第14話 BOSS戦「敗北は来るまで気付かない。」
突然の勝利宣言に俺はただ相手の最初のターンの挙動を見送るしか出来ない。
未知のカードを所持している可能性は非常に有り得るために想像しか出来ないのだ。
1ターン目
アルのターン
ライフ30
スキル 防御増加(3/3):ドロー操作(3/3)
MP1/1 手札6枚 墓地0枚
「私は手札から削り合いを発動します。」
MP0/1
無 1 S/★「削り合い」
効果 お互いのデッキの上から3枚を墓地に送る。
お互いのデッキの上から3枚が裏向きで墓地に置かれる。こちらから確認する方法はなく、墓地に関する効果を使用しなければならないだろう。
デッキ破壊カードから導かれる答えは2つ。墓地デッキかミルデッキだろう。墓地デッキとはその名の通り、墓地を使用するデッキのことだ。
墓地にあるカードを手札に加えるや召喚するなど様々な効果のカードが存在する。
それに対してミルデッキとはデッキ破壊のことだ。
相手のデッキを破壊しつくし、ドローできなくなることによる特殊勝利をねらうものだ。
この時点で恐らくはそのどちらか一方なのだろうと予想はついたが、後方ならば対処の仕方もなく手札の6枚で削り切られる可能性も0ではない。
対処出来ぬのなら速攻で終わらせれば良いだけのことだ。
「ターンエンドです。」
「俺のターンドロー!」
時坂のターン
ライフ20
スキル 戦闘特化攻撃(5/5):ドロー加速(3/3)
MP1/1 手札6枚 墓地3枚(???×3)
手札の中にこれと言って出せるカードが存在しない。ならば、スキルを使っておこう。
「ドロー加速発動!」
ドローをしたタイミングでMP1を支払い、1ドロー出来るスキルだ。ドローはMPを増やした後で行うので、スキルも発動出来るというわけだ。
MP0/1 ドロー1
MPがない以上やることはないし、ここはエンドだな。
「ターンエンドだ。」
「ドロー。」
2ターン目
アルのターン
ライフ30
スキル 防御増加(3/3):ドロー操作(3/3)
MP2/2 手札6枚 墓地4枚(削り合い×1、???×3)
「魔力補充を発動します。」
MP0/2
MP+1 MP1/3
無 2 S/★「魔力補充」
効果 デッキからMP+1する。
「そして、削り合いを発動します。」
MP0/3
無 1 S/★「削り合い」
効果 お互いのデッキの上から3枚を墓地に送る。
くっ、これで6枚墓地か。
デッキ破壊の割には自身のデッキも削ってるように見える。3つ目の可能性としてはハイブリッド型だろうか。
日本語に直せばわかるが、複合型デッキ。つまり、墓地とミルの両方を兼ね揃えたデッキだ。
デッキ破壊をしつつ、盤面が危うくなったら、盤面処理をしに行くと言ったデッキだ。
まぁ、今のところデッキ破壊とマナブーストしかしてないから、そういうことも有り得るというだけで確かなものではない。
ただ、今後の挙動を見ているだけならば本当に負ける。
あの勝利宣言もドローをしたあとであり、する前ではない。キーカードが手札に揃っているからではないのか?
何かしらの挙動をこちらが先に起こさないとな。
「ターンエンドです。」
「俺のターンドロー!」
時坂のターン
ライフ20
スキル 戦闘特化攻撃(5/5):ドロー加速(2/3)
MP2/2 手札8枚 墓地6枚(???×6)
ドロー加速でドローしていてよかった。2ターン目に強カードが来てくれた。
「手札から三匹の幼精を発動する!」
MP0/2
火 2 S/★★「3匹の幼精」
効果 デッキから「幼精サラマンダー」を3体召喚する。
小さなサラマンダーが3体召喚される。召喚した時の火の吐息も小さく、可愛らしい。
火 1/1/2 R/★「幼精サラマンダー」
コスト2で3体並ぶというのはなかなか強いカードだ。全体補助をする前とかに軽く使えるので重宝されるカードだ。あとは、デッキ圧縮にも役立つしな。
「ターンエンドだ。」
これで相手も多少は動きを見せてくれると信じたい。ライフ30に対して3ダメージは大したことなくとも、3体も居るならば全体バフする可能性ぐらいは考えているだろう。
さて、どう動いてくる?
