第2話「もしかして、ここは……?」
【リターン・リバース】とは、俺が中学生の頃に買ってもらったスマホで最初に遊んだゲームだ。今考えてみると、そもそも何処からダウンロードしたのかさっぱり覚えてないけれど、その当初はかなり嵌ってやり込んだものだ。実際、高校生になっても毎日遊んでいたし、新パックが発売されるのを心待ちにしていた。
そんなゲームの物語は、とある魔王を倒す定番のRPGの世界だった。勇者として選ばれた主人公が魔王に裏切られた仲間と共に魔王を討ち取るまでの話。物語が壮大すぎて、少なくとも高校の時点ではアップデートが途中だったのもあり、魔王にまだ会っていない。
道中の敵がどんどん強くなる最中で、何度魔王がどれほど強いのだろうかと想像したことだろうか。
結局は出会う前によくわからない世界へと転移されてしまったのだから、もう見ることが叶わないと思うと目尻が熱くなる。そのくらいそのゲームに心奪われ、熱中していたのだ。
こんな深い森の中だと、つい【リターン・リバース】の初期地点である《イノセンスの森》を思い出す。初期地点のことはあって比較的に優しい魔物ばかりが生息する。とはいえ、何処ぞのRPGのようにスライムが出てくるわけではない。普通のRPGとは常識が違うのだ。あくまで、戦う武器はカード。だから、雑魚敵もきちんと知能を有してるし、カードゲームとして成立する程度には思考を持っている設定だ。
夢の中の謎の声によるとナビゲートがあるとかなんとか。頭の中で念じればいいのだろうか?
おい、ナビゲーター!
………シーン。
反応しないな。ということは、口に出すのか?
「ナビゲーター!」
「はい、なんでしょうか?」
おお!?頭の中で機械音が!少女の声を少し弄ったような可愛らしい印象を受ける。ずっと話していても飽きないかもしれないな。なんたって、可愛いものは正義だ!
「ここは何処だ?」
「ここは《イノセンスの森》です。」
あれ?今《イノセンスの森》と言ったのか?
【リターン・リバース】の初期地点と同じ名称ではないか。偶然なのだろうか。偶然にしてはできすぎてるとは思うが、こうして別世界に飛んできた以上、そういうこともあるかもしれない。うん。そうに違いない。
自身の服装を見る限り昨日眠った時の服ではなく、俺がよく着ていたお気に入りの服となっている。もし、無人島に持って行くならどんな服装かと聞かれたらこれ!という質問の答えを先読みされた感覚だ。
まぁ、確かに俺ならこの服を選ぶんだけど、どうも癪に触る。別に不満はないからな?不満はないし、ありがたいけど、なんかやられた感があって嫌だ。
ここでいつまでも座っていても埒が明かない。転移と言っていたし、この体も何か食べなければ死んでしまうのだろう。俺は単なる人間に過ぎないからな。というより、それが生物としての宿命であるのだから、死なない可能性は最初から外しても良いだろう。てか、餓死しなくとも普通に空腹は味わいたくない。
膝を手で押さえつつゆっくりと立ち上がった。
その瞬間、腰辺りが揺れ動いて、自分の体と何かぶつかったので、そちらを見てみると、腰にデッキケースのようなものがぶら下がっていた。
ベルトに付いていたキーホルダーを外し、デッキケースの中を見てみると、そこには夢にまで見た【リターン・リバース】のカードが入っていた。
【リターン・リバース】経験者なら誰しもが一度は思ったはずだ。もしも現実のカードとして扱えたらどれだけ嬉しいだろうかと。そのカードが今手元にあるのだ。有頂天になり心躍った。
それと同時に少しの不安が横切った。
もしかして、この世界は【リターン・リバース】なのではないかと。
「ナビゲーター……。」
「はい、なんでしょうか?」
その機械音に感情はなく、先程と一字一句同じ音程で答えた。その言葉に意思がないように感じるからこそ、機会と言う表現をした。
「この世界は……リターンリバースなのか?」
俺は恐る恐るその真実を問うた。
