第13話「初めての朝も目覚めは最悪。」
昔々、とある王国のとある魔術師が居ました。
その魔術師は勇者と呼ばれる者の居るパーティで楽しく毎日を過ごして居ました。
勇者を含めて全員がバラバラの種族を持っており、種族同士の争いが酷いその時代では希望のパーティなどと持て囃されることも多々ありました。
勇者の加護のお陰でアルラウネなのに未だに火で燃やされることがありません。
そんな楽しい日々は災厄と共に終わりを告げました。
突如現れた諸悪の根源魔王の存在により、王国が次々と潰されて行きました。勇者のパーティの一員である私達は当然諦めず立ち向かいました。
しかし、運が尽きてしまったのか、更なる災厄が待ち受けているとは誰が予測出来たでしょうか。
土の中に下半身を入れて眠りに就く前に、彼女は遠い過去のことを思い出していた。忘れられない記憶。もう二度と同じ過ちは繰り返したくないと彼女は誓った。
1度目の災厄は耐え切れた。
もし、再来したとき1度目の災厄は必ず起きるだろう。そのときもまた耐えられるよう、何故私だけが耐え切れたのか考えておかねば…。
きっと、彼女は私をいつまでも放置はしないのだろう。
アルは毎夜忘れぬように何度も思い出す。
そうしないと眠れないのだ。自らの愛した勇者を時間によって忘れてしまう日が来て欲しくないからだ。
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朝聞こえて来る鳥のさえずりがいつもと同じだ。朝の目覚めは最悪で、スマホから流れてくるアニソンにほんの少しの癒やしで今日も起きるのか。
「時坂ー、朝だぞー」
おや、どうやらまだ夢のようだ。朝から起こしてくれる人なんてこの世に存在しない。仮に現実だとしても幻聴を聴くほど精神は参っていない。
「とーきーさーかー、起きろよ」
「……………おはよ。」
「おはよう。朝食べる果物取ってきてやったぞ!」
そうか、俺は転移したんだな。
誰かに、しかも女の子に起こして貰うって素晴らしいな。いつもよりは目覚めが良い錯覚を起こしそうだ。元から朝には弱いから誰が起こそうと大差はないと知った。
デレとキーラは既に起きていたらしく、親睦を深め仲良くなっていた。二人を傍目から見るにまるで姉妹の如くよく似ているので、仲良くなるのも頷ける。
驚いたとすれば、火で出来てるのによく普通に肌と肌で接してるものだ。確かに今は火を纏っては居ないけれど、もし燃えでもしたらどうするのだろうか。いや、それを込みで接してる説もあるな。
なんせ、キーラはドMだしな。
痛いのが気持ちいいらしい。キーラの方へ行って手をつねってみると
「ひゃぁっ!!」
この通り、ビクンッと体を跳ねさせ、その後もじんわりと続く痛みに体を委ねている。
「何をするのだ!時坂!」
「こうすると、気持ちよさそうに見えるからさ。」
「ひゃっ!そ、そそそんなことはないぞひゃっ!」
ふむ、可愛いな。
何かあるごとにつねって女の子らしさを見せてもらうとするか。
「その辺りでやめてあげなさい。朝からキーラの変な声で起きるこっちの身にもなりなさい。」
「変な声って言うなぁ!時坂もからかうのはやめてくれ!」
「悪い悪い。ははは、変態キーラ。」
あ、顔真っ赤にしてる。
昨日まではあんなに挑発合戦弔ったのに、仲間意識が強くなったのかな。それとも、昨日のアレが?
何はともあれ女の気持ちなど全くわからないし今はこれでいいだろう。
「それはともかく、キーラ果物ありがとな。」
「どういたしまして。」
少しは怒ってるらしく口調が強めだ。
だが、そうには見えないし、照れ隠しというやつだろうか。
森の奥からおっとりとした護衛が姿を見せる。
「おはようございます。時坂殿、1時間後に昨日と同じ場所にお集まり下さい。そこでアル様がお待ちしております。では、失礼します。」
そして、帰って行った。
今思えばどうやって時間を知ることが出来てるのだろうか。それともあれか?この世界の住民はダレシモ体内に時計を持ってます的な。
俺の体内時計狂いまくりだぞ。
「なぁ、どうやって時間確認してるんだ?」
「メニューに書いてるよ。そんなことも知らないんだー、時坂は。」
デレって初対面に比べたら本当に変わったよなぁ。キャラメイクするときに威厳ある話し方からジョブチェンジしたんだな。確かに歳相応の話し方だったのかと聞かれるとそうでもないしな。
今は8時だったのか。