「ドロー。」
3ターン目
アルのターン
ライフ30
スキル 防御増加(3/3):ドロー操作(3/3)
MP4/4 手札5枚 墓地9枚(削り合い×2、魔力補充×1、???×6)
「手札から魔力増力剤を発動します。」
MP0/4
MP+2 MP2/6
無 4 S/★「魔力増力剤」
効果 デッキからMPを+2する。
「更に削り合いを2枚発動します!」
無 1 S/★「削り合い」
効果 お互いのデッキの上から3枚を墓地に送る。
お互いのデッキから既に12枚のカードが墓地に送られた。俺の切り札も2枚しか入ってない為にこの12枚の中に入っててもおかしくはない。
それにしても、相手のデッキが全く読めない。
3種のカードを使用したとはいえ、全て無属性のカードで何属性のデッキかさえも情報がない。
コレは非常に不味い。
何デッキかすら把握も出来てないのに、相手は着々と準備を進めている。。
それに対してこちらはアグロだと言うのに全く相手のライフを削れていない。
盤面だけなら有利だが状況としては不利だろう。
「ターンエンドです。」
「俺のターンドロー!」
時坂のターン
ライフ20
スキル 戦闘特化攻撃(5/5):ドロー加速(2/3)
MP3/3 手札8枚 墓地12枚(???×12)
場 1/2幼精サラマンダー×3
「手札からレプラコーンを召喚する!」
MP0/3
MP+1 MP1/4
無 3/3/2 R/X「レプラコーン」
効果 召喚時、デッキ一枚をPP+1する。
召喚陣からイルカの尾を持つ人魚が出てきた。
効果によりMPが追加される。
「更に幼精サラマンダーで攻撃時戦闘特化攻撃を発動!」
MP0/4
幼いサラマンダーの内1体だけ火力が強まり、合計で4打点アルに与えられた。
アルラウネにとって火は天敵であり、その身に降り注ごうならば、些細な痛みでもかなり怯えるものだが、アルは一切動じることなく耐えきった。
その表情には無理して耐えたというようなものではなく、冷や汗すら掻かず、何もされなかったと言わんばかりに食らう前と全く変わらない。
アル ライフ26
ライフ30、今更ながらだが、化物だな。
全く減った気にならない。もし、1ターン目から動けたとしてもここに3打点増えるだけ。
こっちの世界にきて初めてのボス戦は、現実じゃないと味わえないプレッシャーと楽しさがあるんだな。
こちとら元上位プレイヤー。
絶対に何としても噛み付いてやる。
「ターンエンドだ。」
「私のターンドロー。」
4ターン目
アルのターン
ライフ26
スキル 防御増加(3/3):ドロー操作(3/3)
MP7/7 手札3枚 墓地18枚(削り合い×4、魔力補充×1、魔力増力剤×1、???×12)
この時点で既にお互いにデッキが半分となった。
まだ、4ターン目なのにもう終わりそうな予感がしてくる。6ターンで勝つという宣言が現実となりそうで怖いが、どんな勝ち方をしてくるのだろうか……。
「手札から削り合いを発動します。」
MP6/7
無 1 S/★「削り合い」
効果 お互いのデッキの上から3枚を墓地に送る。
どんだけデッキ削るんだよ。
「すみません。どうやら、6ターンも必要なさそうですね。」
なっ……何をする気だ……。
「手札から不利な取引を発動します!」
MP0/7
無 6 S/★★「不利な取引」
効果 自分のライフを半分にし、相手の墓地のカード全てを相手の手札に戻す。戻したカード1枚につき、次に使用するカードのコストを-1とする。
アル ライフ13
13ダメージは流石に痛かったのか、右手で胸辺りを鷲掴みにする。13ダメージは食らったことないが、発狂していてもおかしくない程の尋常ではない痛みが体中を巡ってるはずだ。それなのに、手札のカードを持ち立っていられるその姿はあまりにも異常であった。
いったい、どのような修羅場を潜り抜けてきたのだろうか。
俺の手札に墓地のカードが全て戻る。
「そ…して、手札か…ら、狂気のカーニバルを発動…します!!」
広場の中心の地面から巨大な円型の門が出現した。その門はまるで地獄門のように阿鼻叫喚を表したような装飾をしていた。
ギギギギと開かれる度に死者の声が耳を劈いてくる。
無 10 S/★★★「狂気のカーニバル」
効果 お互いは墓地に存在するリサイデントを全て召喚する。
自分の場にリサイデントが存在する場合は使用不可とする。
不利な取引のせいで、こちらの墓地は0枚だ。それに対して、アルの方には不明のカードが15枚。あの中にどれだけのリサイデントが存在するのだろうか?