当然、聞きたくはなかったし、聞かないという選択肢もあったけれど、ナビゲーターは無限にいてくれるわけではないようだし、今聞かずして後悔するよりかは聞くべきだと思ったのだ。
「わかりません。」
その答えに少しホッとした。
このカードもきっとただの偶然。森の名前もただの偶然なのだと。
それでも拭い去れない不安はあった。「いいえ」ではなく「わからない」と答えた。その点は未だに不安にさせる理由の1つである。
仮に【リターン・リバース】の世界ならば、ゲーマーは確実に喜ぶだろう。当然俺もそうならば嬉しい。けれど、やっぱり慣れない環境にいきなり一人で立ち向かえと言われると怖くなるんだ。それに命を賭けろと言われて、平和な日本育ちの俺がすぐに適応できるわけでもないし、サバイバルを強制されてるとも言えるから、正直精神的に疲れるものもある。
それでも、誰からも見向きされなくともお金は出してくれたし、そこに確かに存在はした。隣の部屋の妹の存在を、前の席の同じ中学の存在を、隣の家の幼馴染の存在を確かに感じていたんだ。
例え、一生話すことがなくともそれは俺の人生を、俺の心を楽にさせたんだと今更ながら気付いてしまった。
カードを見る限り、初期のカードと一致する。
初期のデッキは《フェアリーデッキ》。
ゲームの中では最弱であり、10種のカードが4枚ずつ入ってる。基本カードしかない故に切り札系もなく、決め手が欠けてる故に最弱なのだが、ゲームの世界ではいきなり強い相手と戦わされたものだ。チュートリアルとはいったいなんなのかと思うほど強かった記憶がある。その時点からカードゲームとしては異質だったが、運が絡むとはいえ、きちんと対処すれば、勝てるというのは中々難しい調整だなと思った。
一応、フェアリーデッキの確認をしよう。
属性 コスト/攻撃力/体力 カード種類/レア度
無 1/1/2 R/☓「フェアリー」
この最弱カードがこのデッキの名前として使われてる。このカードは効果が存在しない。けれど、だからこそ、序盤から動けるメリットもあるし、1コストに対して、攻撃力は1。体力を1という換算をしたとき、「フェアリー」は体力が2だ。つまり、効果を度外視したときに、1コスト辺り、1.5のステータスを持つことは有利に繋がる。Rとはリサイデントの略。いわゆる、モンスターとかクリーチャーとかそういった類の名前だ。
【マナレシオ】1コストに対しての性能の高さを示す1つの基準。コスト/攻撃力/体力があるとして、(攻撃力+体力÷2)÷コストによって求められた数値は1コストに対しての数値だ。だから、1/1/2のマナレシオは1.5。2/2/4は1.5。基本が1/1/1の1なので、1.5は高いとは言えるが、コストが大きいとマナレシオの数値が低くとも、そのコストに対して、幾らマナレシオの高い1コストを並べても1回あたりのパフォーマンス自体は低い。なので、あくまでわかりやすくするための1つの方向性でしかなく、カードゲームは面白さを加速するための効果というものがあるので、これが必ずしも強いカードであるという示唆ができるわけではない。
無 1 S/☓「妖精の矢」
効果 リサイデントかライフに1ダメージ。
Sとはスキルのことじゃないぞ。サポートカードのことだ。基本的にコストを支払い場に残り続けるのはリサイデントとフィールドカードのみだ。
サポートカードは使い捨てで、コストを支払い効果が発動するなり、墓地へと送られる。その代わりに、他のカードと違い複雑な条件は必要なく、即座に効果を実感できる点で有効だ。ただ、他のカードとは違って、墓地にすぐに送られるという点が逆に弱点とも捉えられる。
このカードはリサイデントかライフのどちらかを選択できる。勿論、1コストならばリサイデントだけとすれば、2ダメージ与えることが多く、その場合は単順にマナレシオで見てみると、1コストのサポートと2コストリサイデントの交換ができる場合もあるので、選択肢が増えたとはいえ、このカードの方が弱く見える。