1時間後になんて言われたけど、どうせやることもないし先に行くとするか。
「ほら、行くぞー。」
「1時間後じゃないの?」
「ここにいたってやることないし、先に待っとこうぜ。」
取ってきてくれた果物を口に突っ込みながら昨日キーラと戦った場所へと歩いた。
風当たりが良く、気持ちが良い。歩くごとに木々の美味しい空気が肺へと送り込まれ好調である。昨日の疲れもある程度取れたしな。
竹の上で寝るという非日常さには少し戸惑いもしたが、体の疲れが自然と眠りに就かせてくれたのだ。
その整地された広場にアルは既に居た。
まだ、50分も時間はあるというのに来るの早すぎだろ。
「あら、おはようございます。皆様。」
「「「おはようございます。」」」
「おはよー!」
「お祖母ちゃんオハよ!」
ルーラが抱き付き甘えてる。それをアルがそっと頭を撫でている。その光景を見て、自分もいつかこんなふうに出来たらなぁと思いはしたが、それがどちらのことであったのかは定かではない。
「1時間後と言ったと思うのですが、どうかしましたか?」
「やることもありませんし、先に待っていようと思っただけですよ。」
「なるほど、でしたら、立ってるのもなんですし、こちらに座って話でもしましょうか。」
アルが座席の方に歩くので付いて行く。丁度、昼ごろまでは木の影となっていて涼しい場所だ。各々座りたい場所に座ったのだが、俺だけはアルの横に座らされた。
話でもするとか誘われたけど、俺には会話スキルはないし、何話せば良いのか全くわからないな。
こちらから話した方が良いんだよな?一応、おえらいさんみたいだし、これ以上気遣いをさせる訳にはいかないよな。
「何か聞きたいことがあれば、年長者として話せる限り話しますよ。」
なんとかアルの方から話してくれた。
沈黙が起きる前に程よいタイミングで助け舟を出してくれたことにさえ感謝しよう。
さて、聞きたいことと言えば……
「この世界に僕以外人が居ない理由ってなんですか?」
初対面の時に人が生きてることについて大層驚かれたことが印象に残っていた。つまり、アルは人が居た時代を知っている者だということだ。でなければ、人という存在すらわからないだろう。
言葉で受け継がれたとしても実際に会わなければわからないものだ。受け継ぐ際に曖昧なことを言って、妙竹林に伝わることもありそうだしな。
「貴方は魔王についてどのくらい見聞がありますか?」
魔王の話が出てきたということは、魔王が人間を滅ぼして魔族の世界とした的なオチかな。ありえない話ではないが、よく考えたらゲーム時代の魔王も一度として出会うことの無かった謎に包まれた存在だったな。
「この世界に来たのは初めてなので俺の知っている魔王とは違うと思います。」
「そうですか。…人が滅んだ理由はお察しの通り魔王によるものです。そして、魔王は未だに死してはおりません。」
あー、つまりは国造りの最中に邪魔をされる可能性があると示唆してるのかな。
「ちなみに、勇者的な存在は居ないんですか?」
「勇者はもう居ません。いえ、居なかったと言うべきでしょうか。」
過去形に直したということは、勇者は死んだがまた現れたという意味で良いのだろうか。ただ、歯切れが悪いところを見ると魔王を倒してくれる確証がないのか?
「貴方が勇者となるのです。」
「お、俺がですか?」
力強く頷いた。
「この世界の住民でないとはいえ、貴方はこの世界で唯一の人なのです。これが運命でなくてなんでしょうか?」
国造りを女神に本当ならやるべきことだったと突き付けられ、今度はアルラウネの村長に勇者になれと押し付けられる。確かに状況だけ見るならそうかもしれないが、国王と勇者の両方やるとかどんな罰ゲームだよ。
政治と冒険って真反対のことだと思ってたわ。
いや、しかし、これを断るも断らないのも俺の自由。
「無理ですよ。国造り自体やるかもわからない程度の志なのに勇者なんて到底無理です。」
全力で拒否をした。
勇者なんてするような器じゃないし、国造りも別段強制されてるわけじゃない。何の目的もなく生きていくのは辛過ぎるからとりあえずの目標にしてるだけで、実質やる気0だからな。
寧ろ今生きていくことを考えないといけない。この後、どこに行こうとその先々で俺が食べられるものがなければ即詰むようなサバイバルチックな日常となるのは間違いないからな。
自分が飢えてるのも気にせず人助けを出来るような胆力は持ち合わせていません!!
