過ぎたあの時
ふと僕は昔の事を考える。
いろんな雑貨や雑誌、小説が散らかり埃まみれな部屋の中。質素なベッドの上で大学の休みを満喫していた。よくある昔『あの頃はとても嫌だったけどいざ思い出してみるととても楽しい記憶だった。』と考えるだろう。おそらくこの時代を生きてる人は一回は考えた事があるのではないか?
僕も…そんな考えの1人だ。
「いやはや。あの頃はいろいろありましたね。っと。」
そんな僕の過去の話。
中々に愉快で痛感で軽快な。そんな話。
「先輩?何してるんすか?」
「ん?」
先輩。と呼ばれた少年はニコニコしながらプリントを読んでいた。
ここはとある高校のソフトテニス部グラウンドの部室前。このグラウンドは高校から3キロ離れた場所にあり、自転車で行かなくてはまずテニスする前に疲れきるというなんとも悪い位置でもあった。
そこにはふわふわした雰囲気の短髪の少年と背の高い少し髪が長めの痩せ気味な少年…おそらく後輩だろう…男子2人がいた。
すると短髪の髪の先輩らしき少年は待っていたとばかりに。
「ふ・ふ・ふ‼︎よく聞いてくれた!これは新入生歓迎のポスターだよ‼︎」
「ポスター?…ああ、新入生歓迎会はもうすぐでしたね。」
どの高校にもあるありふれた新入生歓迎会。そこでどの部も新人獲得の為にポスターなり、特別練習なり様々なパフォーマンスをする。
そうして新入生のポスターに書いてあるのは…。
背の高い少年はそれを上から覗き見て見て真顔で一言。
「先輩?それはなんですか?このナスカの地上絵見たいな絵は?」
そう、ソフトテニス部新入生歓迎‼︎の文字はとてつもなく綺麗に書かれているがその下。まるでナスカの地上絵の宇宙飛行士の様な姿の人らしきものが書かれていた。ちなみに右手にハエたたきらしきものを持っている。
その後輩の質問に関して短髪の髪の先輩は頬を膨らませると反論を口にする。
「酷いなー‼︎これはどう見てもテニスでボレーをしている男子の絵だよ‼︎」
自信満々のポーズをする先輩を見て後輩の方は何かを察したらしく。
「⁉︎…はい。先輩が言うならそうなんですね…。」
そう言って後輩は溜息を吐くと肩入れをして準備体操をし始めた。先輩の方はうーん…。と唸ってポスターを睨んでいる。すると…。自転車に乗って来た少女が一人。
「うぃーす。」
「よ。副部長様のおなーり!」
「茶化すな。」
副部長と呼ばれたそのセミロングの髪の少女は短髪の少年とまるで漫才かの様なやり取りをすると自転車を部室前へと停めた。そして短髪の少年に向けて問いただし始めた。
「んで部長。書けたの?ポスター?」
「んー?書けたに決まってるじゃん?自信作だよ?」
そう言って部長はポスターを副部長の少女に見せる。すると先ほどの後輩と同じ様な真顔でそれを見て準備体操をしている背の高い後輩に話しかける。
「ねえ下川君。佳じゃやっぱり無理だった見たいね。あたしがやった方がいいね。」
「そうですね。というかりん先輩がやった方がいいですよ。」
「ちょっと2人共⁉︎特にりん!酷くない⁉︎」
佳と呼ばれた少年は心底驚いた様で2人を見比べる。すると下川君と呼ばれた背の高い少年はしーらないと言った雰囲気で話の途中にやって来ていた他の同級生の方に行く。さらにりんと呼ばれた副部長は溜息を吐くと佳の肩を叩き。
「あのね…。佳はいつも通り部活を纏めれば良いの。ほら?これは適材適所って言うでしょ?」
「うーん…。」
そう言って佳は空を見上げていた。雲一つもないその空はまるで今のソフトテニス部の障害が無くなった現状を表している様だった。でも…。
それで君はボロボロになっちゃったんだよな。
そんな佳の心境を知ってか知らずか。下川君が佳の所に同級生を引き連れていつの間にかにやって来ていた。
「先輩。とりあえず練習しましょう?」
「…せやね。とりあえず準備体操がてら全員、乱打!」
「「「「「「「はい‼︎」」」」」」」
そう言って次々にコートに散ってい部員たち。するとりんはいつもの強気な顔で佳に笑いかけて来た。
「ま、いいんじゃない?佳は佳らしく。そうすれば部員たちは付いて来てくれるよ。」
「りん…。」
「っと…!あと乱打の相手お願いね?」
「あいよ。」
そう言ってりんは佳が力強く頷いたのを確認してコートの反対側へと駆け足で走って行った。
「佳は佳らしく…ね?」