しかし、カードゲームにおいて、選択肢が多いというのは強みになる。例えば、こういったカードのみでライフを削り切るデッキならば、リサイデントが場に出ることがない。その場合は手札で使えないカードとして、腐ると言われる。手札も持てるカードの枚数の上限は決まってる以上、使い続けなければ、動けなくなるのは自明の理。その点、相手の場にリサイデントが出てこないデッキ相手でも有効に使えるという点ではこのカードは強く、手軽に使える。
MPを余すことなく使えて、選択もできるというのがこのカードの強いところだ。
無 2/2/3 R/☓「ドワーフ」
このゲームは時々雑魚カードとして無記名カードが存在する。後々進めていくにつれてこういうカードは邪魔なだけのものとなり売却するオチなのだが、全く不必要なわけでもないのが面白いところだ。効果が強ければ強いほど、ステータス。つまり、攻撃力と体力の合計値が低くなる。その点、殴り合うことによって、倒せるトライデントの数も変化する。それに無記名だからこそ、発動する効果も存在はした。特に速攻デッキの相手ならば、効果の強いリサイデントが少ないために、殴り合いが重要になる場合もある。1枚に対して、複数のカードを墓地に送れるのなら、結果的にそれが有利に繋がるからだ。
無 2 F/☓「妖精の森」
効果 ターン終了時・自分のリサイデント1体を+1/+0。
Fはフィールドカードの略。リサイデントと違い戦闘に参加するわけではなく、永続的に効果を発動するタイプのカードだ。フィールドを破壊するにはそれ専用のカードが必要であり、リサイデントによる攻撃はされない。
このカードは後半も速攻系デッキに入る強めのカードだ。ターン終了時に攻撃力が+1されるのだから、相手にもプレッシャーがかけられるということだ。
ただし、体力は増えないので、少し高い体力を持つ相手に対して、必要な攻撃力のコストが減るだけで、どんなに見込んでも、基本はリサイデント同士で交換して墓地に送り合うという扱いになる。それに場の上限枚数には限りあるから、そこを1枚埋めるというのは、致命傷にも繋がるが、破壊されなければ、相手のライフを削り切るのに必要なトライデントの数もターン数も減るという点では強みでもある。
無 3/3/2 R/X「レプラコーン」
効果 召喚時・デッキ一枚をMP+1する。
リサイデントの効果の中には召喚時に効果を発動するカードがある。その中の1枚なのだが、MPとはコストを支払うときに使用するポイントのことだ。正確にはMagic Power(=魔力)の略称。リサイデントを召喚する際に魔力を使う。なんせ、現実でありえないものを召喚するのだから、現実には存在しない力や法則があって然るべき。
MPは毎ターンのドローする前のタイミングで自動で+1されていくのだが、こうして効果を使用し増やすことが可能だ。
上限はなく、MPを増やす系のカードは大抵誰でも入れていたものだ。
その上で効果を見てみよう。
召喚時・デッキ一枚をMP+1する。
【召喚時】手札から場に出したとき。
【・】効果を省略した言語にしたとき、文章と混ざって、わかりにくくしないようにするための文字。
【デッキ一枚】デッキと呼ばれるカードの束の一番上を1枚。
【MP+1】MPというコストを支払うためのポイントに変換し、それの上限を1増やす。
ということになる。
無 3 S/☓「武装錬金」
効果 自分のリサイデント1体を+2/+2する。
そういえば、属性の説明をしていなかったな。
これら初期カードは全て無属性となってるが、原則的に同じ属性しか組み合わせてデッキには出来ない。しかし、無属性は無である為にどの属性にも入れることが可能なのである。色がなく、どんな色にも合わせることができるので、水と油。火と水。火と木のように相性の悪さが存在しないのだ。
