1.10 フィリアの目的
「三日ぶりね」
「あぁ、そうだな」
アリスと同じ布団で眠りについた結弦は、夢の中で女神……フィリア・ミラ・クロノスと会っていた。
場所は先ほどまで寝ていた宿の一室で、備え付けで置いてある椅子二つに向かい合う形で座っている。
「――あまり驚かないのね。ちょっとしたサプライズのつもりだったのだけど、つまらないわ」
「十分驚いているよ。ただ、過保護な女神様だからな。こうして接触してくることは読んでいた」
こんなに早く再開するとは思わなかったが。
「ふーん……まぁいいわ。――ねぇ、せっかくだしこの世界を歩いてみてどうだったか聞かせてくれる?」
「そうだな……感覚としてはゲームの中に迷いこんだというのが一番しっくりくるかな」
「他には?」
「あとは……他人との接し方に気を配る必要があるのが厄介だ。――ゲームと違って、選択肢が導いてくれるわけでもないし」
「そう、よく分析しているのね」
「あぁ、せっかくあんたから貰った第二の人生だ。大切にしないとな」
「いい心がけね。でも、私のありがたさを理解しているのならいい加減、私を『あんた』だの『ちんちくりん』だの呼ぶのはやめてほしいのだけれど」
おっと、ちんちくりんとは口に出した覚えがないのだが……心の中も読まれているのか?
「当然よ、今の私は休眠期間とは言え、目と耳はいくらでもあなたの元へ飛ばせるわ。――どこで何をしているというのはもちろん、その時あなたが考えていることも逐一私に伝達されるわ」
「ストーカーかよ!」
ってことは寝る前のアリスに対する葛藤も全てこの女……もといフィリアに筒抜けだったという訳か。
――プライバシーもクソもあったもんじゃない。
「一応この世界におけるただ一人の保護者としての責務よ。――あえて言うなら、休眠期間中で過度に暇を持て余している私の楽しみなのだから早いところ諦めなさい」
「最悪だ。――まぁ早い段階で知れたのは行幸か、以後気を付ける」
「いいのよ? 人様に迷惑をかけなければ奴隷の子……アリスだったかしら? と毎晩しっぽりとやってくれても」
「俺はロリコンじゃないし、フィリアが見ていると知ってしっぽり出来るほどオープンな性癖でもない」
「あら……残念だわ」
本当にそう思っているのだろうか。
「まぁそれはもういい。――それよりもフィリア、そろそろ俺の前に現れた本当の目的を聞かせてくれ」
「そうね……一つは前回、力を使いすぎて説明半ばに放り出しちゃったからそれの補足。これでもちょっとは心配していたのよ? 懐中時計越しに見ているとはいえね」
口ではおどけているが性根は優しいんだよな、この女神様。
「後はさっきも言ったけど私、結構暇なのよ。だから相手してほしかったなぁ~と」
前言撤回。やはり俺のことを玩具か何かとしか思っていない!
上げたら落とさないと気が済まないのだろうか? 俺の感動を返してほしい。
「フィリアの言っていることがどこまで本心かわからないが、心配させたのなら気にしなくていい。今の環境はなんだかんだと気に入っている」
「あら素直ね。――素直な貴方は結構好きよ。これからもそうあって欲しいものだわ」
「うぐっ……善処します」
全てを見透かされているからか、所々で調子を狂わされる。フィリア相手に口で勝とうと思うのは早々に諦めた方が良さそうだ。
「よろしい。さて、ようやく私の評価も多少は改善されたみたいだし、この際に聞いておきたいことはないかしら? 朝まで後少しだけれど、気分も良いし、それまでなら質問に答えてあげるわ」
ふむ、女神様の質疑応答タイムのようだ。この際、聞けることは全て聞いておこう。
「そうだな……じゃあ単刀直入に聞くが、俺は明日からどうすればいい? 今のところフィリアが用意してくれた冒険者職の仕事をこなしつつ色々な街を巡ってみようと思っていたのだが」
「基本的にはそれでかまわないわ。――補足しておくと、仕事は報酬ではなく仲間のレベルが上がりやすそうなものを優先して受けるのがいいわね。前にも言ったけど、結弦にはこの世界の魔物や魔将、ゆくゆくは何人かいる魔王の討伐をお願いしたいの。……私の代わりとしてね」
「やはり何かあるのか?」
「昼間にアリスも言っていたけれど私は本来、この世界で喧嘩をしていた神と悪魔と竜を間引く役割を担っているわ。千年の年月をかけて私が異界でこってりと説教をしたおかげで大半の神族と竜族は大人しくしてくれているわ。ただ、魔族に関しては反抗的でね。ちょくちょくこの世界に侵攻しては魔物を量産し、人様に迷惑をかけているのよ。――だから結弦には仲間を増やしてRPGゲームのように魔族をばっさばっさとやっつけて強制送還して欲しいのよ」
「強制送還? 倒した魔物はフィリアの言う異界に行くと?」
「えぇ。結弦も何度か見たでしょ? 彼らはこの世界で存在を保てなくなると光の粒子となって私が管轄する異界……この場合は魔界ね、に送り届けられるの」
そうだったのか。元日本人としては、たとえ魔物であっても倒すのに多少の抵抗があったのだけど、これからは気にしなくて良さそうだ。
「なるほど。そういう事なら第二の人生をくれたフィリアの役に立てるように頑張るよ。――でもできるのか? 魔王討伐」
「その点に関してはそんなに心配していないわ。私の加護のおかげであなた自体はとても頑丈だし、いざとなれば私の与えた装備を仲間に使わせて戦力を整えればいいでしょう?」
なんとも物騒な話だ。
「わかった……ヤバくなったらフィリアから貰ったチート武器を使いまくってなんとかする。あと、もう一ついいか?」
「そうね、時間的に一つくらいならいいわ」
「ありがとう……簡単な質問だ。――俺は魔法を使う事はできるか?」
さきほどアリスに聞いた話だと努力だけではなく、才能も必要みたいだったので素養があるかを確認しておきたかった。
「あら、そんなこと。……これでも私はぬかりなくあなたを強化して転生させたのよ? 第一にあなたは魔法に関しての制限はほとんど無いし、第二に他の人のように小難しい本を読む必要も無いわ。一応、魔法の行使時に起こしたい事象のイメージをする必要があるから、一度は魔法を見る必要があるでしょうけど。――まぁそこはアリスにでも見せてもらいなさいな」
流石は過保護な女神様だ。ちゃんとそこら辺もチート設定にしてくれているらしい。
「そうだったのか、それを聞けてよかった。――明日にでもさっそく試してみるよ」
「それがいいわ。後はそうね、今も言ったけどイメージが重要だからそれをしっかり出来るように頭の中で練習するといいわ。――そうすれば詠唱という言霊に縛られることもないし、頑張れば独自に魔法の開発もできると思うわ」
なんと! そんなやりこみ要素があったのか。
「全てはあなたの頑張り次第よ。励みなさいな新しい人生を……」
そう言ってフィリアは大きなあくびをした後、ベッドに突っ込み寝てしまった。――休眠期間中って言ってたし、眠たかったのだろう。
――次にいつ会えるか分からないが、それまでにやっておく事は十分理解できたと思う。
眠ったフィリアに布団をかけてやり、結弦は夢の世界に別れを告げた。




