第1話「やっぱり、要らない存在でした。」
今日も朝の目覚めは最悪だ。
スマホから流れるアニソンも朝の寝起きの悪さの前ではあまり意味を成さず、不愉快極まりない。もし、妹が「お兄ちゃん!朝だよ!」などと、何処ぞのギャルゲーのように起こしてくれたならば少しは後味も良かっただろう。
朝のヒンヤリとした部屋の空気と床の冷たさに嫌気が刺しつつも、起こしてくれる者は誰も居ないので仕方無しに起きた。
廊下に出ると妹も部屋から出てきた。
こちらには見向きもせずに、そのまま階段の下に降りてった。この光景ももう見慣れたものだ。目を見てツンとする仕草1つあればまた萌キュンしてたかもしれない。いや、自分の妹相手に萌は無いか。
トイレに行き、お手洗いで洗顔と歯磨きをする。洗面所から出る際に父とすれ違う。しかし、その父も俺の顔を見ることもなく、髭を剃りに行った。これも見慣れた光景だ。
いつものように、自分の洗濯を外から取りそれに着替える。れっきとした現役の高校生である。今日も元気に学んでくるのであります!などとは言わないが、サボるような不良生徒でもないので特に普段と変わらず適当に過ごそう。
学校への通学中は自転車で、ちょいちょい中学時代からの知り合いを見かけるが、彼等からしたら俺は他人である。中には小学生の頃から一緒の知り合いも居るはずなのだが、全くの赤の他人だ。
教室に入って、一番後ろの席に座る。
教科書を机に入れて、スマホを弄る。最近ハマっているカードゲームがある。【リターン・リバース】だ。一言で言うなら、RPGの戦闘シーンをカードゲームにすり替えたような斬新なゲームである。そこそこやってる人は見かけるが、大人気というわけでもなく、CMはなければ、ネットで実況者を見かける事もちらほらと言ったところだ。マイナーではなけれど、有名でもない。
ただ、少し不穏な噂も耳にしている。
このゲームを作った会社が存在しないだとか、データの流出が密かに起きているだとか、噂は様々だ。
所詮は噂であって、曖昧なことばかり。どれが真実でどれが偽りかはわからず、両方が織り混ざっているのが正しいのだろう。データの流出とか個人情報を入力した記憶はないし、アカウント連携もしていないのだから、少なくとも俺には関係のない話である。
イヤホンをしながら対戦しているといつの間にかホームルームが終わっていたらしい。別段、スマホをしていたからと言って取り上げるような学校ではないが、イヤホンをつけてゲームしてる生徒のスマホは取り上げてもおかしくはないのだが、どうやら気付かれなかったらしい。
授業が始まってもゲームをやめずにずっと対戦している。机の中からノートは取り出し、チラチラと黒板を見ては書き写すぐらいはするものの、基本はゲームだ。
机の下に隠して読書をしている者はいるが、俺のように堂々とゲームをしているものなど一人もいない。その読書をしている者も俺と同じように不良ほどではないが不真面目な生徒である。
大抵の教師は彼に注意をしているほど人気者だ。
そして、今回も
「おい!小林!本読んでるということはこの問題解けるんだな?」
今やってるとこを真面目に学んでいたら余裕で解ける問題だ。当然、答えであるところは消してある。授業開始から読書している奴がわかるはずもなく、わかりませんと言うと「立ってなさい」と教師に言われ、周りからは爆笑の嵐。
よく見る光景だ。それだけ注意されて未だに直さないだなんて、どんな神経してるんだ?と内心思ったが、そもそも堂々ととはいえ、ゲームしてる俺が口を裂けても言えるようなことではない。そのぐらいは自覚している。
その後も基本は黒板を写すだけでずっとゲームをしていたが、教師が横を通る場面もやめる気配も止められる気配もなく、放課後となった。今日も誰からも声を掛けられることはなかった。
一度ぶつかったこともあるが、そもそも誰も存在していないとばかりに、不思議がって遠ざかる。まるで、空気にぶつかったかのような顔であった。これも突然起きたことならば、どこかのドラマのように叫び声を上げたかもしれない。もしかしたら、これはイジメなのか?という結論にも達したかもしれない。
けれど、家族含めて全ての人間が俺を居ない者として扱うのは産まれてからのことだ。赤ん坊の頃からなら死んでるのでは?と思うかもしれないが、不思議と育てられはしてるのだ。
こうして、学校に行けるのも不思議なものだが、一種の当たり前に近いものなのかもしれない。
存在しないものの為に育てるシミュレーションを行う。
存在しないものの為に学校に行かせる。
存在しないものの部屋にお金を毎日置いていく。
きっとこれからも俺は存在しないものとして生きていき、誰からも愛されずに、誰からも見向きもされずに生きていくのだと覚悟は決めている。
いつものようにコンビニの弁当を一人寂しく食べて、一応大学に行く為に勉強をしておく。そして、今日も無価値な今日というデータを精算する為に寝るのだ。
そして、朝が来た。
不思議と目覚めは悪くない。
ぼんやりと部屋の天井を見上げると、見上げると?