このカードは攻撃と体力の両方に+2するものだが、体力が0になったリサイデントは破壊される為、体力が低いリサイデントに使う為の補助カードだ。また攻撃力を増やせるので、攻撃ができるリサイデントに対して使い、倒されにくい上に速攻で相手のライフを効率的に削る役割も担ってる。相手のライフを積極的に削るか、自分の場のリサイデントを残して相手により多くのカードを消費させるか、などという駆け引きを生み出す1枚のカードだ。
無 3 F/☓「妖精の湖」
効果 自分のリサイデント破壊時・デッキからフェアリーを召喚する。
このカードは正直大して強くはない。
デッキに入ってるフェアリーは4枚である為に、最大4回までしか発動しない。枚数制限は10枚までなので、今後に期待するしかない弱小カードと言っても過言ではない。ただし、フェアリーは後々場に出してもあまり強くない可能性がある。ターン数が進めば進むほど、出せるコストは比例して大きくなる。そのときに場のカードを1枚埋めるのに、1/2という貧弱なステータスのカードを出したところで、あまり意味はない。そういう点で、デッキ圧縮には使える。ただし、先程も言ったように4回までしか使えない点で最高4ターン後には何の効果も発動しないゴミカードになってしまう点で強いとは言い切れないが、速攻で終わらせるアグロデッキなどでは役に立つ可能性がある。早く終わらせる上で「武装錬金」というカードが存在する以上、場を残すというのは大切な戦略の1つだからだ。
無 4/1/4 R/☓「ゴブリン」
効果 攻撃する度に+1/+0する。
ゴブリンは攻撃し続けられたならば、最強カードともなりうるのだが、4ターン目になる頃にはもう守護が置かれてる場合が多く、弱い内に倒される運命である悲しきカードだ。
少なくとも初期デッキではその効果を全く活かせず、倒されるオチが基本であった。
しかし、それを逆手に取ることも出来る。放置出来ないのだから、破壊するしかない。結果論を言うとすれば、守護の役割を担っているのだ。
だが、マナレシオとしては、3ターン後に漸く追いつくという意味ではやはり弱い。こちらも守護を置いておくことによって、破壊されづらいという状況にするか、速攻デッキ相手に体力の低いリサイデントを沢山破壊するという役割しか持てない点で使い道があまりない。
無 5/5/5 R/☓「ケット・シー」
効果 疾走。攻撃時、手札のコスト1のリサイデントを一体場に出す。
このデッキの主力とも言えるカードの一枚だ。
コスト5の疾走でこのステータスはなかなかに強い。疾走というのは、召喚したターンに攻撃が出来ることを指す。基本的には召喚したターンはリサイデントは攻撃出来ないのだ。それを召喚酔いと言う。酔いと言われるのは、いきなり自分が居た場所とは違う場所に召喚されたら、その場の状況を理解できず、どうすればいいのかわからなくなるからだ。
しかし、疾走持ちはそれを無視出来るのだからどんなときでも重宝されるカードの1つである。特にこういった強いカードはマナレシオも低くなることが多いのに、その基準を満たした上で、更に盤面を強くできる。
こういうカードは最後の決め手になることもあるし、場をコントロールすることもできるし、1枚のカードに対するパフォーマンスの高さも優秀と言える。つまり、どんな方向性のデッキにも入れられるというわけだ。例えば、守りの強いデッキに入れるとしても、疾走なのですぐに動けて、相手のリサイデントを攻撃することも可能だ。こちらが先にMP5になる5ターン目を迎えたとすれば、相手の場には最大コスト4までのリサイデントしかいない。マナレシオ通りなら、そのコスト4と+aの交換ができる。
単に相手のライフを削るだけしかできないわけではない。
無 6/1/7 R/☓「ウィルオウィスプ」
効果 守護。破壊時、手札にフェアリーとゴブリンを加える。
守護とは、攻撃されるときに強制的にこのカードへ攻撃相手を変更出来るという効果を持つ。まぁ、漢字の意味から大体そんなものだろうと予想はできたと思うが、それよりも注目すべきは破壊時効果だ。このカードは破壊されると、手札にフェアリーとゴブリンを加えるのだが何か気付いただろうか?
