれは……便利ですね。――今後都市間を移動する際に、その力を使って行商を始めてもいいかもしれません」
ふむ、流石はアリスといったところか。すぐに有効な使い方を考えてくれる。
この街を出るときには是非挑戦してみよう。
「それはいいな。――ただ、冒険者の俺が商売を始めても問題ないのか?」
「はい。数はそこまでいませんがお小遣い稼ぎにやられている方も多少はいますので、問題ないかと」
「なるほど」
「ただ仕事をする以上、商人または商工ギルドに登録しておいた方が何かと便利かと思われます」
「またギルドか。――それについてはこの街を出る時までに考えておくよ」
「かしこまりました。さて、ご主人様のおかげで荷物の整理も粗方終わりましたし、下に降りて夕食を頂きましょうか」
「そうだな(にくー!)」
「お肉が出るかは分からないけど、量はたくさんあるから楽しみにしててね♪」
相変わらず『肉』『肉』言っているレンと食いしん坊モードに突入しつつあるアリスを連れて、一階のラウンジへ向かう。
♢
結弦とレンは席に着き、アリスが配膳してくれるのを今か今かと待つ。
ちなみにレンは隣でよだれをダラダラ垂らしており、アリスが席に着くまで待てるのかとても心配だ。
「じゃあ食べましょうか」
「あぁ、いただきます」
「いただきますなのー」
なんとか地獄の待ち時間(レン談)を乗りきった三人はマーテルを含めて夕食にありつく。
今日の夕食は、特大豚という名前通りの大きな豚を使ったステーキに耳目鶏のから揚げと山菜の盛り合わせとレンの希望に添えていた。
「ご主人様、食欲がないのでしょうか?」
「あぁいや、ちょっと今日は肉ばかりで胸焼け気味でな」
「それならレンが食べるのー!」
「おっ、おう。俺はもういいから後は全部食べてくれ」
「あーい!」
「ご主人様、食べないと元気がでませんよ?」
「そこはほら、二人の楽しそうな顔を見て補うから」
「もう……ご主人様ったら………」
にへらーっと気持ち悪い笑みを浮かべるアリスを適当にあしらいつつ、レンに自分の料理皿を渡す。
料理を受け取ったレンは、出会った時と同様にものの五分で平らげてしまう。――誰よりもちびっ子なんだけどな……どこに入るのやら。
♢
食事を終えた結弦たちは昨日と同じルートを辿り、三人で仲良く湯浴みをする。
子細は省くが新たに参戦したレンよって、昨日以上にエキサイトする結弦だった。――更に強くなった誘惑に耐えきった俺を誉めてほしい。
そして最後は三人で一つのベッドを使い、就寝する。
なんだかんだと内容の濃い一日は終わった。また、夢の中でフィリアと会うこともなく、穏やかな翌日が結弦を迎える。
♢
「今日は昨日のごたごたで報告出来なかった依頼を完遂させる。それと装備屋で注文していた防具がそろそろ出来ているだろうから、帰りに受け取ろうと思う。ついでにレンの武器も整えておこうか」
「はい(あい)」
途中、昨日の朝に寄った定食屋でご飯を食べて、結弦たちは冒険者ギルドへ向かう。
今日はレンがいるので、程よい量でお腹を満たすことができた。
♢
受付の人から定型通りの言葉と報酬を受け取る。
結局飢えたレンに余剰分の《ラビットラットの肉》を全て食べられてしまったので額面どおりの金額だ。
その後、受付に肉を渡す時からずっとよだれが滝のように流れているレンを引っ張り、ギルド内の談笑スペースへ移動する。勘違いしないで欲しいがレンはしっかり朝から肉三昧な食事を二人前は食べている……ハズなんだがどうなっているのだろうか。
《冒険者カード》
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名前:ユヅル 21歳♂
レベル:12
ランク:アイアン
ランクポイント:105(次のランクまで0)
現在の依頼受注数:0
依頼達成数:2
貢献ポイント:280
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結弦は談笑スペースで更新された冒険者カードを確認する。今回は次ランクに必要なポイントを貯めきることが目標だったので、到達していることに一安心すると同時にランクがアイアンのままだと気づく。
「あれ? ランクって自動的に上がらないのか?」
「申し訳ありません、私もそこまでは存じていません。ですが、恐らく試験のようなものがあるのではないでしょうか?」
「ふむ、とりあえず受付に聞いてみようか。ちょっとここで待っていてくれ」
再度、受付の元へ向かう。
「すみません。少々よろしいでしょうか?」
「はい。どうされましたか?」
「先ほど冒険者カードを確認したら次のランクに必要なポイントが溜まっていたのですが、昇格はされないのでしょうか?」
「そういえば昇格についての説明はしていませんでしたね。ランクを上げるにはポイントを貯める以外にもう一つ越えなくてはいけない関門があります」
どうやらアリスの考え通りで試験的なものがあるらしい。
話を聞くと、ブロンズランクになるためにはギルドが依頼する専用の昇格依頼という物をクリアする必要があるらしい。
これは次のランクに上がることで受けれる依頼とその危険性が増えるので、それに足りうる冒険者かを見定めるためらしい」
「なるほど。――それで、その依頼はすぐに受けられるのでしょうか?」
「申し訳ありません。当ギルドではブロンズ昇格用の依頼はご用意しておりません」
昇格依頼は街の規模に比例しているらしく、この街ではシルバーとゴールドへの昇格依頼しか無いとのことだ。
「ブロンズへの昇格依頼でしたらここから西へ十キロほど行ったところにある小さな農村に備え付けてある冒険者ギルドで受注することが可能です。内容については秘匿事項なのでご自身で行ったときに確かめてください。――ただ、余裕を持ってレベル15以上は確保しておくとよろしいかと思います」
「わかりました。何から何までありがとうございます。とりあえずはもう少しこの街でアイアンランクの依頼をこなしてパーティーのレベルを上げてから受けようと思います」
「それが良いですね」
アリス達の元へ戻り、教えてもらった事を伝える。二人とも俺の意向に従ってくれるようでしばらくはレベル上げに専念することになった。
ギルドを去った俺たちは当初の予定をこなすべく、装備屋に向かい、防具の受け取りとレンの装備を整える。
ちなみにレンの武器は当人の希望もあり《疾風のダガー+3》《水流のダガー+2》の二刀となった。
元々、部族内での狩りには二刀流で戦っていたらしい。
装備の購入を終えた俺たちはまだ昼前ではあったが宿に戻り、久々にゆったりとした一日を過ごした。