ここは……何処だ!?
ここに立っているかさえも怪しい程に全てが白い世界。
普通に考えるならば夢だろう。しかし、俺とて気が狂ったわけではない。夢と現実くらいの差はわかるつもりだ。
間違いなく現実である。
しかし、だとすればこの世界に説明がつかない!
「こんにちは、産まれ間違えた者よ。」
どこからか声が聞こえる。
そう、頭の中に反響するような女性の声だ。
「貴方は生まれる筈の世界を一列間違えました。」
「本来であれば、β世界で産まれ、その世界で重要な役割を担う存在となる筈でした。」
「ですから、急遽、貴方にはその世界へと転移させていただきます。」
まじかよ。今までのあの理不尽な全ての言動は、そもそも存在してはいけないものだったからだと言うのか。巫山戯るな!
んな、馬鹿な話ある訳ないだろ!
それに17年そこらしか生きてないからと言って人権というものがあるだろ!この魂をリセットでもする気なのか!?
自分が信じてたものを全て瓦解させるような一言に、反発するしかなかった。というより、しなければならなかった。それでも信じるに値する言葉ではあるが、それを信じてしまえば、今までの自分が無意味だと言ってるようなもんだ。そんな俺の心の叫びを無視されるが、欲しい1つの答えは渡してくる。
「いえ、貴方の記憶と姿形はそのまま転移します。」
尚更、頭悪いだろ!その世界は良いかもしれないけど、俺からしたら突然知らない奴がまるで親友のように話しかけて来るんだぞ!
「問題ありません。貴方にはその役割さえ果たしていただければ良いのです。最初は一人からのスタートとします。」
「そして、貴方にはナビゲートを授けます。最初の戦いまではナビゲートが助けてくれるでしょう。」
おい、待てよ。戦いってなんだ!?
俺の転移先は日本じゃないのか!?それとも、戦時中とかか!?
おい!お前、答えろよ!
おい!
おい!!!
俺の質問に答えてくれ!!
…お……い……………………
…………………お…………
…………………………
──チュン…チュン……
目覚めの悪い朝…か。
今日もまたいつもと同じ意味のない毎日を過ごすとなると億劫になる。俺はいったい何の為に…何の……あれ?座っているような…。
そこは鳥が囀る森の中だった。
街の中ではお目にかかれないほど木々が健やかに育ち、立ち並ぶ森の中。
当然、夢遊病患者なはずもなく、こんな何処なのかもわからない為、森に来る手段もない。
ふと、思い出されるのはあの不思議な夢。
つまり……………てことだよな。
今日、俺はわけもわからないまま異世界に転移しました。
なんだこれぇぇぇぇえええええ!!!!
ずっと、書いてみたかったストーリーだったので、ついつい書いちゃいました。
カードゲームを小説化にするのは大変そうですけど、次回はチュートリアルって感じですかねぇ。
一応、ある程度の軸はもう考えてますけど、オリジナル要素増やしたいので、もう少しいじってきます!
更新は他の小説と同じくらいですね。1話ごとの文字数がかなり増えると思うので大罪庭園とかみたく読みやすさはないものとして考えて下さいね!
では、次回もお楽しみにー!