《妖精の湖》などと違ってデッキ指定が無い為に、デッキとは関係なく生成してくれるのだ。当然、墓地の枚数も合計42まで増えるのだが、ゲームが終わると自動的に消えていってしまうために、試合から持ち越しは出来ない。
ただマナレシオ通りなら、お互いに40枚と40枚の交換になるので、これでは勝負がつかない。にも関わらず、相手の邪魔をしながらも、使えるカードを増やすと、結果的に相手より優位に立つことができる。
簡単にカードの確認を済ませ、やはり初期デッキの内容であるとわかった上でこれからのことを考えつつ歩き始める。今はまだ昼頃だから問題ないが、よく考えたら寝床は無ければ食事はどうすれば良いのかわからない。夜になれば、その両方共、探すのはより困難を極めるだろう。
ナビゲーターが先ほどの質問にわからないと答えた以上、いつハプニングが起きるのかわからない。立ち止まっていても何の意味もないのだ。
そもそも今のところ鳥ぐらいしか生物の存在を確認していない。謎の声がこの世界が産まれるべき世界だとか言ってたし、人は存在すると期待しても良いんだよな。
もし、これで俺の生まれるべきは人ではなく兎でしたとか言われたら悲しくて死んじゃうわ。
人ですら無いのは流石に悲しい。
歩くにつれて、割と体力がなかったことを否が応でも自覚させられる。自転車に体が慣れてしまっているようだ。坂道もなかったから大して疲れもしなかったし、近くも遠くもないという距離だったしな。
少し、息が上がった辺りで、目の前の草むらからガサガサと何か蠢く姿が目に見えた。大きさ的に狐とか狸だろうか?出てきたのは…可愛らしいアルラウネであった。
身長は大体60cmぐらいだろうか。頭に大きな花を咲かせており、マスコットキャラと言われると疑う余地はない。ゆるキャラ選手権に出てみる気は無いかね?とつい言いたくなるほどに可愛らしいが、出会った瞬間に頭の中で機械音が響いてくる。
「彼女が最初の戦闘相手です。」
「相手もやる気のようですね。」
ちょびっと出てる指もない腕を軽く振っている。
これが対戦の合図なのだろうか?俺には愛くるしい生き物が「かまって!かまって!」と言ってるようにしか聞こえないのだが、アルラウネの前にデッキが空中に置かれたのを見て、やっと戦いが始まったことに気付いた。
バトルスタート!!
こちらもデッキを取り出すと、勝手に空中でシャッフルし、静止した。お互いの間に少し大きめのコインが出現すると共にゆっくりと回り始めた。
表にはアルラウネの名前。《アレ=ルーラ》
裏には俺の名前。《時坂 秀人》
お互いが名前を確認したと思われると同時に、高速回転し次第に動きを止めた。そして、先行を取ったのは《アレ=ルーラ》の方であった。
ドローフェイズ
お互いに5枚ドローをする。
よく見てみると、少し上に自分の名前と体力とスキル回数が書いてあった。初期体力は20。スキルは攻撃増加と防御増加の2種の3回まで。
攻撃増加は1度だけ1ターン限りダメージを+1するという効果だ。防御増加はその逆、1度だけダメージを-1にする。このスキル自体、一度に何回でも使えるわけではない。1ターンに1度だけ、MPを1支払わなければならないのだ。
スキルは変更可能だが、今は恐らくこの2つしか無いのだろう。
相手は手札から無 1/1/2 R/☓「フェアリー」を召喚した。召喚したターンは攻撃出来ない為に、ターンエンド宣言をした。
相手がフェアリーを召喚したことにより、フェアリーデッキに見えるかもしれないが、恐らくは「アルラウネデッキ」だろう。最初のチュートリアルの相手も同じだったので、ほぼ間違いなく確定だ。
とはいえ、そこまで覚えていないのも悩ませる原因の1つだ。然程強いデッキではないのが唯一のラッキーな点、だろうか。しかし、このデッキではお互いに五分五分と言ったところだろう。相手よりもこちらの方がデッキ自体は弱いのだから。
"スタートフェイズ"
攻撃したリサイデントが攻撃可能となったり、リサイデントやフィールドのターン開始時効果が発動するタイミングだ。しかし、まだ始まったばかりである為に何も場には存在しない。
"MP+1"
時坂 MP1/1