「先ずは大木の巨人を3体召喚します!」
木 7/8/8 R/★★★「大木の巨人」
効果 召喚時、「大木の果実」を場に出す。
自分の場にフィールドがあるとき、自縛を得る。
【木 1 F/★★「大木の果実」効果 攻撃力5以上のリサイデントが召喚される度に自分のMP+1する。】
大木が地面から生える。そこから次元を歪曲して、3体の巨人が現れる。3体の巨人の出現と共に大木があった場所に残ったのは巨大な金色に輝く果実だけであった。
2体目が召喚された時、1体目の効果によりMP+1。3体目が召喚された時、1体目と2体目の効果により+2される。
MP3/10
「そして、地母神ガイアを2体召喚!」
木 10/5/1 R/★★★ 「地母神ガイア」
効果 召喚時1枚ドローする。そのカードがリサイデントで攻撃力が4以下の場合召喚し、そのリサイデントの体力分ライフを回復する。
緑の髪をしたお姉さんが現れる。周りには螺旋に描かれた支柱が上を向いて並んでいる。白い布の服を着ていて、【リターン・リバース】界で1、2を争う巨乳の持ち主だ。
大木の果実の効果により、MP+6される。
MP9/16
大木の果実の強いところはデッキを消費しないことだ。その代わりに巨人はただの置物となるが、場に出せるリサイデントに限りはない為に、それも不利となることはない。
「ガイアの効果で2ドロー!1枚目はニュンペーなので召喚します!」
木 5/3/7 R/★ 「ニュンペー」
効果 攻撃された時そのターンのみ+3/+0する。
金髪に布の服。背には蝶の羽を羽ばたかせている。
胸は……うん、デカイな。
攻撃力が4以下なので召喚される。
「2枚目に対して、ドロー操作を発動します。」
MP8/16
そのカードをデッキに戻して改めてドローし直した。
「ニュンペーを召喚します。」
どうやら、ニュンペーが来たらしくガイアの効果で召喚される。2体目のニュンペーは少し顔が違ってると思ったら、胸が絶壁じゃないか!
よく見たら、1体目に比べてボーイッシュなように見えるな。面白い機能だ。
「そして、大木の巨人を素材に原初の巨人ユミルを2体召喚!」
木 8/6/6 R/★★★「原初の巨人ユミル」
効果 進化素材「巨人」と名のつくリサイデント
破壊される度に-1/-1して、召喚する。
[攻撃力3以上のとき]守護
[攻撃力2以下のとき]疾走
それは巨人と言うにはあまりにも巨大だった。大木の巨人すら、ギリギリ顔が見えた。しかし、顔どころか下半身すら見えてるのか危うい程の巨体であった。
下半身を見るに鎧を付けているようだが、ここまで大きいのなら核爆弾があったとしても、火傷程度なんだろうな……。
墓地にあったリサイデントが召喚され、俺は余儀なくされ敗北を認めざるを得なかった……。
「サレンダー……。」
そっと、デッキに手を置いた……。
悔しさが胸中を駆け巡る。
ここまで圧倒されたのは久し振りだ。あまりにも運が良すぎて、負けイベントなのかと猜疑心を持ちそうになるが、ここは確かな現実。
あのとき要らない質問をしたことが今のこの状況を作り出したのだ。
こればかりはシステムも関係なく完全な俺のせいだ。それに運も実力のうちなんて言うしな。
ドサッと力が抜けたかのように倒れ込んだ。
「あー、負けたー」
未だに負けたという実感があまり沸かなくてつい声で何度も確かめてしまう。まだ、太陽が昇り切ってない空を見上げて、頭が空っぽになる。
倒れた俺を心配して、アルが闘気を解き、こちらへと走ってきた。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫大丈夫。悔しさのあまりつい倒れ込んじまった。」
こんなにも優しいアルになら初めての負けも良いかもしれないな。
その対戦でVPは50減った。
ランクが違う為に本来減る筈の100が半分になっているのだろう。ランクが1上なだけでは、こんなことは恐らくないのだからアルのランクが非常に気になるところではある。
