表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『王宮舞踏会シリーズ』おまけ話  作者: ミケ~タマゴ
★夫の友人は、とんでもない人達でした。〔春編〕
4/5

♡04話 縫いぐるみではありません

 



「女、おまえがクリスと結婚した経緯は知っている」


 睨みあって対峙していると、最初に口を開いたのは黒髪の青年でした。


「わたしも知っています。わたしが国に帰って、くだらない後継者争いをしている時に、クリスは父親が亡くなって、辛い目にあっていたようですね」


 白金髪の青年も頷くと、黒髪の青年の後に言葉を続けました。


「ゴミどもを片付けて、国を安定させるのに、手間取ってしまった。クリスの窮状がわかった時には、クリスは何かと、くっついていた」


 金髪の青年も二人の後に、話します。


「クソッ、ひと言連絡をくれれば、助けに行ったのに!」

「言ってくれさえしたら、すぐに救ってさしあげたのに!」

「頼ってくれたら、国なんかどうでもいいから、駆けつけたのに!」


 三人が悔しそうに口にする言葉を聞いて、笑顔を浮かべました。

 青年が遠慮してたとか、連絡をとる方法をわかっていないという事を教えるつもりはありません。いなかったこの三人に、妻の立場を印象づけるチャンスです。


 勝ち誇って言えます。


「フフッ、残念でしたわね。彼が大変な時に、たくさんお金を持って側にいたのは、このわたくしですわ!」


 自慢気に叫んだ後、何か違う気がしました。


「彼が困ってる時に出会って、愛し合うようになって、結婚しましたの」


 ごまかすように、言葉を紡いでいきます。最初の叫びは失敗した自覚があります。


「運命に導かれて、彼の妻になりましたの。運命に弾かれたみなさまは、彼に余計なちょっかいをかけないでくださる?」


 最初の発言をうまくカバーし、立場を強調し、三人を牽制するような言葉にできました。心の中で『よし!』と拳を握ります。


 ジロリと三人に睨まれます。威圧のこもった視線です。普通の人にはない、高位者の威圧感です。寒くもないのに背すじがゾクゾクしました。


「……出会ったとき、あいつは一人ぼっちだった。あんなに綺麗なのに、みなに遠巻きにされていた」


 視線を外して、どこか遠くを見るように黒髪の青年が話し始めます。


「話しかけると、嬉しそうに笑った。まるで花が綻ぶような笑顔だった。いつも笑顔でいて欲しいと思った。だから、守ってやったんだ」


 ゴクリと唾を飲み込みます。男子校で、青年が無事だったのは、自分のおかげだと言いたいのでしょうか。


「……わたしが入学した時には、幼い頃から寮にいた極上の美少年は、密かな学校の名物になっていました。水面下で上級生達の取り合いが起こっていて、誰もそばに近寄れないようでした。だから、誰からもかまわれない少年をかまってあげました」


 白金髪の青年も、何かを思い出すような視線になりました。


「かまってあげたら、美しい笑顔で幸せそうに笑ってくれるんです。自分の美しさをわかってないようでしたので、自信を持つように、散々綺麗、美しいと賛辞して、容姿をさらに磨いてあげました」


 白金髪の青年の言葉で銀髪の青年が、顔だけには自信がある理由が分かりました。青年の美貌は、自分のおかげだとでも言いたいのでしょうか。


「……食堂の片隅で一人で食事していたな。寂しそうだったから、話しかけて一緒に食べてやった。きれいな犬がなついてくるようで、可愛らしかったね。一緒に居さえすれば、何でも嬉しそうに食べるから、珍しい変わった食べ物も食べさせてみたな」


 続けて話し始めた金髪の青年の言葉に、ピクリと眉が動きます。


「真面目で要領が悪いんだ。みんな適当に手を抜いて遊んでるのに、アレはできないんだ。可哀相になって、色々なことをできるまで、根気よく教えてやったよ。とても綺麗なのに、残念なやつで、頑張る姿が可愛かったな」


 何を思い出しているのか、金髪の青年の口もとには、ほのかな笑みが浮かんでいます。銀髪の青年の味覚障害は、こいつのせいかもしれません。

 残念属性にも気づいていたようで、いろいろ教えてくれていたようです。


 どうやら、入学した時期がずれているようで、銀髪の青年には、やっぱりぼっち時代があったようです。

 後から同時期位に入学してきたらしい三人が、色々助けてくれていたようですが、三人とも、とても偉そうなもの言いです。ぼっちから救ってくれていた事に感謝していいのか、複雑な気持ちにしてくれます。