佳はりんの行った言葉を自分の中で復唱するとコートの反対側にいるりんに向かって打ち頃のボールを打ち込んだ。
とある高校。この高校ではソフトテニス部は男女混合で活動していた。理由は何故だか。まあ、ソフトテニスはマイナーとメジャーの間くらいのスポーツなのでなんとか部活動としてやっているが実際問題同好会に毛が生えた程度の部費とヤル気の無い部員で構成されていた。
そんな部活だからこそトラブルは起こる。そのトラブルで部長は辞め、3年生は佳とりん。2年生は下川を含めて6人という人数になってしまっていた。
「…よし、ボールアップの後。10分休憩。」
佳はいつも通りりんとラリーをすると。そう言ってあくびをしながら適当なボールを拾う。とても黒ずんで汚くなっているがこの汚さは佳にとっては好きだった。
「よっと…。」
ラケットでボールをまるでボールと遊ぶ様にリズミカル弾いていた。それはまるでラケットが手の一部の様に。
「相変わらず上手いものですね。」
そう言って下川君が佳の近くにあるカゴにボールを入れる。佳はニコッと笑ってラケットのフレームにボールをバランス良く乗せる。
まるでピエロが玉乗りをするかの様な安定感だった。
「そうかな?」
「ラケットコントロールだと先輩に勝てませんよ。」
そう言って下川君はニヤッとした挑戦的な態度で佳に向かって語る。それはまるで佳に向かってそれ以外なら勝てるとでも言いたげな雰囲気だった。
すると佳はニコッ笑って。
「せやなあ…。これ以外だと下川君に勝てんな。だけどね。」
ラケットのフレームに乗ったボールをまたも器用にフレームでトン、と当てるとカゴにボールが吸い込まれる様に入っていった。
「それでも僕はテニスが好きなんだよ?勝てなくてもね?
…それに。」
すると今度は佳が挑戦的な…いや見下す様な眼で下川君を睨む。
「ソフトテニスはダブルスだからね?1対1で勝てなくてもパートナーと力を合わせれば勝てちゃうんですよ?ワンマン下川君?」
そう言って佳はラケットで手を振るようにヒラヒラさせて部室前へと向かって行った。取り残された下川君はそれを聞いてポツリと一言。
「…漫画の主人公みたいな事を言えちゃうのが先輩なんだよな…。」
そう呟いて下川君は佳の後を追って行った。すると佳はニコニコしながらしながら自転車に腰掛けながら部員を集めてお話しをしていた。
「さてさて‼︎今度!新入生歓迎会があります!ここで絶対部員をモンスターをゲットだぜ!みたいな感じでゲットして行きたいと思います!」
「それでどうするんですか?先輩?」
すると今度はメガネをかけた真面目そうな少年が佳に質問していた。すると佳はその少年にビシッと指差し。
「いい質問だ‼︎南田君!それはもちろん…。
僕のトークショー。」
「やめなさい。」
トークショーと佳が言った瞬間に佳の近くに立っていたりんから却下の声がはいる。さらに南田君からもため息まじりに。
「先輩…。そう言ってこの前の中学生対象の部活説明会で『僕のサインが欲しい方は後で僕の所まで!メアドも受け付けるよ!』とか言って中学生とその保護者の方に笑われてたじゃないですか?」
佳はそれを聞いて顔を少し赤くする。それを見てりんは呆れた顔で。
「これだから佳は…。」
「あのね。りんそのね。その…。」
佳も忘れた訳では無かった。中学生対象の部活説明会の時。とりあえず最初は元部長が喋っていたのだがなんかインパクトが足りないなと思ってマイクを元部長から取って喋ってしまったのだ。
「と、とにかく考えよ!今日の練習終わるまでにアイディア出しといて?」
佳はそれを言ってまるで逃げるようにコートへと走って行った。
それを見てりんはラケットを持つと後輩である部員達に。
「とりあえずみんなも一応考えておいて?あたしと佳でも今日話し合っておくから。」
「それの方が安心です。」
そう言ってみんなの心が一致した所でコートの方から元気な声が聞こえてきた。
「みーんーな‼︎はーやーく‼︎」
「相変わらず部長は元気ですね。」
下川君はそう呟くとりんはまんざらでもない様子で呆れながらも笑って。
「あの佳の元気にみんな引っ張られてるんだから。」
そう言って部員達はニコニコ元気印の部長の元に向かい始めた。
初めまして『暁』にも投稿しているケンケン4です。
完全オリジナルのこの作品。不定期ですが僕の思いが込められています。
感想や批判などよろしくお願いします。