また空を見上げた。
別段意味はないし、なんとなく見たかったからだ。
この世界に来て初めてのことをする度に不思議と欠けてたピースが当てはまるように充実した気になる。
今の負けだって、悔しさはそりゃ沢山あるけど、負けて良かったとさえ思ってる。
あー、久々に良い試合だった。
満足だわ。
「んじゃ、アールデルートについて知ってることをお話します。」
その後、アルの家に招かれて、そこで話すこととなった。
「俺が知ってるのはこんなことですかね。」
話した内容は俺の元いた世界にも似たようなことがあったということだ。正確にはゲームの世界なのだが、相手も曖昧なことを言ったのだ。例え、勝負で負けたとしてもいう義理はない。
てか、わからないんだろうし、下手なことは言わぬが吉だ。
突如現れた魔王が世界中の国々を潰して周り、最後の砦となったアールデルート王国で勇者が立ち上がり、5人の仲間を連れて、戦っていると。
これだけ聞くならば、如何にもその世界で戦ってるように聞こえるかもしれないが、そこは仕方のない範疇だ。そう勘違いするのならさせておけばいい。
「なんとも歯切れの悪い言い方ですね。」
「そちらもね。」
「わかりました。それで納得しておきます。いつか、私が話すときになったら、貴方も全部話して下さいよ。」
「何のことかわかりませんね。」
苦笑する俺を見て、アルも苦笑する。
お互いに相手の意思を察したようだ。
「それで、これからどうするのですか?」
「そうですね。とりあえず、サラマンダーのデレが帰りたがってますし、一度そちらに行ってみようかなとは思いますね。」
そこにディーラが口を挟んできた。
「私も一度は帰りたいから距離的に先に私の町に行きましょう。」
ここからウンディーネの湖まではそこまで遠くはない。しかも、サラマンダーの住む火山地帯はその湖の向こう側だ。少なくともゲームの世界ではそうだった。
「では、ウンディーネの湖に行ってからですね。」
「それなら、ウンディーネの長に一声掛けておくので着いたら私の名を使って下さい。」
「ありがとうございます。」
素直に感謝を言った。
全部必ず話せよという脅しがその言葉の裏から聞こえてくる。欲しいものがあるなら先に恩を売るのは戦略的に定石だ。
アルだけは、あまり敵に回したくないな。
「フレンド登録もしておきますか。」
更に恩を売って来たよ。
これは話すしかないな。信じてもらえるかどうかなんて関係ない。これだけの恩を押し付けられたのだから、丁重にお返しせねばな。
アルのIDを見せてもらい申請をした。それをアルの方が受諾する。フレンド一覧にはアルの名が刻まれたが、仲間ではないのでLv.0のスキル無しだ。
仲間とフレンドの違いといえば、好感度とスキルと転移だろうか。スキルの入れ替えをするときに強制で近くに転移ができる。
つまり、誘拐されてもスキルの入れ替えを全員分すれば帰ってくるという。素晴らしいものだ。
まぁ、自分は移動出来ないし、仲間から見たら俺ってどう表示されてるんだろ?
その後、幾つかの食料を持たせてもらい、【アルラウネの集落】から離れた。
「あー、アル様と離れ離れかぁ。」
「キーラ、大丈夫よ。すぐに慣れるわ。」
「そーだよ!旅ってきっと楽しいもんだよ!」
「おいおい、適当なこと言ってんじゃねーよ。」
「ソーデスヨ!」
「ルーラは可愛いなぁ。でも、カタコト言葉は少しでも直していかないとな。」
「デスデス!」
次の目的地は【ウンディーネの秘湖】か…。
中に入る訳にもいかないし、どうしよっかなぁ。
とりあえず、アルラウネは終わりましたねー。
次からはウンディーネですよ!
アルラウネはマンドラゴラの亜種と呼ばれてます。
醜い姿をした男の植物がマンドラゴラに対して、アルラウネは美女の集団。この差は一体何でしょうか(泣)
次のウンディーネもまた美女の集団。
男はいつ出てくるのやら……。
では、次回もお楽しみにー!