「綺麗なだけの人間なら、いくらでもいるが、あいつのような素直さはない。俺の元で笑っていて欲しかった」


「裏表のない、あの性質は貴重です。わたしの側で、あの美しい姿でわたしを癒して欲しかったんです」


「アレの媚びる姿は可愛い。汚れた欲じゃないからね。嘘をついても分かりやすくて、安心して側における。ずっと手もとに置いて、愛でたかったんだが」


 三人の視線が一斉にこちらに注がれます。威圧ではありませんが、なんだろうと息を飲みました。


「縫いぐるみか」

「縫いぐるみですね」

「縫いぐるみだな」


 縫いぐるみ呼ばわりに、目を見開きます。カッと頭に血が上りました。


 『いーいザマスか。淑女は感情的になってはいけないザマス。敵の前で喜怒哀楽を、顔に出してはだめザマス。どんな嫌みも笑顔で受け流すザマス』


 怒鳴ろうと口を開く直前で、マナーの先生の言葉が脳裏によみがえりました。


 そうでした。淑女は笑顔で嫌みを受け流すのです。


 嫌みに対する笑顔には二種類あります。そんな嫌みは分からないと、まったく通じてない振りをして、相手を空しくさせる笑顔と、応戦モードの笑顔です。

 この場合は後者の笑顔を浮かべるべきでしょう。


 『あら、何をおっしゃっているのかしら? その位の嫌みなんて、何とも思いませんわ。程度が低い方ですわね』という意味の、対敵スマイルを浮かべます。見下し視線で、口元を少し持ち上げます。


「あら、縫いぐるみではありませんわ。先ほどのクリスの言葉をもうお忘れですの? 代用品なんかじゃありませんわ。少し前の事も記憶できないなんて、お気の毒ですわね」


 秘技・嫌み返し発動──笑顔の後の発言には、本当に同情しているという表情をつけます。


 社交界を渡り歩く女性の必須技能です。相手や状況によって言葉や表情を変えていくので、難しい技能です。


 黒髪ロン毛がこちらを見つめてきます。


「さっきクリスは、おまえを縫いぐるみのように可愛いと言ったろう」


 白金髪ロン毛もこちらに顔を向けます。


「代用品ではなく、新しい縫いぐるみですね」


 金髪ロン毛の視線も浴びます。


「クリスは、あらたな縫いぐるみを見つけたんだ」


 縫いぐるみ認定されているのは、わかりましたが、三人の様子が嫌みではないようで、首を傾げます。


「どれ」

「キャッ」


 ツカツカと近寄ってきた黒髪ロン毛にいきなり抱き締められました。


「ふむ、抱き心地は悪くないな。柔らかくていい感じだ。これなら抱いて眠るにはいいだろう。あいつが寂しがってるのは分かっていたが、立場上添い寝などできなかったからな」


 抱き締めた手を離して、黒髪の青年が偉そうに腕を組んで言ってきます。


「柔らかいですか?」

「ヒャッ」


 驚いていると、白金髪のロン毛も近寄ってきて抱き締めてきます。おまけに持ち上げられました。


「これは、フニュフニュしていいですね。小柄で持ち運びしやすいですし……。口も達者なようですし、側に置いておけば、いい話し相手になるでしょう。色々お喋りしたがってるのは、分かってましたが、ずっと側には、居てやれませんでしたからね」


 重さを確かめるように、左右に振られた後、床に下ろされました。驚き過ぎて、声が出ません。


「どんな感じだ?」

「ッ!」


 今度は金髪のロン毛が近寄ってきて、抱き締めてきます。ありえないことに、抱き締めた後、お腹に触られ、下腹を揉まれました。


「ふーん、あちこちポニュポニュしてて、確かにいい感じだな。元気もいいし、よく食べて肥えている。アレと食事しているんだな。一人で食事させたくなかったが、いつも一緒に食べてやれるわけじゃなかったからね」


 金髪のロン毛が偉そうに頷きながら、言います。


 ロン毛三人衆から信じられない暴挙、暴言を受けました。いきなり抱き締めてきた黒髪、体重を確かめた白金髪も許せませんが、特に金髪が許せません!


 無防備な下腹を揉んでの『よく肥えている』発言──覚悟ができていれば、少しの間なら、引っ込めることも出来たはずです。頑張っても肉は肉だったかも知れませんが、何とも失礼な言葉です。


 怒りで驚きが吹き飛びました。うら若き人妻にする行いではありません。


「いきなり、女性を抱き締めるなんて失礼ですわ! 何を考えてますの! 許されないことですわよ!」


 淑女うんちゃらは脇に置き、大きな声で怒鳴りつけると、三人は何とも言えない笑みを浮かべました。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