1.12 初めての仕事
「そういえばアリス、ローラッドっていうのはどんな魔物だ?」
行商路に向かう途中でアリスに今から討伐する魔物の情報を聞いてみる。
「そうですね、基本的には農村などで作物を食い荒らす害獣に近い魔物です。加えてこの時期になると繁殖の為、巣穴を至る所に作ります。――依頼書に書いてある穴というのは恐らくこれのことでしょう。戦闘力はほとんど無いのですが、繁殖力が非常に強く、一度に遭遇する数は依頼書以上になる可能性が高いです」
「まぁ聞く分には多少数が多くても問題ないだろう。――さっさと片付けてうまい飯でも食べに行こうな」
「はい!」
その後、何気ない話をしつつ歩くこと三十分、目的の生息地に到着する。
戦闘に備えて武器を構えると、どこからか魔物がポツポツと集まってきた。
やはり魔物は俺らの敵意を感じ取れるみたいだ。数は……三匹か。――意気込んで来た割には少ないな。
「アリス、最初は昨日買った武器のテストをしたい。――あいつらを二つに分断してくれ」
「わかりました。先制で一発撃ちます! 焔の輝きよ、煌めけ『ファイアショット』」
アリスが呪文を詠唱すると彼女の周囲に小さな火の粉が現れ、魔物に向かって飛んでいく。
ローラッドたちの一部に火の粉が降りかかる。攻撃を受けて軽い火傷を負った魔物は、術者であるアリスに狙いを定め、突進する。
見た感じ、ファイアショットは炎の散弾で複数の敵を攻撃できる魔法のようだ。――二グループに分断するため、一部の敵のみに当たるよう威力を調整してくれている。
奴隷に落ちてから結構経つとのことだが、その間のブランクなんかを気にする必要は無さそうだ。
「……っといつまでも見てないで俺もサクッと片付けてくるか」
結弦は水流の剣を握り直し、分断されたもう片方のグループへ駆ける。
敵の動きは鈍く、この世界で幾度とニワトリモドキと戦った結弦には敵の動きは手に取るように分かった。――わざわざ攻撃を待ってやる義理もないので、魔物が攻撃モーションへ移る前に切りかかる。
結弦が放つ斬撃が魔物を切り裂く寸前、剣先が淡い光を放ち、錆びた剣とは比べ物にならない切れ味で魔物を両断した。
「これが水属性の追加効果か。――見た目以上の切れ味を提供してくれるといったところかな。投げ売り品にしては悪くない」
思ったより使えた武器の感想を述べつつ、手早く残りの魔物を片付け、もう一グループを引き付けてくれていたアリスの救援に向かう。
その間アリスはというと魔物と着かず離れずの鬼ごっこをしていた。――彼女は生粋の魔法職のようで、追いかけられながらだと呪文が唱えられないみたいだ。その為、怒り狂った魔物達を相手に逃げの一手に徹していた。
――もう少し考えるべきだったか。悪い事をしてしまったな。
結弦はアリスの応援に駆け付け、横合いから魔物を一刀に切り伏せる。
「お疲れ様……初っ端から大変な役割を押し付けて悪かった」
「いえ、無事に倒せて何よりです……」
アリスの足腰はがくがくと震えている。
かなり来ているみたいだ。――あまり運動神経は良く無さそうだし、次からは俺が壁役になって敵を全て引き付けてあげよう。
『ローラッドの群れを倒した。』
『経験値と《ローラッドの皮》×2を獲得した』
結弦が戦闘の分析をしていると、瞼の裏には毎度お馴染みのログが流れた。
「ドロップは《ローラッドの皮》か。――これは金になるのだろうか?」
「はい、ローラッドの皮は耐久性に優れているので防具やリュックの下地材として使われることがあります」
「ふむ、それなら街に帰った時に換金しよう」
「それがいいですね……あっ!? ご主人様、どうやら今の戦いで近くにいた魔物達を刺激してしまったようです。こっちに沢山来ます!」
アリスが指を差している方を見ると、ローラッドが十匹以上の群れをなして突撃してくるのが見えた。
これがここらにいる敵の全てかな。――せっかくだしアレを試してみようか。
「アリス、少し後ろで休んでてくれ。ちょっとした実験をする」
「はい?」
アリスを下がらせ、メニューの魔法欄を確認すると『ファイアショット』の文字が灰色の状態で追加されていた。
先ほどアリスが使っていたのを間近で見学して、何となくだがイメージがつかめたからだろう。
言語の時と同様に、灰色の枠を選択すると名前の隣に『+1』が追加され、選択する度に数字が増加していく。
ファイアショットは強化値が『+10』になると止まった。――魔法の上限は聖剣と一緒らしい。
メニュー画面を閉じ、押し寄せてくる魔物を見据える。
――さぁ、人生初の魔法の時間だ!
「確か呪文は……焔の輝きよ、煌めけ『ファイアショット』」
「えっ!?」
結弦はアリスが言っていた呪文を真似る。――すると、辺り一面に直径一メートル程度の燃え盛る火球が幾多と現れ、敵の元へ無造作に飛んでいく。
火球は魔物や地面に衝突する度に火柱を上げ、ちょっとした火山の噴火みたいな絵面になっていた。
これはすごい。――レベル最大だとちょっとした天変地異を起こしている気分になれる。
あまりの衝撃に身動きができず、呆然と二人で噴火現場を眺めていると、燃え盛る火柱は次第に収まっていった。
当然、火が消えた後に残っている敵影は無く、焼け焦げた草と荒れ果てた街道だけが残った。
『ローラッドの大群を倒した。』
『経験値と《ローラッドの皮》×12を獲得した。』
「ご主人様? 今のは一体?」
「あぁ、アリスがさっき使っていたファイアショットを使ってみた。――ちょっとやり過ぎてしまったが」
「『ちょっと』ですか……それとご主人様は魔法を使えないはずでは?」
「さっきまではね。――でも見てたら何となくイメージが掴めたから……いけると思った」
「私がアレを覚えるのに何ヵ月かかったことか……一目見ただけで使えるなんて、目の前にしても信じられません。――あと、ご主人様が地形ごと燃やし尽くしてしまったので、これだと結局行商路としては使えないままです。私は依頼主の方がこれをどう思われるか……」
「まぁ邪魔な魔物を排除するのが今回の依頼だからな。そこから先は先方がなんとかしてくれるだろう」
「はぁ……そうだといいのですが。――とりあえず目標数は討伐できたので、一度街へ報告に戻りましょうか?」
なんとも言えない顔をしているアリスを横に、結弦たちは街への帰路につく。