「いえ、貴方でなければならないのです。」
期待されまくりだよ。
この期待と自信はいったい何処から来てるのやら。
「何故俺なんです?俺以外にも強い方々は沢山いるでしょうに…。」
「それは貴方が人だからです。」
俺の目をじっと見てきた。
嘘偽りなく、確かな意志の揺らめきが窺える。
「統率においても力においても人でなければならないのです。」
統率は生物としての性質の問題としても力?筋力や知力なら竜の方が強そうだ。しかし、そんなことはお互いに百も承知。つまり、どんな力だと言うのだろうか。
「力……とは?」
アルとてこんな答え方をすれば、質問されることなど承知していたはずだ。口は開こうと声が出て来ず、魚のようにパクパクとし、黙る。何か言おうとしてはいるのだが、躊躇っている。
「……きっと、いつか気付きます。その日が来るまでにその力を他の者にも与えて欲しいのです。」
言葉を曖昧にし暈される。
何かしらの事情があって言えないのか俺を気遣ってるのか、理由は定かではないがこの調子だとこれ以上聞いても口を閉ざすばかりだろう。
仕方ないからこの話は一旦置いておくとしよう。
他にも聞きたいことを今の内に聞いておくとしよう。
そう言えば、ゲーム時代に存在した筈の王国も恐らくはもう無いのだろうが、その後どうなったのか聞いてみるか。
別に意味のない質問だからこそ、アルも少しは話しやすくなるだろう。もし、元からそんな王国が存在しないとしても笑い話になる程度で終わるしな。
「そういえば、アールデルート王国ってその後どうなったんですか?」
人が滅んだのだから王国も滅亡したのはわかりきったこと。そんなことを聞くのは気を遣ってるのだなと相手も察してくれるだろう。
俺もアルとは仲良くしておきたい。
この世界では頼れるのは自分の腕だけだからな。
「な……何故、貴方がその名を知ってるのですか!!」
肩を突然掴まれ揺すられた。
目を開き明らかに動揺している。
「アル様!どうなされたのですか!?」
ディーラがアルの体に触れるが全く反応することなく俺を見てくる。
名を知っているだけで何故こんなにも信じられないと言った顔をしているのだろうか?
「何故って………それは……」
ゲームの中で見たなんて言えないし、どう説明すれば良いのやら……。
「寧ろ、何故そんなにも驚いてるのですか?」
答えられない以上質問を返して、誤魔化す以外手がない。その質問をした途端、手を離し俯いた。
「………………いったい、何故貴方も知っているのですか……」
「……………」
何も言えない。
「も」ということは少なくともアルは知ってる。そして、名を知っていることに驚かれたということは、他の者は誰も知らないということなのだろうか。だとしても、疑問しか残らない。
「今日の勝負に勝ったら、何故知ってるのか教えては貰えませんか?」
なるほど、確かにアルの方は何の条件も提示してなかった。負けたなら仲間になるならば、勝った時の報酬があって当然といえばその通りだ。
しかし、この世界にゲームなんてあるはずも無く理解など出来ないだろう。
ならば、アルが暈して答えたように俺もはっきりとは言わず曖昧にすればいいか。
「わかりました。負けたなら知ってる理由を話しましょう。」
「そうですか。私は気が変わりました。私の持つ最強のデッキで戦わせて頂きます。」
アルと話している内に随分と時間が経ち、ちらほら観客のアルラウネが座り始めていた。アルは立ち上がりお辞儀をしてからスタスタと歩いて行ってしまった。
「あんなに取り乱したアル様は初めてみますね。」
ディーラが複雑な表情でアルの後ろ姿を見ながらそう呟いた。そういえば、初めてアルと出会った時からディーラは様付けしてたな。
「ディーラはアルのこと様付けにしてるけど、そんなに偉いの?」
「えぇ、あの人が一声掛ければアルラウネだけでなく大抵の木の種族が頭を下げますよ。特に水と木は密接な関係ですからね。」
「まじか。どこの大統領だよ。」
「大統領?」
「あ、いや、何でもない。」
そっか、大統領ってこっちの世界じゃ通用しないんだな。今度からは使う言葉もなるべく気を付けるとしよう。
時間が経つにつれて観客席が埋まっていく。空きが少なくなってきてから俺だけは観客席から立ち上がり、アルの家とは真逆の方角側に立つ。
あと、10分か。デッキとスキルを見直しておくか。
一度確認すると本当にそれで良かったのか不安になり、所持カードを見つつ数度の確認を終えていたらいつの間にか時間となっていた。
木の影から現れたのはアル。
時刻ピッタシにこの戦場に降り立つ。
その目はあの優しきアルではなく、まるで本物の戦場に立ったことがあるかのような鋭い殺気のような闘志であった。
つい、冷や汗を掻いてしまう程にその姿に圧倒された。周りで賑やかに話していた観客もその姿を見た途端、静寂が漂った。昨日のキーラ戦とは明らかに場の雰囲気が違う。
お互いが向かい合うとデッキが出現し、シャッフルされる。それを自身の前に置き、5枚ドローする。
お互いにライフが表示される。俺は20で、アルは30だと!?
これはスキルか何かの効果なのだろうか?
俺のスキルは戦闘特化攻撃(5)とドロー加速(3)。
アルのスキルは防御増加(3)とドロー操作(3)だ。
ライフといいスキルと言い、これはこの世界来て初めてのボス戦だな。
お互いの名前が書かれたコインが現れた回りだす。そして、止まり先行を取ったのは【アル=ルーラ】。
おいおい、もしかして、先行を必ず取るとかそんな機能ないよな?とか思いつつも、相手はドローをした途端、微笑を浮かべた。
余程手札が良いのだろうかとその笑みの意味を考えていたとき、アルは勝利宣告をした。
「6ターンで勝たせて頂きます。」
書いてたらもう一度切って次に送った方がキリが良さそうだったので戦いは次になりました。
いやぁ、カードゲームで1回勝利宣言してみたかったんですよね。
○ターン後に勝たせてもらいます。的な、謙虚なのかよくわからないセリフ。
さて、次もお楽しみにー!