2・行進
今日は冷凍食品の半額セールだ。スーパーに着き、自動ドアの前に立つと、店の中が異世界だった。
『待っていたぞ。生まれ変わった私を見てくれ』
低く不気味な声がして、目の前が広い荒野になる。
空は雲ひとつない青で、遠くには裸木や岩山が見える。赤茶けた大地を、太った男たちが行進してくる。
「肉まんあんまん肉まんあんまん」
「ギョーザまん! ギョーザまん!」
「たいやきアイス、たいやきアイス」
「肉うどんー! 肉うどんー!」
男たちはみんな同じ顔をしていて、頬肉に押し上げられた目をぎらつかせながら歩いてくる。体操着のような服からのぞく腕と足はむっちりと太く、歩くたびにぶるんぶるんと振動する。
縦にも横にも、果てしなく並んでいる。無数の男の無数の口が、同じ言葉を唱えながらやってくる。
「肉まんあんまん肉まんあんまん」
「ギョーザまん! ギョーザまん!」
りん子は靴を脱ぎ、前列中央の男に向かって投げた。
『ぐえっ』
でっぷりとした腹に靴が当たり、男はかがみ込んだ。一人が歩くのをやめると、横に並んでいた男が全員止まった。後ろの列が無理矢理進もうとして押し寄せ、さらにその後ろの列が押し寄せ、肉がこすれ合って煙を上げる。
りん子はもう片方の靴を脱ぎ、塊になった男たちに投げた。ぽふっと気の抜けた音を立て、男たちは破裂してしまった。空と大地は溶けて混ざり合い、ケーキ種のように薄く伸びて消えた。
明るい音楽が聞こえ、りん子は我に返る。買い物客が次々とドアを抜けていく。慌てて靴を履き、籠を片手に、安売りのアナウンスが流れるほうへ向かった。
「良かった、まだあったわ」
うどんと羽根つき餃子のパックを二つずつ買い、スーパーを出る。他の食べ物のことが頭をよぎり、後ろ髪を引かれたが、全部買っていたらきりがない。たいやきアイスなんて、開けてしまったら全部食べきるのが大変だ。
『見た目より用心深いようだな』
また声がやってきて、一瞬で通り過ぎていった。