体に力が湧いてくるような感覚がする。【リターン・リバース】の世界は基本的にMPを主軸としている。リサイデントを召喚するのもフィールドを展開するのもサポートを発動するのもスキルを発動するのもだ。元々はレベル制だった世界は女神の改革によって変わったとゲーム内では説明されていた。物語にはあまり関係がないので、何処かの村の本に書かれていたような……。
まぁ、実際に攻略には何の関係もない裏設定のようなものだった為に覚えている俺は少数派だろう。
"ドローフェイズ"
ここで、初期手札の5枚にプラスしてもう1枚引くことが出来る。
俺の手札は、
1/1/2「フェアリー」
1 「妖精の矢」
効果 リサイデントかライフに1ダメージ。
3 「武装錬金」
効果 自分のリサイデント1体を+2/+2する。
無 3 F/☓「妖精の湖」×2
効果 自分のリサイデント破壊時・デッキからフェアリーを召喚する。
6/1/7「ウィルオウィスプ」
効果 守護。破壊時、手札にフェアリーとゴブリンを加える。
なるほど、妖精の湖という要らないカードが2枚ダブってしまったのか。
運が良いことにコスト1のカードが2枚来ている。初心者ならばもしかしたら妖精の矢を選択してしまうかもしれないが、ここはフェアリーが最善手だ。アルラウネデッキはまだ序盤のデッキである為に低コストの破壊系カードは無いはずだ。
破壊されないかつ何度もダメージを与えることの出来るフェアリーが最もこの手札で強いカードである。
そもそも、破壊系が入っていようといまいとフェアリーを出すことは決定されていた。
妖精の矢は相手のライフ以外にリサイデントにもダメージを与えることが可能であるからだ。様々な状況で使用できるカードを今潰すよりかは後々腐っていくのは目に見えているフェアリーを出す方が有利であるのだ。
更にもう一つ理由を言うとすれば、相手のライフを削るという行動をしたいならば、妖精の矢の一点は確定である為に今出す必要は無いのだ。
特に、コスト1という最小コストである為、今後余ったコストで使用した方が有意義であるということだ。
「フェアリーを召喚する!」
MP0/1
空中に浮かんでいるデッキの横、場があるであろう辺りにフェアリーを表側にして置いた。
すると、俺の真横から光が地面より発せられたと思えば、可愛らしい妖精が本当に召喚された。
「こんにちは!妖精さんだよ♪」
「おお、凄い……感動モノだ。」
本当に心の奥底から感激した。流石に涙までは流さないが、もしかしたらこの先俺の愛したあのカード(・・・・・)にも出会えると思うとつい嬉しくなった。
しかし、向こうの妖精の声は聞こえなかった。つまり、この声は召喚した本人しか聞こえないのだろうか?ゲーム時代はお互いに聞けたというのに残念だ。
手札は見るまでもなくMPが無い。場のカードで攻撃可能なカードも特に無いので、ターンエンド宣言をした。
ルーラのターン
MP2/2 手札6枚
場 フェアリー 攻撃可能
「ワタシはメリアスを召喚シマス!」
木 2/1/3 R/☓「メリアス」
効果 召喚時、敵のライフに1ダメ与える。
植物の体をした女の人が召喚される。
ボンキュッボンなその体はセクシーで、植物であるからなのか普通に裸だ。まぁ、乳首があるわけでもなく、言ってしまえば彫刻で掘ったような見た目である為に規制は入らなかったのだろう。
しかし、実物で見るのはまた別の話だと思うのは俺だけなのだろうか?
いやいや!つい、ゲーム視点で語ってしまったが、ここは現実であったな……。現実逃避は俺の悪い癖だ。治さねば…。
「召喚した時!貴方に1ダメージ与えます!」
メリアスから薔薇の蔓が伸びて来て頬を掠めた。
「つっ!」
まるで本当に頬を切られたような痛みについ、手で頬を触るものの傷跡はない。ただ、あの痛みは確かなものであったのは事実。
自分のライフを見上げると、ライフはきっちり減っていた。
時坂 ライフ19
「ナビゲーター!ライフが0になると、どうなるんだ?」
「本来であれば貴方は死にます。しかし、あと数戦の間は何度死んでも自動的に同じ場所に生き返りますね。」
今とんでもないことを聞いた気がするのは気のせいだろうか?いや、きっと気のせいだ。こんなゲームで死ぬだなんて……現実逃避するな俺!
まじかよ。でも、あと数回と言ってたな?
