決壊
ひさびさですね。
かれこれ3年ぶりです。
「先輩…。」
…風が冷たい。
下川君が僕に歩み寄ってきた。僕は相変わらずニコニコ笑顔で下川君に相対する。りんは相変わらず黙ったままキツい表情で遠くを見ている。僕に目を合わせようとしない。
「ちょっとごめんよ。下川君。僕この状況が飲み込めない。すまんな。」
「いや、飲み込めた方が凄いですよ。」
「んで?どうしたの?何があったの?僕に話して見てみ。」
「実は…。」
下川君の話だと練習内容に不満を感じたりんが小杉に文句を言ったらしい。すると小杉は最初はその文句を受け入れて練習メニューを変えた。その後の練習でまたりんが練習メニューに文句を言った。どうやらストロークの練習が多いからボレーの練習も増やしてくれと言ったら小杉が今までのストレスもあったのだろう。小杉がキレて今に当たる。
「なるほどね…。」
僕ははあ、とため息を吐くと部員達に。
「よし、練習しよ!僕早く打ちたいんだけど!」
「え!?先輩この空気でよく言えますね…。」
「え?早く打ちたいじゃん。今日は関口先生に捕まってこんなに遅くなったんだ。テニス欲が出て大変なんだ。早く打とう!
りんもやるよね?」
りんは黙って僕の言動を聞いていたが僕が問いかけると黙ってコートに向かっていった。
それを見て下川君はボソッと。
「…流石、先輩。」
僕はこの時、空気を読まないことを選んだ。今でもベストアンサーだと思っている。りんや小杉がどう思ってるのかは分からないが…とにかくこれが最善手だと思って行動した。それだけだ。
「よしサーレシ(サーブ&レシーブ)やろー。あれなら今のテニス欲払拭できる。
はいはい!みんなサーレシやるよ!」
こうして僕達の練習は再び始まった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…はい!ボールアップ!」
僕はそう言ってボール拾いをみんなにさせた。
りんは終始黙ったまま黙々と練習をやり続けた。それを見て僕は敢えて何も言わなかった。いや、みんなの前では言えなかった方が正しかった。何を言おうか迷っているうちに練習が終わった。
…何しているんだ。僕は。
そう思いながらも、僕はボールを拾わずにぼーとしていた。
「先輩!この後どうするんですか?」
「…。」
「…先輩?」
「すまん、下川君。考え中。堪忍な。」
考えなきゃいけない。
分かっていているけど分からない。
なあ。雪宮はさあ。なんで気付かないフリをするの?
先輩。これですか?気付かないフリをした結果がこれなんですか?僕には分からないです。
僕は分からない。昔から人を笑わせることが出来ても壊れた関係なんかは治せなかった。どこかの曲のフレーズにあった。時間が回り始めたんだ。
「なら僕は…。」
いつの間にかコートの隅にいた僕の周りには後輩達がいた。僕はニコッと笑って。
「今日はここまで。みんなは帰っていいよ。
あ、りんは残ってね?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…。」
「…。」
みんなが帰った後、僕達はいつもの部室前で黙って座っていた。僕は少し考えてから部室裏に何故かある自動販売機で2人分の缶ジュースを買ってりんに渡した。
「ほら、今日はサービスだよ。」
「…。」
りんは黙ったままだった。僕は缶ジュースのプルタブをあけて中身を飲む。いつもは甘ったるいこのジュースも何故か今日は何も味がしなかった。
するとりんはボソッと一言僕に。
「佳は…優男だね。」
「ん?そうかな?僕はそうでもないと思うけどね。」
僕ははあ、とため息をついて。
「下川君から聞いたよ。練習方法でもめたんだって?まあ、そういうときも…」
「佳。」
僕は敢えて空気を読まずに軽口を叩こうとしたがりんが僕を呼んだことで黙った。隣のりんを見ると彼女は泣いていた。
「ねえ!?佳!あたしはどうすればいいの!!
あたしには分からないよ…」
そう言ってまるで小さい子が泣きじゃくるようにりんはわんわん泣いた。涙が地面にぽつりぽつりとどんどん落ちていく。まるで雨のように、今までの思いが吐き出されたかのように。
僕はふたたびはあ、とため息をつくと、肩をぽんと叩いた。
「よく頑張ったよ。りんは。」
わんわん泣くりんに僕はそれだけ言うと隣で泣き止むまで黙って座っていた。
この時の佳はとても考えたと思います。これを書くのに3年かかりました。難産でした。ありがとうございます。