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あの時のボクタチハ  作者: ケンケン4
3/7

さらに過去に

と、幸せな世界になった頃を思い出した僕はふっと微笑んでベッドに寝っ転がった。ベッドの横には部活動の時に使っていたラケットバッグ。少々くたびれたそれを見ると様々な思い出が脳裏に浮かんでくる。


どこかで見た様な…。


ふとラケットバッグの隣にある缶バッチをみる。さてさてこの缶バッチ。変なカエルがニヤついている意味不明な缶バッチなのだが…。僕にとっては忘れてはいけない品物だ。

僕はその缶バッチをラケットバッグから取ってベッドに寝っ転がりながら天井に向けて見つめてみる。


「はたまた。

これはあの時の…嫌だね…。」


僕はふっと目を閉じてみる。すると頭の中にある日の記憶が蘇ってくる。

僕が好きだった…先輩達と創り上げた世界を壊された日を。




ねえ⁉︎佳!あたしはどうすればいいの‼︎

あたしには分からないよ…‼︎




そう言ってりんが泣きじゃくる中…。僕はなんて言ったっけ?

その記憶を呼び戻す為に僕は意識をどこか遠くの方へと手を伸ばしていた。







































































「先輩なんですか?いきなり呼び出して?」


佳はそう言って昼休みに図書室に呼び出した先輩に話しかける。机の向かい側に座る先輩は今の部長の前…。一つ上の代だった。成績優秀。性格も優しく。おまけにソフトテニスは二年前から始めたのにも関わらず部内最強。まさに理想の部長。そんな部長に佳は憧れを抱いていた。

メガネをかけていつもにこやかに笑う先輩は今行っている勉強を止めて佳の方をじっと見ると突然変な事を聞いてきた。


「なあ。最近部活いい感じ?」

「いい感じ?と言いますと?」


すると先輩はシャーペンをクルクルと器用にペン回しをするといつもと変わらない様子で聞いてきた。


「ほら?この前の大会。雪宮は小杉と組んで全国ベスト4の相手とファイナルセット (普通のテニスで言うタイブレーク)まで持ち込んだでしょ?」


負けちゃったらしいけど。と先輩は付け加える。この前の大会。小杉…まあ現部長とタブルスを組んで県大会のベスト16まで勝ち進んだ。

小杉は強烈なストロークを武器としつつ粘りのテニスを心情として。佳はさっさとネット前に出て相手のボールをボレーするという攻撃的なテニスを心情としていた。

その二つが融合した時はとても強い。現にこの全くやる気のないこのテニス部で成し遂げなかった県大会ベスト16に輝いたのだ。


「まあ、この前の大会は勢いですよ。」

「またまた。謙遜しちゃって…。」


クルクルとシャーペンをペン回ししていた先輩は不意にペン回しを止めて佳を睨みつける。

いつも優しい先輩が睨みつけてくるのだから佳は少し身構える。


「なあ。雪宮はさ。なんで気付かないフリをするの?」

「え?」

「その態度も。ひょっとしてそれもフリなのか?」


先輩はいつもの優しい口調から一転。冷たく責める口調で佳に問いかけてくる。

いつもライトノベルが沢山あり賑わっているこの図書室の騒音も佳の中では先輩の言葉しか届かなくなる。


「なあ、小杉と鈴屋が付き合ってるのは知ってるか?」

「…。」


知っていた。だけどこの時僕は口に出せなかった。これは先輩達との教訓とその約束だった。 (ちなみに鈴屋はりんの苗字。)

すると先輩は珍しくめんどくさそうに頭を掻くと佳に向かって真面目な顔で。


「なあ、前にも話したと思うけど…。部活を壊す1番の方法って知ってるよね?」

「『部内恋愛』。特に役職に就いている人同士の。」


正解。

そう先輩が呟くと今まで出していたノートとシャーペンを仕舞うと。先輩はにこやかに笑う。


「まあ、お前達の代の部活はお前達で創りだせばいい。まあ、忠告はしておいたよ。」

「なんで…。僕に言うんですか?」


佳は先輩にそう聞き直した。この話だったら小杉かりんに直接話せばいい。なのになんで僕にこんな話をする?すると先輩はふっと意味ありげに笑って。


「雪宮だからこそ言えるんだよ。お前はソフトテニスが好きだろ?」

「?どういうことですか?」


佳が分からない顔をする中、先輩は再びテーブルに座ると今度は違った角度で質問してきた。


「ならお前は鈴屋の事をどう思っている?」

「口うるさい副部長です。」


佳が即答すると先輩はノートと参考書、筆箱を持って黙って図書室をでようとする。

…いや、黙ってには語弊がある。佳の隣を通り過ぎる時。


ならそれが答えだ。


と低い声で呟くのを佳は聞いていた。佳は先輩の図書室から出る後ろ姿を黙って見つめる事しかできなかった。




かったるい授業を終え放課後。今日は練習は休みという事で佳は放課後の講習に出ていた。いかんせん佳は赤点常習者。無理矢理出させられていたと言っても過言ではない。


「…。」

「雪宮君!question3の問題は?」

「適当にbで。」


僕はこう見えても講習はちゃんと受ける派なのだが今日は頭がちゃんと入らない。むしろ先輩に言われた言葉が頭の中をエンドレスループしている。


雪宮だからこそ言えるんだよ。お前はソフトテニスが好きだろ?


その問いにはもちろん即答出来る。ソフトテニスが大好きだ。サーブを放つ緊張感。相手がどこに打ってくるのを感じる瞬間。そしてボレーを決める快感。みんな好きだ。それはもちろん言える。

だけど…。僕は先生が問題について解説を黒板に書き始めたので慌ててメモをノートにとる。


ならお前は鈴屋の事をどう思っている?


その問いも簡単だ。口うるさい副部長。まあ、ソフトテニスの腕前は男子と打ち合えるほどだからうまいと言えばうまいだろう。それだけだ。

僕はペン回しして少しだけ考える。そういえば先輩は…。


なあ。雪宮はさ。なんで気付かないフリをするの?


「気付かないフリ…か…。」


僕はふとペン回しを止めてちらっと窓の外を見た。

快晴の空だが遠くの方に黒い雲が見える。まあ家に帰った頃に降り出すだろう。

帰り道は安全だ。と思いながら僕は講習を真面目に受け始めた。

そしてそれと相反する様に僕は心の中で呟く。


先輩。気付いてるんです。人間関係の壊れる音が聞こえてきてるって。


僕はもう一度窓の外を見て先生に「日の光が気になるのでカーテン閉めていいですか?」と断りを入れてカーテンを閉め切った。

辛い思い出って一気にフラッシュバックする。


次回もよろしくお願いします。

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