恐らくはゲーム時代のチュートリアルの間はってことだな。それを過ぎたら死ぬ…のか。
あんまり実感沸かないな。いざ、死と直面しても死が目に見えるわけじゃない。
言ってしまえば、飛び降り自殺と首吊り自殺の違いかな。飛び降りるときは下を見るとあと一歩で死ぬんだなと理解出来るけど、首吊りは首を吊るまでは心の何処かで死なないのかもしれないと思ってしまう。俺はそういう状況に直面している。
だが、今考えても仕方のないこと。このデュエルでは少なくとも死なないのだから、勝ってから考えようぜ!
「バトル、フェアリーで直接攻撃します。」
フェアリーが葉を操り俺の頬に向かって傷を付けに来た。またもや、切られるような感覚はするが、傷はない。実際に傷をつけられてるのは俺の魂そのものと考えるのが正しいのだろう。
時坂 ライフ18
「ターンエンドデス。」
状況だけを見るならこれはあまり芳しくはない。なんせ、除去カードが入ってないのだから。
一応は妖精の矢も除去カードではあるのだが、1点しか与えられないのでは、フェアリーもメリアスも倒すことは出来ない。フェアリーは体力2。メリアスは体力3だ。
"スタートフェイズ"
"MP+1"
MP2/2
時坂のターン
MP2/2 手札5枚
場 フェアリー 攻撃可能
俺の手札にはコスト2のカードはない。
ここで引かなければかなり絶望的状況へと変わる。相手のリサイデントは2体とも攻撃力が1ではあるが、こちらは相手を破壊する手段が無いので、結果的に大ダメージを被るのだ。
仮にこのターンはフェアリーに攻撃をしてエンドとしよう。
すると、次のターン相手から2打点与えられ、もう1体出される。俺のターンが回って武装錬金使用後フェアリーを討ち取ったとしても、相手はただ召喚しては殴る。その行動をしていればこちらは防戦を強いられ、プレッシャーを掛けられる結果となってしまう。
相手のリサイデントを気にせずライフを削れば先に死ぬのはこちらであるのは明白だからだ。
それで防戦をしても、明らかにリサイデントの数が足りない時点で相手の召喚スピードに追い付けず負けてしまう。
つまり、このドローはこのデッキにおいては重要であるということだ。
「ドロー!!」
つい、大袈裟にカードを引き、どこの厨ニ病患者なのか、カードをゆっくりとこちらへ回した。
無 2/2/3 R/☓「ドワーフ」
効果のないカードであるのは確かだが、このカードが強いと感じたのは初めてだ。このターンは無理でも次のターンは一方的にフェアリーを討ち取れる。
「ドワーフ召喚!」
MP0/2
背は低くともその肉体は歴戦を生き抜いた象徴として逞しく、長い髭と共に現れたのはドワーフ。
斧を片手に持っている。
「儂の戦場はここか。」
おおおおおおおお!
間近で聞くとかっこ良過ぎる!ゲームでは適当に出してたけど、酷い扱いしてごめん。これからはたまに使うようにするよ!
まぁ、恐らくは使えるのはせいぜいチュートリアル程度だとは口が裂けても言えないので心の内に潜ませておいた。
雰囲気ぶち壊したくはないけどさ、ね?ね?
メインステップはMPも使い切ったし、やることはないのでバトルステップだ。
「フェアリー!行け!」
つい格好付けたけど、俺の意思を尊重したのか読み取ったのかライフにダメージを与えに行った。
仮にもフェアリーに攻撃したならばメリアスで上から討ち取られる可能性は十分に有り得る。しかし、2体を使って討ち取りに来る可能性は0だ。
何故なら相手に不利益であるからだ。
相手は2体で2ダメージを与えられるのに対し、そのフェアリーは1しか与えられない。
わざわざ2ダメージを与えるのをやめ、1ダメージを消しに来るのは愚の骨頂。
つまり、ここは果敢にライフへ与えるのが正しいのである。
「くぅ!」
ルーラのライフ 19
そういえば、このルーラというアルラウネの少女はライフが0になるとどうなるのだろうか……。
「ターンエンド」
怖くて聞くことが出来なかった。
とりあえず、戦闘シーンは分割ですね。
まぁ、最初ですから色々と説明することもあり長々書いちゃいましたけど、ここで分割で良かったのかな?
少し短いと感じたらもう少し伸ばしますね。