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『王宮舞踏会シリーズ』おまけ話  作者: ミケ~タマゴ
★夫の友人は、とんでもない人達でした。〔春編〕
2/5

♡02話 何か違う事を悟りました

 

 

「ごめんなさい。お待たせしたわ」


 部屋から出ると、廊下で待っていた青年に声をかけます。


「いや、大丈夫。可愛い人が、ますます可愛くなったね」


「あら、クリスったら」


 フフフと笑い合います。


 本当はもっと、もーっと、時間をかけて、あちこち手を加えたかったのですが、気にしだすときりがなくなります。あまりお客様を待たすわけにもいかず、ほどほどのところで妥協しました。


「あ、何かおっしゃいましただかね? 旦那様、奥様」


 青年の側に控えていた歳をとった従僕が尋ねてきます。この従僕は、もともとは外働きの下男として雇ったのですが、他の使用人達の推薦で、屋敷内の従僕になりました。よく、青年の側に控えています。


「何でもないわ。応接室に案内してくれる?」


 近づいて大きな声で、要望を伝えます。従僕は頷くとヨロヨロと先を歩き始めました。どうやら、耳が遠いらしい年寄りを、なぜ皆が推薦してきたのかよく分かりません。


「ここまででいいよ。おまえはもう、下がって休みなさい」


 階段を降りようとガクガクしている従僕の耳に、口を近づけて青年が言います。従僕は体全体をガクガクさせて頷きました。


 今度は二人で応接室に向かいます。


「そう言えば、あなたの二番目のお兄さん、結婚はいつになるのかな?」


「んー、よく分からないわ。何だか逃げ回って有耶無耶にしようとしてるような?」


 青年の質問に首を傾げます。冬の王宮舞踏会で、婚約破棄騒ぎのすぐ後に、王太子様の仲立ちで、殿下の従妹のご令嬢との婚約が決まりましたが、『騙された! 褒美じゃない!』『逃げてやる! 婿になってたまるか!』とか叫んでいました。


 美しく聡明なご令嬢と聞いています。話したことはありませんが、遠目で見たことはありました。見事な金髪縦ロールには存在感があり、確かに美しい方だと思いました。

 交流のあった他のご令嬢達に聞いても、皆様、何かを思い出すように遠い目になり、口にするのは褒め言葉ばかりでした。

 王太子様が婚約されたご令嬢とも仲がよく親友で、王の弟の公爵様の一人娘です。陛下の姪です。とてもよいご縁だと思うのですが、ジロートラヤ兄は乗り気ではないようです。


 なぜ嫌がってるのか分からず、まずは、残念なシローアント兄以外の情報通の兄達に聞いてみましたが、『心ゆくまであがくがいい』『もう、ムダだよね。あきらめろ?』『気の毒だが、覚悟を決めるべきだな』とか、理解できない反応でした。

 一応、シローアント兄にも聞いてみましたが、顔の両脇で手をヒラヒラさせながら、『アッパラ・パア!』と叫んで、変顔をされただけでした。

 何か次の踊りの振り付けを考えていて、自分の世界に入っていたようです。やっぱり、聞かなければよかったと後悔しました。


「まあ、具体的に決まれば、連絡がくると思うわ。それから考えればいいと思うの。今は来週の王太子様の結婚に参列する準備で、忙しいし……」


「そうだね」


 青年が相槌を打ったところで、応接室の前につきました。


 きっと、ぼっちだったろうと、学生時代の事には触れずにいましたが、親しくしていた友人が訪ねてきたと聞いて、安心するとともに、驚きもしました。青年の友人には初めて会います。


 いったい、どんな方達でしょうか。青年の友人達に『可愛い人を妻にしたね』と、言ってもらいたいと思います。 

 もっと、顔面塗装に時間をかけて、見栄バリアーを張りたかったところです。ドキドキと緊張で胸を高鳴らせながら、扉に近づくと、サッと寄ってきた白髪混じりの従僕が、扉を開けてくれました。


 青年と二人で応接間に入ります。


 白い大理石のテーブルを囲んで、三人の青年が座っていました。一斉に扉の方に視線を向けてきます。


「ああ、俺の姫、会いたかった」


 正面に座っていた黒髪の巻毛で長髪の青年が、手を広げて立ち上がります。黒い長衣に、手足にジャラジャラと宝石をつけ、胸元の大粒のルビーの首飾りが目立つ、派手な男です。眼光の鋭い美形です。


「我が姫、あなたの事を思わない日はありませんでした」


 右側に座っていた白金の髪で長髪の男も立ち上がります。銀糸で縁取られた白い服を着ています。額に細い銀のサークレットをした、涼しげな目の美形です。


「姫、きみの麗しい顔を、私によくみせてくれ」


 続けて、左側の金髪で長髪の青年も立ち上がります。金糸の模様のある青い服に、耳にサファイアのピアスをしています。知性的で鋭利な目つきの美形です。


「ファルシャード! ルキアノス! ジャスティン! 姫だなんて、相変わらず冗談が好きだね」


 隣に立つ青年が、嬉しそうに彼らの名前を呼びます。


「「「クリス!」」」


 青年の名前を叫んで、三人が走り寄ってきました。


「元気そうだが、おまえを守りたくてもそばにいてやれず、心配だった」


 黒髪の青年が、銀髪の青年の左右の頬に音を立ててキスをしました。ギョッと目を見張ります。


「気にしてくれてありがとう。でも、もう大丈夫だよ。立派な大人なんだから」


 黒髪の青年の左右の頬にチュッチュッと音を立ててキスを返した後、ニコニコと銀髪の青年が答えます。

 突き出た口でのキスでした。タコがどこで生まれ育ったのか分かりました。


「ああ、手が荒れていますよ。ちゃんと手入れの仕方は教えたでしょう? この美しい手を、荒らすような事をしてはいけませんよ」


 白金髪の青年が銀髪の青年の手をとって、サスサスと撫でます。『髪の艶が』『唇のカサつきは』とか、チェックをしています。


「料理をするときも薄い手袋とかして、気を使ってるんだけど」


 なすがままに、手の他に髪や頬や唇を撫でられた青年がノホホンと、恥ずかしそうに答えます。メイド達の手を借りず、銀髪の青年が自分を美しく保つお手入れが、上手な理由が分かりました。


「変な筋肉はつけてないね? 背すじは伸ばして、優雅な動作を心がけてるね? 挨拶もダンスも、教えてやった通りにできたかな」


 銀髪の青年の背後に立った金髪の青年が、確かめるように背中や腕や足などに触っています。


「あ、それはうまくできたと思う。丁寧に何度も教えてくれたおかげだね」


 好き放題にあちこち触らせながら、銀髪の青年がポヤポヤと答えます。青年の優雅なしぐさ、とてもダンスが上手な秘密が分かりました。


 「よく顔を見せろ」とか「あなたはわたしの癒しです」とか「きみが恋しかった」とか口々に囁きながら、銀髪の青年を抱き締めたり、擦ったり、触ったりしています。賑やかです。


「わたしも皆に会いたかったよ」


 好き勝手に体を触らせながら、満面の笑顔でヘラヘラと、銀髪の青年が言葉を返しています。

 あんなに怖れていたのに、お尻は無防備になっています。

 どんな調教をされているのか、まったく三人に対する警戒心は感じられません。


 銀髪の青年を『姫』と呼び、まとわりつく青年達──これは、逆ハー? いや、ハーレム? 状態でしょうか。


 愕然として、その様子を眺めました。


 弾かれました。夫の友人達にガン無視されました。


 ただの友人とは、何か違う事を悟りました。




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