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亡者の将軍  作者: 無月 空
序章 幻影は嗤う
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慚愧の念

 ルーカスやウィルヘルムの思惑に反して、聖騎士団はすぐに攻勢を仕掛けてきた。幸い王国軍はルーカスが襲撃に備えていたため、斥候の情報をもとに先手を打ち伏兵を仕掛けた。

数十人を囮とし、ルーカスも伏兵となって突入してきた聖騎士団を包囲したのだが、その際に騎士団員たちが妙なことを言っていたのだ。


「術者はイディアルにある、見つけ出し殺せ!」


 術者……つまり、死骸を片付けたのは王国軍の中に魔術師がいるとでも言いたいのだろうか。そんなはずがない。第一、魔術はセフィロトならともかく、王国では禁忌だ。そんな危険な代物を操るものがいるはずがない。

 おそらくこの部隊は死をも覚悟の上で包囲の中にわざと飛び込んできたに違いない。ルーカスにはそう思えて仕方なかった。イディアルにいると教え込まれた『術者』を殺すために。聖騎士団は狂信者の塊だと聞いた。だから恐ろしいのだ。宗教は時に人から死の恐怖を奪い去るのだから。伏兵として現れたルーカスを見たひとりの聖騎士団員が叫んだ。


「こいつだ!司教様の仰った『術者』だ!」


 ルーカスは耳を疑った。なぜ自分が。しかしその一言で聖騎士団員の、血走った狂的な目が己に注がれているのを感じる。はっきりとした狂気に満ちた殺意。殺される。ルーカスの背に冷たい汗が伝った。


「隊長!!」


 部下たちが慌てて駆け寄り盾を形成するが、一点を攻撃されれば包囲というものは脆い。殺到する聖騎士団を一人また一人と屠るものの、騎士団員はルーカスに肉薄していった。ルーカスとて隊の一つを任され元は親衛隊を務めたほどの人間だ。決して腕が立たないわけではない。剣を取り、聖騎士団員に応戦する。一人を斬り、一人を刺し、少しずつ戦力を削いでいく。血の匂いが立ち込める。いつの間にか、ルーカスの周りには部下は一人も残っていなかった。


「っく……!」


 唇を噛み、ルーカスは剣を振るう。いくら腕が立つとはいえ多勢に無勢。ふと呼吸した刹那、左胸に焼けるような痛みを感じた。視線だけを下に向ける。剣が、鎧を突き破り胸に突き刺さっている。目の前には血走った目で純粋な殺意を向けてくる男。唇だけがうごいて、死ね、死ね、死ね……そう呟いている。男が剣を捻る。痛みに視界が揺れた。


「っぐ……ァ…か、は……!」


 苦しみ呻くその時に、今までの記憶が流れた。愛しい妻と息子。剣を取り、王国軍に入ると言っていた。楽しみだと言って頭を撫でてやった。妻は毎回祈りを込めてお守りを持たせてくれた。……そして。金の髪に紫の瞳、中性的な美貌を持っていた、あのひとの顔が思い浮かんだ。


『ついてくるな。お前はここで忠誠を尽くせ。私は必ず戻ってくるから、それまで生きていろ』


 追放された時も、涙をこらえ気丈に振る舞ったあの王子。ルーカスの目から、一筋の涙がこぼれた。それは慚愧の念、無念の涙だった。人は死ぬ間際、刹那の時で一生を振り返るという。これが走馬灯というのだろうか。


『殿下、お許しください。ルーカスは、約束を……』


 そこまでを口の中で呟いてルーカスの視界は真っ暗に染まり、ルーカスは血だまりの中に倒れ伏し、そのまま動くことはなかった。

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